「サーフシティー・マラソン」4日前に1人で走った42.195km

ここから先はゴールまでずっと海岸沿いのルートになる。パシフィック・コースト・ハイウェイをある地点まで北へ走り、折り返して南下する。さらにビーチに面した歩道に移り、もう一度同じ距離を往復する。見えるのは砂浜と波とパームツリーだけ、というサーフシティーの名に相応しいコースだ。

ハンティングトン・ビーチの砂浜はとても広い。だからいつ来ても人影はまばらだ。このレースの起点でもあるメインストリート一帯だけを唯一の例外として、ビーチの周りには売店もレストランも何もない。海の家もなければ、サザンオールスターズの曲を大音量で流すスピーカーもない。聞こえるのは波の音だけだ。

「「サーフシティー・マラソン」4日前に1人で走った42.195km」の画像

あの頃つきあっていたガールフレンドとよく散歩に来たのも、このあたりの海岸だ。いつもは陽気にふざけてばかりいたのに、波打ち際に近づくとぼくらは何故かいつも無口になった。言いたいことはいくらでもあったはずなのに、海を見ていると何も口に出せなくなってしまうのだ。彼女も同じ気持ちらしく、うつむき加減で時々長い髪をかきあげていた。手を繋いで、ぼくらはいつまでも歩き続けた、というのは嘘で、いつもむさ苦しい男ばっかりでタバコやらを吸ったり、焚火を囲んで大騒ぎしたりしていたビーチだ。

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ここからゴールまでの道は、特に書くことはない。ただひたすら海を眺めつつ走っただけだ。ランナーによっては、このコースはきれいだけど、景色が単調過ぎてつまらないと言う人もいる。ぼくはもともと海が大好きで波を眺めているだけで時間がつぶせる人間なので、何回走っても飽きることはない。

そもそも、20キロ、30キロ、と距離が進むにつれ、ぼくレベルのランナーだと脚が痛くなっているか、疲れて果てているか、あるいはその両方で、景色に退屈しているような余裕さえもなくなっている。この日もそうだった。いつもの場所でいつものように苦しんで、「早くゴールして、ビールを飲みたいなあ」といつものように考えていた。

いつもと違うのは、周りには同じように苦しんでいる仲間のランナーが1人もいないことだ。応援してくれる人もいない。ゆっくりジョグや散歩やサイクリングを楽しんでいた人達は、1人でゼイゼイ言ってよたよた走ってるぼくを見て一体何事だと思ったことだろう。

ゴールが設定される場所は、メインストリートのもっとも賑やかな交差点だ。ハンティングトン・ビーチのシンボルでもあるピアーが海に向かって突き出している。

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レースの日は道路の両側にぎっしりと大勢の人が並んで、ゴール直前でよれよれになったランナーを大声で応援してくれる。ランナーはそこで最後の力を振り絞ってゴールする。

この日のぼくには祝福してくれる人はだれもいなかったわけだけど、それでもゴールしたときはやはり嬉しかったし、心底ほっとした。来年はちゃんとレースを走るかどうかはわからない。でも、またこの場所に帰ってくることだけは間違いないと確信している。

サーフシティー・マラソン公式サイト:https://www.motivrunning.com/run-surf-city/

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