誰よりも箱根駅伝を知る男たちが集結。左からラントリップ代表で法大OBの大森英一郎さん、早大OBの八木勇樹さん、城西大OBの玉澤悠輝さん、青学大OBの高橋宗司さん
今や日本の大人気コンテンツの1つになった「箱根駅伝」。お正月には毎年ご覧になる方も多いのではないでしょうか?
そんな箱根駅伝の裏側を誰よりも知る男たちが集まりました。ラントリップ代表で法政大OBの大森英一郎さん、早稲田大OBの八木勇樹さん、城西大OBの玉澤悠輝さん、青山学院大OBの高橋宗司さんの4人。箱根駅伝常連校のOBである彼らが一同に集結し、「箱根OB座談会」として箱根駅伝を語ってくれました!
一体彼らはどんな裏話を展開してくれたのでしょうか?? オフレコ話が飛び交う約3時間の対談(という名の飲み会)の模様をお届けします!
ラントリップマガジンに掲載された写真が2人をつなぐ架け橋に
乾杯後、和やかなムードの中で座談会はスタート
八木勇樹と申します。兵庫県出身で、西脇工業高校から早稲田大学に行って、そこから旭化成に進みました。今年の6月末で退社して、現在フリーで競技を行っています。2020年の東京オリンピックのマラソンでしっかり結果を残すことを目標に、現在取り組んでいます。よろしくお願いします!
固いな~(笑)。なんか自己紹介というよりは、自己PR、自慢っぽい感じでお願いします。「高校時代日本人無敗」みたいな。
そうですね、でもだいぶ前の話なので。10年くらい前の話ですよ(笑)。今の活躍ぶりをアピールできるようにがんばりたいなというところですね。
(※八木さんはこれまで大活躍されてきました。)
なんか、「誰も知らない八木勇樹」みたいのを付け加えたいですね。
それ、もうちょっと(お酒)減らしてからでいい?(笑)
じゃあ、そこは後で深掘りしていくということで(笑)。じゃあ玉澤さんお願いします。
玉澤悠輝と申します。みんなからは玉ちゃんって呼ばれています。高校が市立船橋高校(千葉)で、大学は城西大学です。中学校の頃から陸上をやっていて、全国大会にも出ています。実は中学校の時に八木君と同じ組で3000mを走っているんです。社会人になってからラントリップさんの記事に掲載されていた写真を見て、「あれ、一緒に走ってる!?」って(笑)。
中学時代、全国大会で対戦していた2人。ゼッケン2832が八木さん。右端ゼッケン1224が玉澤さん
あの写真を使ったことによって、実はつながったんですよ。
ちょうどタイミングがそれくらいで。「一緒に走ってるじゃん!」みたいな。
社会人になってからは郵便局で実業団としてやっているんですけど、一応2月1日からご縁があって新しい会社で働くことになりました。現在はいろんなチームに出てたりして、一番有名なところだと「AFE TOKYO」っていうアパレル関係の方が立ち上げたランニングチーム。競技としてやりつつ、市民ランナーとしても走っています。
15年度ですね。僕は中学校まで野球部で、甲子園に出たくて利府高校(宮城)に入ったんですけど、友だちいわく僕には野球の才能が無かったらしいです(笑)。高校から初心者で(陸上部に)入って、青学大時代は、予定にはなかったことがいろいろあって、漫画のような4年間でしたね。それは追々話していきます。あと自慢か……、青学大史上初めて(箱根駅伝で)2回区間賞取りました!(ドヤッ)
僕が最初なんですよ。田村和希(青学大3年)とか小椋(裕介/現・ヤクルト)とかも2回取ってるんですけど、まだ僕らが最多区間賞です(笑)。今回で田村に抜かれる予定ですけどね。
※田村選手は残念ながら後半で失速し、2017年の箱根では区間賞を逃す
(5000m)14分10秒のやつが2回取ってるんですよ。僕の年で部内16番目でした。
でも、今の青学大だったら23番目とかですよ。(エントリーメンバー)16人入りは不可能です。去年と今年だったら僕は無理でしたよ。
長い距離も普通というか、(ハーフマラソン)64分13秒とか。
どちらかと言えばそっちの方が普通っすね。いや、一般的に考えたら速いけど。
僕のすごいところは、メンバー選考前に誰かがケガをするんですよ。
4年間で1回も故障したことないです。っていうか、人生で1回もケガしたことないです。今ケガしてますけど(笑)
意外と大変! 一般入部生の苦悩
僕もケガしないことだけを戦略にしてました。僕は一般入部なので、自分より速い選手がガンガン入ってくる。4年目の箱根駅伝に出ることだけを目標にして、それをいかに継続するかを考えていました。で、12番目くらいに入っていれば絶対誰かケガするから、それで出ようみたいな(笑)。
上尾とかで選考のハーフマラソンとか、そんな感じですか?
そうそう。まず、僕レベルは夏合宿のAチーム入りから選考が始まるんですよ。次は9月の合宿明けの日体大(記録会)で走れるかどうか。そのあとに上尾ハーフで見られて、そのあとに11月末にA合宿があったんですけど、それに行けるかどうか。で、最後の1ヶ月で16人に入るかどうか、最後に10人に入るかどうかですね。フィルターがやばいんですよ!
やばいですよね。大森さんが出た年は予選会もやってるんですか?
やってます。予選会から走りましたよ。8番くらいかな。そこでも10番入りをするというフィルターがあって。弱い奴は弱い奴なりにけっこう大変なんですよね(笑)。
自分も同じような感じですね。自分も一般から駅伝部に入ってます。
推薦入りの人もいれば、自分は推薦じゃなくて。高校の監督に言っていただいて、入れていただきました。2軍寮からのスタートです。
寮が1軍寮と2軍寮というのがあって。2軍寮はやっぱり金銭的な面で払うのが多い……。
そうなんですよ。食費とか家賃とかも高くて、とりあえず最初の半年で1軍寮になりましたけど。
僕ら(法政大)は寮に入れないんですよ。一般入部は。
繰り上げとかなくて。だから普通に家賃払って、食費払って、一人暮らししてましたよ。
門限もないし、朝練も別に集合ないし、してもしなくてもいいので。自制するところはかなり大変でしたね。
寮はやってます。寮以外はしてもしなくてもいい。何も求められない。
じゃあ、「今日は寝てよう」みたいな日もあるってことですか?
そういう日もあるし、そこがすごい難しいわけですよ。やっぱり強制されてやるのって簡単だけど、自分で意志を持ってやるのって大変じゃないですか。学生だし、遊びたいし、別に2軍だし。本当に箱根に出れるレベルじゃない中で、朝練をちゃんとやるっていうのはなかなかね……。
青学大・池田生成は各自ジョグで42㎞も走る〝修行僧〟
自分は絶対無理だな。だって僕青学イチのサボり魔ですもん。
アオガクで一番そういうことを自制してちゃんとやれる子って誰になるんですか?
ん~、誰だろ。僕以外全員ですね(笑)。たまに月1回くらい試合の前とかで「明日の朝練、集合ないけどやれよ」みたいな日があるんですよ。でも僕はやらないんですよ。僕が起きて朝ごはんに行こうとすると、僕以外全員玄関のロビーにいて、「朝練終わった~」みたいな空気を醸し出してる。そういうことが多かったですね。
僕ケガしないので。監督も僕がケガしないことを知ってるんですよ。だから訳わかんないメニューをいっぱい出されるんですよ(笑)。
全員の中でも僕が一番きついメニューをやってるんじゃないかってくらい。練習量もメチャクチャ多かったですよ。
僕、根っからのサボり癖があって、本当にきつい時に(力を)出せないんですよ。自分に甘いっていうか。
だからサボるのを分かってるから、監督も多めに与えてたんですね。
池田生成(青学大4年)とかはすごかったですね。僕の部屋人でしたけど。あいつと部屋人だったときは、「あ~、俺人間としてクズだな」って思うくらいでしたね。
あいつは陸上をやるためだけに生まれた男なんですよ。あいつも僕と一緒で、他人と同じことやってちゃ勝てないってわかっている。あいつはひょっとしたら陸上の才能はゼロなんですよ。僕以下なんですよ。でも、本当にあいつは実写版・茂野吾郎(漫画『MAJOR』の主人公)みたいなやつで、自分ができないと思ったらそれを克服するために、他人の3倍くらいやるんです。だって5000mのタイムトライアルがあって、悪かったからといって各自ジョグで42㎞走るんですよ!?
一同 (爆笑)
修行僧ですよ。でも、実はあいつ陸上嫌いなんですよ。
僕と一緒っていうと失礼ですけど、あいつは多分学生時代に何かしたいんですよ。目立ちたがり屋。5年目に努力できる自信もないんですよ、きついので。だから決められた4年間だけメチャクチャがんばると。
何故か今の時期に調子が上がってこないんですが、あいつが本調子だったら全然入りますね。(関東インカレ2部)ハーフマラソンで優勝してますし。本調子のあいつに勝てる奴は青学でもなかなかいないんじゃないかな。下田(裕太/青学大3年)でも負けてますからね。期待したいとこです。
※下田は東京マラソン2016で日本人2位を占める実力者
※池田は9区で出場し、区間2位を獲得
12月はチームのピリピリ具合が最高潮
僕は走るのが元々好きだったんです。得意でやってる人と、本当に好きでやってる人と別れるじゃないですか。僕は完全に好きでやってました。でも最終的に自分はエントリー16人に選ばれながら、結局本戦を走れず終わってしまいました。予選会は一応チーム内4位で走ってはいるんですけど。
マジっすか? それって、正直いけると思ってたでしょ?
思ってましたね。ぶっちゃけ僕は監督にスカウトされたわけではないじゃないですか。監督からしたら自分が呼んだ選手を使いたいですよね。
推薦組以外って、実力で並んだら絶対ダメじゃないですか。並んだら100%使われないから、誰が見ても抜けてないと難しいですよね。
監督も自分で呼んできた選手だし、高校の監督との付き合いもあるので。
予選会4位だったら余裕で入りますよね。多少調子を崩してても入るところにいるわけじゃないですか。
一応足が気になったので、12月のポイント練習を1回だけ外れたんですよ。それをネタに、じゃないですけど、それを監督に言われて……。
おもろいのが、早稲田だとラストフリーの練習が多かったんですよ。最後の5㎞でガッと上げる練習もあれば、最後まで一定のペースで行く時もある。後者の場合は、みんなめっちゃ余裕なので、いきり立ってるんですよ。余裕ぶるというか。ゴール終わった後に「フゥー↓」って。「いい汗かいたわ~」みたいな(笑)。
特に上尾ハーフ後の11月後半から1ヶ月。僕らは「集中練習」っていうんですけど、多分どこの大学でもそうじゃないかな。誰も1回も外せないっていう空気がありますよね。
早稲田大学総合優勝のウラ側
でも、それって八木くんクラスだったら必要ないじゃないですか。どう考えても出るから。
いや、それがそうでも。2年目は最高に調子が良くて、チームトップくらいで走ってたんですよ。でも、山を走る予定の選手がインフルエンザかなんかでいなくなって、僕が代わりに走るはめになりました。5㎞で柏原(竜二/東洋大、現・富士通)にぶち抜かれるという(笑)。でもそれ以外の2回は全然調子を合わせられませんでした。1年目も4日前まで高熱が出てて、当日変更で走ったんですよ。
4日前だったら僕は無理ですわ。どのくらいで走ったんですか?
集中力だけでいかないといけないから、初めの10㎞は29分30秒とかで入って、そこからは地獄。2位東洋大と18秒差のトップでタスキをもらって、10㎞までで1分05秒くらい離したけど、渡した時は12秒しかなかった。
高校の時から調整をあまりしなかったんですよ。当日スタートラインに立てば、その時の俺が何とかするだろと。それも大学の時も名残が残っていて、だから体調不良になっても「何とかなるやろ」と。3年目もそうですね。調子が悪くて、その時も9区で区間2位。あ、僕区間賞取ってないんですよ。だから宗司の方が全然すごいですよ(笑)。
その時も全然ダメで、渡辺(康幸)監督が「八木、やばいな」と言うくらい。10㎞までだったら何とか調子が崩れずに走れると思うんですけど、20㎞となると脱水とか、15㎞以降崩れてもおかしくない。しかも3年目はトップで来ちゃってて、9区の時点で優勝か2番かみたいな。
あの時、めちゃくちゃ接戦でしたよね! その話聞きたかったんですよ。あの心境を。
あれはマジで勘弁してくれよと。高野(寛基)さんコケてる場合ちゃうやろと(笑)。
※高野は6区で転倒するも、区間2位の快走で首位を奪取
あの会心の高野さんの走りがあって、7区の三田(裕介)が差を広げた。アンカーの中島(賢士)さんがあまり調子が良くなかったんですよ。東洋大のアンカーは、ラストが強い選手(山本憲二)。渡す時にマズいなと思って「すみません、むしろ縮まってます」みたいな。
アンカーでちょっと詰められたのかな? でも21秒差くらい。史上最少タイム差だった。
あれ、かなり接戦でしたよ。観てる方が心臓痛かったですもん。
座談会はまだまだ盛り上がりを見せます。
続きはこちらから
2017年箱根駅伝のハイライトはこちらから
1991 年生まれ、東京都出身。スポーツをメインに取材・執筆を行うフリーライター。陸上競技 の専門誌『月刊陸上競技』での執筆経験を生かし、当媒体では元陸上ランナーのインタビュ ーや箱根駅伝関連の記事を多く執筆している。