箱根駅伝と同じような熱気に包まれる「米クロスカントリー」に挑む岡田 健さんへインタビュー
Jul 28, 2016 / MOTIVATION
Apr 26, 2019 Updated
アメリカ西海岸カリフォルニア州のサンフランシスコ湾東岸にあるバークレー。
アウトドアブランドのザ・ノース・フェイスが1968年に創業した場所として知られています。
そのバークレーで奮闘する一人の若き日本人ランナーがいます。
彼の名は、岡田 健さん。
岡田さんは高校時代に世界大会出場の実績を持ちながら、選んだ進学先は箱根駅伝強豪校でもなく、実業団でもなく、アメリカ留学の道でした。
2015年3月に、國學院久我山高校を卒業しその後、カリフォルニア大学バークレー校 (University of California, Berkeley:以下、UCバークレー)に合格、2015年の夏に渡米しました。
前編では主に、岡田さんの高校時代の競技と勉学との両立、世界大会で日本代表のユニフォームを着て、その身で感じたこと、そして、アメリカ留学の決意と受験勉強、全国高校駅伝へ向かうチームをまとめる主将としての姿を追いました。
(前編はこちら)
今回は、日本を離れた後の岡田さんのアメリカでの学生生活と陸上競技 / クロスカントリーとの両立、そして、2年半ぶりに1500mの自己ベストを更新したレースと今後の目標について伺いました。
アメリカでの苦悩
—高校卒業から2ヶ月後の2015年5月に、UCバークレーに現役合格。そして、その夏にはすぐに渡米。純日本人として日本に生まれ育った岡田さんですが、慣れないアメリカ生活は相当にキツいものでしたか。
渡米する前から相当キツいだろうと思っていましたが、その想定よりもはるかに上回ってしまいました(苦笑)。
僕は純日本人として育ちましたので、英語での会話、授業など慣れない環境がとにかく大変で。。。
あとは、日本と同じ感覚で食事を摂っていたら、油の量が日本よりも多いこともあり、体重が増えてしまいました。
最初のうちは困難の連続でしたね。。
アメリカの大学のスポーツは季節ごとの選択制なのですが、最初はクロスカントリー部に所属しました。
そして、チームでは唯一の日本人どころか、唯一のアジア人でした。
とはいえ、チームの皆は本当に優しくて、英語を上手く話せなかった僕にも気さくに接してくれました。
普段からもフレンドリーですが、チームメイトの誕生日にはホームパーティーをしたりして交流を図っています。
—秋に新年度が始まり、岡田さんのような中長距離選手であれば通常、11月のNCAA(全米大学体育協会)の全米大学クロスカントリー選手権をチームで目指し、冬は室内陸上、春は屋外陸上と過ごしていくのが通例でしょうか。
はい、概ねその流れです。
僕はとにかくアメリカの学生生活に慣れる為に、最初はアメリカでの学生生活への適応の期間として数ヶ月要しました。
最初のクロスカントリーシーズンの多くは見学する事で学びました。
そして、自分が得意な中距離のトラック種目には今年の春頃から出場させていただきました。
その中で、日々の勉強もそうですが、やはり期末テストの時期などは非常にハードですね。
課題の提出や文献をたくさん読んだりして、相当なフラストレーションが蓄積されます。
—単身での留学生活ですし、ツラい事もたくさんあったと思います。
もう本当に、、、何回も逃げ出したくなる事はありました(笑)。
それでも、短期的にストレスやフラストレーションを抱えても、自分が思い描いている長期的なビジョンを思い出し「何の為にアメリカに来たんだ」と自分を奮い立たせて、気持ちを切り替えるようにしています。
それに、勉強に関しては、UCバークレーの周りの学生も非常にモチベーションが高いので、「自分もしっかり勉強しなきゃいけない」という気持ちになり刺激を受けています。
2年半ぶりに自己ベスト更新
—岡田さんが所属する、UC バークレーのクロスカントリー / 陸上競技の中長距離チームはどういったチームですか。
UCバークレーの大学スポーツの殆どがNCAA (全米大学体育協会)のなかで、ディビジョン1 (1部リーグ)です。
アメリカは多くの大学があるので、D1である事は重要で、日本でいえば関東インカレ1部の大学、というところです。
チーム内では、僕より速い選手がたくさんいて彼らと日々切磋琢磨しています。
また、UCバークレーは“PAC-12”というアメリカ西部のグループに所属しています。
この中で強豪校はオレゴン大学、ワシントン大学、スタンフォード大学、コロラド大学といったあたりです。
陸上競技でのPAC-12の対校戦もありますし、クロスカントリーのアメリカ西部予選もレベルが高いです。
このようなレベルの高い中で競技が出来ている事をとても誇りに感じています。
—チーム内の競争もそうですが、素晴らしい環境で競技されていますね。ところで、チームのコーチはどういった方々ですか。
昨年からクロスカントリー部のヘッドコーチとなった女性コーチのシェイラ、彼女は陸上競技の長距離のコーチでもあります。
とても気さくな人で、日本のように“師弟関係”というよりかは選手達にフレンドリーに接してくれます。
陸上競技の中距離を指導しているトニーは、長くUCバークレーのコーチをしていますが、アリシア・モンタノ選手 (ロンドンオリンピック女子800m:5位)や、デビッド・トレンス選手(室内1000mアメリカ記録保持者)らを輩出しているコーチです。
僕が中距離の練習をする時はトニーに、長距離やクロスカントリーの練習の時はシェイラに見てもらっています。
昨年からシェイラがクロスカントリーのヘッドコーチになり、UCバークレーは5年ぶりに全米大学クロスカントリー選手権に出場、チームで23位の成績を残しました。
それぞれにコーチがいますが、選手に自主性を重視させて練習に取り組むスタイルです。
そういった面では僕は、高校時代から自主性を持って取り組んでいたのでうまくチームの練習環境に適応出来ました。
—アメリカでの生活環境にも適応してきて、練習もしっかりと継続して積めるようになり、UCバークレーの公式ユニフォーム=Cal Golden Bearsのユニフォームに袖を通す事となりました。そして、ザ・ビッグ・ミートでの1500mで高校2年以来の自己記録更新。どういったお気持ちでしたか。
今年の4月に、毎年行われるスタンフォード大学との伝統の対校戦“ザ・ビッグミート”の1500mで自己記録をおよそ2年半ぶりに更新出来ました。
ここまでの道のりはとても長かったです。
高校2年の時は記録も伸び盛りでしたが、そこから陸上だけでなく、勉強にも比重を置いた事もあり、記録が伸びずに低迷していました。
そこから、自分の力でUCバークレーに合格し、ここからは良くも悪くも自分次第。
そのような状況で、アメリカの地で自己ベストを更新できたことは、僕にとって大きな自信となりました。
同時に、これが本当の意味でのこれからのスタートでもあります。
普段の練習での感覚では、まだまだ記録を伸ばせる余地があると感じています。
しかし、勉強と陸上の両立の中で、特に週末にかけて課題の提出等で勉強が忙しくなる事が多く、レースにうまく体調をあわせる事の難しさも同時に感じています。
クロスカントリーシーズンへ向けて
—この秋からはクロスカントリーシーズンが始まりますね。
はい。UCバークレーの目標は、全米大学クロスカントリー選手権で昨年の23位を上回る事です。
11月の本番までに、クロスカントリーのレースが幾つかあって、それらで上位に健闘する事で全米大学クロスカントリー選手権への出場権を手に入れる事が出来ます。
クロスカントリーは日本の駅伝と同じように、チームの順位を競うので、そういった意味では、中盤まではチームで固まって集団を形成してリズムよく走るなどといった、チームとしての戦略が重要になってきます。
日本での箱根駅伝の予選会のようなイメージで、一斉に選手がスタートし、各々の選手のゴールタイムの合計で争うイメージです。
アメリカには駅伝競技があまりないのですが、このクロスカントリーシーズンは非常に盛り上がりを見せます。
メディアの注目度は日本の箱根駅伝ほどではありませんが、選手の熱気やチームにかける想いなどは、箱根駅伝と同じようなものがあります。
僕は昨年、このクロスカントリーシーズンにUCバークレーの代表選手として出場していないので、今年はメンバー入りをしてチームで昨年以上の成績を残せるように頑張ります。
—アメリカでは確かにクロスカントリーは盛り上がりますね。ちなみに、アメリカの大学生となった岡田さんは今、箱根駅伝をどんな想いで見られていますか。
いち、ファンとして見ています。
昔から箱根駅伝を見るのは好きでしたし、とても楽しみにしています。
因みに、双子の弟 (岡田望さん)が早稲田大学の競走部に所属しているので、学生駅伝では早稲田大学を応援していますね。
—今後の予定と今後の目標についてお聞かせください。
この夏休みで日本に帰国し、知人や友人に会って励ましてもらったりするなど、とてもリフレッシュ出来ました。
7月下旬からはアメリカに戻り、アルバカーキとボルダーで高地合宿に取り組みます。
これはチームの合宿ではないのですが、大学を卒業した後の事を考え、色んな合宿地の選択肢を増やす事も視野に入れてアメリカで個人的に合宿を行います。
この高地トレーニングでクロスカントリーシーズンに向けての走り込みを行いたいと思っています。
僕はアメリカに来てからこれといった実績も残していませんし、1年目は経験の1年でした。
2年目からは、クロスカントリー、屋内陸上競技、屋外陸上競技で全米大学選手権に出場し、ステップアップしていきたいと思います。
結果を残さないと何の為にアメリカに来たのかと思ってしまうのですが、オリンピック選手を輩出した素晴らしいこのUCバークレーのチームのプロセスやプログラムをまずはしっかりこなすこと、そして、今やっている事を信じ続けること。
信念を持って陸上競技やクロスカントリー、そして勉学に取り組んで今よりも良い結果を残していきたいと思います。
そして、2020年の東京オリンピックの日本代表を目標に、アメリカの大学生活や競技生活で揉まれる事によって自分をより成長させていけたらと思います。
プロフィール
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