キプチョゲ選手「ナイキ ズーム ヴェイパーフライ エリート フライプリント」でロンドンマラソン出場
Apr 20, 2018 / SHOES
Apr 26, 2019 Updated
キプチョゲがロンドンマラソンに新シューズで出場
昨年のナイキ・Breaking2で42.195kmを2時間00分25秒で走った男、エリウド・キプチョゲ。リオオリンピックのマラソン金メダリストでもあるキプチョゲはBreaking2の後、9月のベルリンマラソンを2時間03分32秒の記録で優勝し、Breaking2のレースを除いたマラソンの公式戦の通算成績を9戦8勝とした。マラソンで現役最強との呼び声が高いキプチョゲは、Breaking2とベルリンマラソンで『ナイキ ズーム ヴェイパーフライ エリート』を履いて出場したが、今週末の4月22日に開催されるロンドンマラソンではそれをさらにアップデートさせた『ナイキ ズームヴェイパーフライ エリート フライプリント』を着用してマラソンの世界記録更新を狙う。
9月のベルリンマラソンで優勝したキプチョゲは、その時も世界記録の更新を狙っていたが、雨のコンディションによって世界記録の更新はならなかった。世界記録更新のためには、気象条件を味方につけることも必要だが、キプチョゲはレース中、『ナイキ ズーム ヴェイパーフライ エリート』が水を吸って、走りに影響することを感じていた。水分を吸ったシューズはレース中にその水分が蒸発しないため、少なからず重くなりパフォーマンスに影響する、というものであった。
『ナイキ ズーム ヴェイパーフライ4%』と『ナイキ ズームヴェイパーフライ エリート』は、 2017年のメジャーマラソンの表彰台を席巻したシューズとなったが、ナイキはソール部分をそのまま維持しながら新しいアッパーを開発し、問題を解決することにフォーカスした。2017年12 月、アメリカのナイキ本社を訪れたキプチョゲは、ナイキの新しい技術やそれによって生み出されたデザイン『ナイキ フライプリント』に興味を持った。
ナイキは独自の技術として、それまでに実験を行なっていた機能的な3Dプリントを活用したアッパーの開発を始めた。『ナイキ フライプリント』によるアッパーの開発は、2018年のはじめから本格的に始まった。まず、デザイナー達は、何千ものアッパーデザインの可能性を検討した後にいくつかの試作品を作り、キプチョゲのもとに届けた。
このシューズのプロトタイプを初めてみたキプチョゲは、「彼らは本当にクレイジーだと思った。でも理由があってシューズがアップデートされているし、私はそれを好む」との第一印象を述べた。このシューズで初めて走ってみたキプチョゲは、「まるで飛んでいるようだ。走っている時に飛んでいるように感じる」と、 履き心地と通気性の良さについて語った。そして、フィードバックとして、シューズに“もっと手を加えて欲しいところ”をスケッチし、以下のように書いた。
デザイナー達は直ちに修正を行い、テストを続けた。『ナイキ ズーム ヴェイパーフライ エリート フライプリント』の完成版を手にしたキプチョゲは「これならロンドンで走ることができる」と、新しく生まれ変わったアッパーの“軽量性”と“通気性”について満足そうに話した。
「シューズの中で空気が通り抜ける感覚が好きだから、雨の日も晴れの日もこのシューズで走りたい」
マラソンサブ2に向けて、マラソン世界記録に向けて、シューズに必要とされることは“軽量化”である。このシューズの新しいアッパーは、『ナイキ ズームヴェイパーフライ エリート』のアッパーよりも28.0cmで“11g”も軽い。この11gは、『ナイキ ズームヴェイパーフライエリート』(28.0cmで180g)から6.1%の軽量化である。科学的研究によれば、足にかかる重さが 100g 軽くなることにより、ランニングエコノミーが 1%高くなるとされている。つまりこのアッパーを用いることで、ランニングエコノミーをさらに0.1%改善することができる。42.195kmの中では、このほんの少しが重要なのである。
キプチョゲのトレーニングパートナーであるジョフリー・カムウォロルもこのシューズをテストして気に入り、3月の世界ハーフマラソン選手権で『ナイキ ズーム ヴェイパーフライ エリート フライプリント』を着用して優勝。世界ハーフマラソン選手権3連覇を達成した。
キプチョゲはこの新しいシューズを着用して、今週末4月22日のロンドンマラソンに挑む。ロンドンマラソンを前にこう述べた。
「世界記録で走ることが自分の使命だと思っている」
ナイキ フライプリントとは?
『ナイキ フライプリント』は、ナイキ初の3D プリントを活用した競技用フットウエアのテキスタイルアッパーである。これまでほとんど表舞台に出てこなかったナイキのこの技術は、実はこれまでに何度か実際のレースで使用されている。2016 年のリオオリンピックでアメリカの短距離選手、アリソン・フェリックスの特製スパイクを3D プリントを活用して製作しており、その他にも2013年と2014年にもNFLコンバインで、アスリートが最高の活躍をするためのサポートとなるプレートを3D プリントで製作している。
この技術は、ナイキがこれまで長い時間をかけて取り組んできたものである。『ナイキ フライプリント』は固体堆積モデリング(SDM)という、コイル状になっている TPU(熱可塑性ポリウレタン)の繊条組織を解き、それを溶かし層に重ねるプロセスにより作られる。これはデザイナーがアスリートデータを異なる繊維の形に変換することを可能にした。
このプロセスは、まずアスリートのデータを記録し、フライプリントの素材を作るところから始まる。そのデータは、コンピューターデザインツールで解析され、素材の理想的な構成を確定する。最後に、その情報を元に最終的な素材が作られる。この方法によって、アスリートや求められる機能に合わせて、“全く異なるプリントを作ることができる”というフライプリント技術の汎用性と、デザインプロセス全体のペースを早めることが可能となった。また機能をプリントすることで、これまでにない早さと精密さでの物作りが可能になり、試作品を作るスピードもこれまでのどんな生産方法よりも、16 倍以上早くなっている。
従来の平面的な素材と比べた、3D 素材がもたらす興味深い長所は、フライプリントが素材を融合させて作るという性質から、縦糸と横糸の交差以上に、ダイナミックな素材の連動を実現できるという点だ。例えば、通常の編み物や織物の素材では、絡み合った糸(縦糸と横糸)の間に摩擦抵抗が生まれるが、3D プリントした素材の場合、素材の交点が融合しているため、より正確に足を支えられるようになる。さらにこれまでの素材よりも軽く、通気性が高いものを作ることが可能になった。
デザインの早さに関して、従来の繊維に比べてフライプリント技術がもたらす利点が2つある。素材の上にある繊維の線の配置を一つ一つ調整することができる一方、その変更が全体の構造に響くことがない。また、製作期間が短くなり、商品テストや修正にかかる時間も大幅に削減できる。つまりフライプリントは、正確なデザインを可能にし、短時間で大きな利点をアスリートに提供することができる。またこの素材は、特にフライニットなどの多くの素材と無理なく併用できるため、フィット感と構造の最適なバランスを実現することができる。フライニットの糸は、糊や縫い目を加えることなくフライプリントの素材と熱圧着することができる。
ナイキはキプチョゲのために『ナイキ フライプリント』を使用した『ナイキ ズーム ヴェイパーフライ エリート フライプリント』を開発した。シューズアッパーをアスリート一人一人に合わせ、強さ、安定性、通気性を部位ごとに高めたデザインを施すなど、アスリートそれぞれのニーズやフィードバックにこたえられるようになった。
今週末のロンドンマラソン開催に合わせ、ナイキはロンドンのみで『ナイキ ズーム ヴェイパーフライ エリート フライプリント』を限定販売する。今のところ、日本での発売予定はない。
フライプリントや、その他の3Dプリントの試作品を、この1年の間により多くのアスリートのために展開する方法を検討しており、2019 年にはこのイノベーションをほかのインラインモデルの一部にも展開する予定である。私たちの手元に届く日を期待したい。