強かった青学と多かったナイキ【箱根駅伝ふりかえり】

第96回箱根駅伝は青山学院大が10時間45分23秒の大会新で2年ぶり5度目の総合優勝を果たし、大会初日にも往路優勝を飾って4区から先頭を譲らない強さをみせた。2位には前回王者の東海大が入り、3位の國學院大はチームの過去最高順位だった。

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©︎ 2020 Y. Nishikata   スタートからハイペースとなった1区

令和初の箱根駅伝は高速レースに

1区はスタートからハイペースで、13名の先頭集団が10kmを28分48秒で通過。終盤の19km手前の下りでは7名の先頭争いから國學院大の藤木宏太(2年)がスパート。そのまま藤木が逃げ切るかと思われたが、残り300mで創価大の米満怜(4年)が逆転し、米満は1区歴代2位タイの1時間 1分13秒で区間賞を獲得。

2区もその勢いのまま高速レースが展開されたが、その中で一際目立ったのが東洋大の相澤晃(4年)と、東京国際大の伊藤達彦(4年)。伊藤の後方13秒差で走り始めた相澤は5kmで伊藤に追いついたが、伊藤は一歩も引かずそのままハイペースを維持しながら並走。

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©︎ 2020 S. Kawashima  2区区間新でMVPを受賞した相澤晃(東洋大・左)

終盤で伊藤を振り切った相澤は、2区史上初の1時間5分台(1時間 5分57秒)で区間新(7人抜き)。伊藤も2区歴代3位(1時間 6分16秒)の好記録で区間2位に入った。

次の3区でも好記録が続く。東京国際大のイェゴン・ヴィンセント(1年)が驚異的な区間新(59分25秒)で7人抜きと、東京国際大はここで先頭に立つ。その後方でも、帝京大の遠藤大地(2年)と駒澤大の田澤廉(1年)がともに区間新の快走をみせた。

4区と5区でも区間新が続出。4区区間賞(区間新)の吉田祐也(4年)で先頭に立った青山学院大は、山上りでも飯田貴之(2年)が区間2位(区間新)と快走。往路新記録の5時間21分16秒で3年ぶりの往路優勝を決めた。往路2位の國學院大と往路3位の東京国際大はともに往路で過去最高順位。総合連覇を目指す東海大は往路4位に入った。

前々回王者が先頭を譲らず総合優勝

6区は4番目にスタートした東海大の館澤亨次(4年)が、山下り区間ながらも最初の上りと最後の平地でペースを上げる作戦で快走して区間賞(区間新)を獲得。しかし、青山学院大も谷野航平(4年)が区間3位の走りをみせ、館澤の追走を最小限に食い止めた。

7区で東海大は先頭との差を20秒詰めて2位に浮上。東海大は前回の金栗四三杯(MVP)に輝いた小松陽平を今大会も8区に起用し、青山学院大との2分 1秒差を詰めにかかった。しかし、小松は後半に失速。区間賞こそ獲得したものの、青山学院大との差をこの区間で1秒しか詰められなかった。

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©︎ 2020 K. Sahara  9区区間賞の神林勇太(青山学院大)が総合優勝を決定づけた

9区では青山学院大の神林勇太(3年)が、9区歴代3位(1時間 8分13秒)の記録で区間賞を獲得。前々回王者はこの区間で勝負を決め、最後はアンカーの湯原慶吾(2年)が堅実にまとめて総合優勝のゴールテープを切った。

前回王者の東海大は往路と復路の総合記録でともに大会新だったが、青山学院大と3分 2秒差の総合2位に終わった。

10区では上位2校の後方で4校の総合3位争いが過熱。ラストスパートを制した國學院大が総合3位、続いて帝京大が総合4位、東京国際大が総合5位、明治大が総合6位だった。

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©︎ 2020 Y. Nishikata  10区区間新でシードに貢献した嶋津雄大(創価大)

その後方では創価大の嶋津雄大(2年)が激走。11位でスタートした嶋津は2人を抜いて区間賞(1時間 8分40秒・区間新)を獲得。チームは1区米満の区間賞に始まり、10区嶋津の区間新で念願の初シードを手にして、最高の形で箱根路を締めくくった。

今大会は区間新が続出するなど各区間で『高速レース』が展開され、総合記録も高水準となった。10位の東洋大までが11時間切りを達成。11時間切りは過去に早稲田大、駒澤大、青山学院大、東海大の4校のみしか達成していなかった水準である。

【第96回箱根駅伝:総合成績

総合順位 大学 記録
1 青山学院大

総合:1位 10時間45分23秒 (大会新)
往路:1位 5時間21分16秒 (大会新)
復路:2位 5時間24分 7秒

2 東海大

総合:2位 10時間48分25秒 (大会新)
往路:4位 5時間24分38秒 (大会新)
復路:1位 5時間23分47秒 (大会新)

3 國學院大

総合:3位 10時間54分20秒
往路:2位 5時間22分49秒 (大会新)
復路:10位 5時間31分31秒

4 帝京大

総合:4位 10時間54分23秒
往路:6位 5時間27分15秒
復路:3位 5時間27分 8秒

5 東京国際大

総合:5位 10時間54分27秒
往路:3位 5時間24分33秒 (大会新)
復路:6位 5時間29分54秒

6 明治大

総合:6位 10時間54分46秒
往路:5位 5時間27分11秒
復路:4位 5時間27分35秒

7 早稲田大

総合:7位 10時間57分43秒
往路:9位 5時間28分48秒
復路:5位 5時間28分55秒

8 駒澤大

総合:8位 10時間57分44秒
往路:8位 5時間27分41秒
復路:8位 5時間30分 3秒

9 創価大

総合:9位 10時間58分17秒
往路:7位 5時間27分34秒
復路:9位 5時間30分43秒

10 東洋大

総合:10位 10時間59分11秒
往路:11位 5時間29分15秒
復路:7位 5時間29分56秒

以上シード権獲得
11 中央学院大

総合:11位 11時間 1分10秒
往路:12位 5時間29分17秒
復路:11位 5時間31分53秒

12 中央大

総合:12位 11時間 3分39秒
往路:13位 5時間31分40秒
復路:12位 5時間31分59秒

13 拓殖大

総合:13位 11時間 4分28秒
往路:10位 5時間29分 8秒
復路:17位 5時間35分20秒

14 順天堂大

総合:14位 11時間 6分45秒
往路:14位 5時間31分52秒
復路:15位 5時間34分53秒

15 法政大

総合:15位 11時間 7分23秒
往路:16位 5時間33分 0秒
復路:14位 5時間34分23秒

16 神奈川大

総合:16位 11時間 7分26秒
往路:17位 5時間34分11秒
復路:13位 5時間33分15秒

17 日本体育大

総合:17位 11時間10分32秒
往路:18位 5時間34分35秒
復路:18位 5時間35分57秒

18 日本大

総合:18位 11時間10分37秒
往路:15位 5時間32分53秒
復路:19位 5時間37分44秒

19 国士舘大

総合:19位 11時間13分33秒
往路:20位 5時間38分37秒
復路:16位 5時間34分56秒

20 筑波大

総合:20位 11時間16分13秒
往路:19位 5時間37分53秒
復路:20位 5時間38分20秒

オープン 関東学生連合

総合:(参) 11時間12分34秒
往路:(参) 5時間34分54秒
復路:(参) 5時間37分40秒

以下の7区間で区間新記録が生まれたが、区間賞を獲得できなかった計8名の選手も区間新の記録で快走した(3区2名、5区2名、6区1名、10区1名)。

【区間賞】

区間 選手 記録
1 米満怜
(創価大・4年)
1時間 1分13秒
(1区歴代2位タイ)
2 相澤晃
(東洋大・4年)
1時間 5分57秒
(区間新)
3 Y. ヴィンセント
(東京国際大・1年)
59分25秒
(区間新)
4 吉田祐也
(青山学院大・4年)
1時間 0分30秒
(区間新)
5 宮下隼人
(東洋大・2年)
1時間10分25秒
(区間新)
6 館澤亨次
(東海大・4年)
57分17秒
(区間新)
7 阿部弘輝
(明治大・4年)
1時間 1分40秒
(区間新)
8 小松陽平
(東海大・4年)
1時間 4分24秒
9 神林勇太
(青山学院大・3年)
1時間 8分13秒
(9区歴代3位)
10 嶋津雄大
(創価大・2年)
1時間 8分40秒
(区間新)

金栗四三杯(MVP)は、エース区間の2区で区間新を出した東洋大の相澤晃が受賞した。

「やっぱり」アオガクは強かった

今季の青山学院大は出雲駅伝で5位、全日本大学駅伝で2位に終わるなど、ここ数年間に比べて物足りない結果に終わっていた。しかし、エントリー選手の10000mの自己記録上位10人の平均で青山学院大は平均28分45秒36で出場チーム中トップ。さらに、年末の学内トライアルでは過去最高レベルと勢いがあった。

チームはエースの吉田圭太(3年)を1区に置き、先頭と13秒差の区間7位で2区へ。エース区間ではスーパールーキーの岸本大紀(1年)が他校のエースを相手に最後の上りで仕掛け、先頭で3区の鈴木塁人(4年)にタスキを繋いだ。岸本は区間順位こそ5位に終わったものの、1時間 7分 3秒の記録は1年生の2区日本人歴代最高記録だった。

4区の吉田祐也(4年)は前々回、前回と11番目の選手として箱根路を走れなかった選手で、今大会が最初で最後の箱根路で卒業後は競技引退の予定。

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©︎ 2020 K. Nakajima  4区区間新の吉田祐也(青山学院大)が往路優勝を決定づけた

吉田は見事に区間賞(1時間 0分30秒・区間新)の走りで後続との差を広げ、最高の形で有終の美を飾った。

(1月5日更新:吉田は2月の別府大分マラソン出場の可能性を1月5日のテレビ番組で明かした)

青山学院大は5区の山上りでも飯田貴之(2年)が区間2位(区間新)の走りで堅実にまとめて3年ぶりの往路優勝。チームは6区でも谷野航平(4年)が区間3位に入り「山でも強い」ということを示した。

復路では全員が区間5位以内にまとめた(6区谷野:区間3位、7区中村:区間4位、8区岩見:区間2位、9区神林:区間賞、10区湯原:区間5位)。往路で2名が区間新で走った青山学院大だったが、終わってみれば全員が堅実に走った層の厚いチーム。

「やっぱり」アオガクは強かった。

その他のトピック

ヴェイパー率はどうだったか?

今大会では選手の足元の大半がナイキのシューズで占められた。出場210名の選手のうち実に177名(84.7%)がナイキのシューズを着用し、各区間の上位3名(計30名)のうち28名(93.3%)がナイキ着用だった。

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©︎ 2020 Y. Nishikata  ナイキのシェアは84.7%に達した

近3大会におけるナイキのシェアは、前々回が58名(28.6%)、前々回が95名(41.3%)、今大会が177名(84.7%)と、前回からは倍増し、前々回からみれば3倍に増加した。

今大会では区間新が続出し、総合記録も上記のように大幅に水準が上がった。気象条件に恵まれたこともあるが、『シューズ効果』とは、一体どれぐらいであったのだろうか。

昨年まで野球部だった選手が区間5位の衝撃デビュー

中央学院大の6区を走った武川流以名(1年)は昨年まで高校球児。高校卒業後に中央学院大で練習に励み、本格的に陸上を始めて1年足らずで箱根デビューを果たした。

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©︎ 2020 K. Sahara

2名が区間新を出すなど好記録が出た今大会の6区で、武川は堂々の区間5位(58分25秒)。区間3位までが全て4年生、区間4位が3年生と上級生が活躍したことを考えると、陸上歴1年未満の武川の走りは『衝撃デビュー』だったといえる。

中央学院大は10区で11位に順位を落としてシードを逃した。好走した武川でさえも悔しさを滲ませたが、この悔しさを糧にするであろう彼の来季以降の活躍には期待が持てるだろう。

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