世界のトップランナーが選ぶ「ヴェイパーフライ4%」をデータ分析【その1】

2017年に突如現れたナイキの厚底シューズ、ズーム ヴェイパーフライ4%(以下VF4%)。従来の“ソールが薄くて軽いシューズ”を凌駕する“カーボンプレート入りの厚底シューズ”という新たなイノベーションは現在、世界中のトップアスリートの素晴らしいパフォーマンスを支えている。様々な論文やデータから導き出される、この厚底シューズのすごさに迫る。

①論文からのデータ

出典:WIREDのTwitterより

2017年11月17日に公開されたWIREDの記事にはこう書いてある。

「CUボルダ―・ロコモーション・ラボとナイキの研究者らが行った実験によると、VF4%のプロトタイプは、それまでのナイキのレーシングシューズの最高傑作であった“ストリーク6”よりも“平均”で約4%エネルギーコストを節約できる」

この実験で1つ考慮すべき点がある。18人の被験者たちは全員が6.2マイル=約10kmを31分以内で走ることのできるエリート選手であった。つまり、エリート選手がVF4%履いた場合、“ストリーク6”よりも“平均”で約4%エネルギーコストを節約することができる、というデータである。

さらに詳しく説明する。この実験の結果をまとめたこの論文によれば、結論として14〜18km/hで走行時、 VF4%はストリーク6やアディオスブースト2と比較して、エネルギーコスト(ここでの単位はW/kg)を平均で4%節約できる。平均4%というのは個人差があって、1.59%効率化した被験者から、6.26%効率化した被験者まで様々であった。以下の図が時速ごとの、それぞれのシューズのエネルギーコストの平均値のグラフである。

「世界のトップランナーが選ぶ「ヴェイパーフライ4%」をデータ分析【その1】」の画像

出典:A Comparison of the Energetic Cost of Running in Marathon Racing Shoesより

※NS=ストリーク6, AB=アディオスブースト2, NP=VF4%プロトタイプ, 縦軸=エネルギーコスト, 横軸=時速

  • 14km/h=1km4分17秒(マラソン3時間00分44秒ペース)
    ※エネルギーコスト:NS14.17W/kg、AB14.13W/kg、NP13.57W/kg
  • 16km/h=1km3分45秒(マラソン2時間38分14秒ペース)
    ※エネルギーコスト:NS17.07W/kg、AB17.03W/kg、NP16.36W/kg
  • 18km/h=1km3分20秒(マラソン2時間20分39秒ペース)
    ※エネルギーコスト:NS20.26W/kg、AB20.25W/kg、NP19.42W/kg

「NPを履いたランナーは、NSを履いたランナーよりも平均4.16%少ないエネルギーコストで走り、ABを履いたランナーよりも4.01%少ないエネルギーコストで走った。 なお、ABとNSのランナーのエネルギーコストは同じような値であった」

 

10kmを31分以内で走れるランナーにとって14~18km/hという速度は“余裕の持ったフォームで走れるペース”と考えてよい。ただ、これより速い速度での検証結果についてはこの論文にはデータがない。例えばマラソンサブ2ペース=21.05km/h(1km2分51秒ペース)ではいったいどのようなデータがはじき出されるのかは、多くのランナーが興味のあるところだ。

備考としては、この実験では統一された条件下で行うために、NPには51g、NSには47gの鉛を入れ3つのシューズの重量を250gに統一している。VF4%の重量がそれより少ないことを考えると実際はもう少しエネルギーコストを節約できるのかもしれない。

また、この実験では行われなかった、非エリートランナー層がこの実験を同じような条件(仮に走行の速度は遅くしたとしても)で行った場合、エネルギーコストはどのように変化するのか?このようなことからも、VF4%に関する多くの実験結果が今後も求められるであろう。

②2017年メジャーマラソントップ3のシューズ

「世界のトップランナーが選ぶ「ヴェイパーフライ4%」をデータ分析【その1】」の画像

出典:ナイキジャパン・プレスリリースより

この図表を見ればVF4%を履いていた選手(VF4%プロトタイプを履いていた選手も含む)の2017年の快進撃が一目でわかるだろう。2017年の6大メジャーマラソンにおいて男女合わせて19個のメダル(1位×7、2位×6、3位×6)を獲得した。

「世界のトップランナーが選ぶ「ヴェイパーフライ4%」をデータ分析【その1】」の画像

©2017 Rolows

この図表は2017年の6大メジャーマラソン+ロンドン世界選手権の男子のトップ3に入った選手が履いていたシューズの一覧である。これを見ると、VF4%のなかでも※プロトタイプなどがいくつかある。

(※ケネニサ・ベケレが男子マラソン世界歴代2位の2時間03分03秒で優勝した2016年のロンドンマラソンで履いていたメイフライというVF4%プロトタイプが有名)

また、エリウド・キプチョゲはBreaking2のレースに続いてベルリンマラソンで、リレサ・デシサはニューヨークシティマラソンでそれぞれズーム ヴェイパーフライ エリートを履いていた。

   VF4% 発売後のメジャーマラソン優勝者のシューズ(VF系着用率、9人 / 10人=90%
   大会 男子 女子
   ロンドン世界選手権 ヴェイパーフライ4% ヴェイパーフライ4%
   ベルリン ヴェイパーフライエリート アディダス
   シカゴ ヴェイパーフライ4% ヴェイパーフライ4%
   ニューヨーク ヴェイパーフライ4%プロト ヴェイパーフライ4%
   ドバイ ヴェイパーフライ4% ヴェイパーフライ4%
   ヴェイパーフライ系着用者 5人 / 5人中=100% 4人 / 5人中=80%

出典:レッツランジャパン

VF4%が昨年の夏に発売されてから、これらのレースでVF4%着用者(※プロトタイプやエリートも含めて)が90%の割合で勝っている。圧倒的なこのデータには実は“シューズ以外の要素”も含まれている。

それはナイキが現在、多くの素晴らしい選手をスポンサードしていることにある。それを見るには※VF4%がこの世に存在する前の2015年、男女合わせて14人のメジャーマラソン優勝者のうち、11人がナイキの選手だった。それは78.6%の確率である。

(※2016年にはVF4%プロトが存在した)

   2015年のWMM優勝者のシューズ(ナイキ着用率、11人 / 14人=78.6%
   大会 男子 女子
   東京 ナイキ ナイキ
   ボストン ナイキ ミズノ
   ロンドン ナイキ ナイキ
   北京世界選手権 ナイキ ナイキ
   ベルリン ナイキ アディダス
   シカゴ ナイキ ナイキ
   ニューユーク ナイキ アディダス
   ナイキ着用者 7人 / 7人中=100%  4人 / 7人中=57%

出典:レッツランジャパン

VF4%のおかげで、ナイキの選手の勝率が78.6%から90%に上がった、と考えるのは可能か?可能である。しかし、例に挙げている大会の数が少ない(サンプル数が少ない)。例えば、ナイキが1つでも星を落とすと、全体のパーセンテージは10%ほど落ちてしまう。

ひとつだけ言えることは、ナイキが世界の良い選手を多くスポンサードし続ける限り、彼らがどのシューズを履こうと、ナイキがメジャーマラソンで勝ち続けるということである。

(※つまり優勝する選手の要素はシューズの良し悪しが1番ではなく、単に選手に実力があるかが1番大切になってくる)

③2017年ニューヨークシティマラソン

DO NIKE’S NEW MARATHON SHOES ACTUALLY MAKE YOU RUN FASTER?

2017年11月7日に公開されたWIREDのこの↑記事↑によると、2017年11月5日に開催されたニューヨークシティマラソンでの、ある調査結果について書かれている。この調査は、ある一定ゾーンのレベルのランナーたちのシューズを一斉に写真に収め、それをレース後に分析したものである。

以下のリンクがその調査のデータシートである(必見)。

Does the Nike Vaporfly 4% help you run a better marathon?

このデータシートでは、2時間31分39秒~3時間17分04秒(このレベルは準エリートランナーといえる)でゴールした無作為に選ばれた138人のランナー(21人がVF4%、117人がその他のシューズ)を対象にしている。その138人の※①ゴールタイム②前半のハーフのタイム③後半のハーフのタイム④前後半のタイム差が記入されている。
(※大きな大会はゼッケン番号で検索すればゴールタイムや通過タイムなどが検索できる)

そのなかでそれぞれのゴールタイムに関係なく、ネガティブスプリットの幅が大きい、つまり後半かなりのペースアップに成功したといえるランナーから上にくるようにソートされている。逆に後半かなり失速したランナーが一番下に位置している。ニューヨークシティマラソンは、後半に厳しい上り坂がある難コースなので、前半ペースを意図的に抑えなければネガティブスプリットを出すことはかなり難しい。

はじき出されたデータは以下である。

 

※PSP=ポジティブスプリット(後半ペースダウン)、NSP=ネガティブスプリット(後半ペースアップ)

① 対象138人中:VF4%21人(15.2%)その他のシューズ117人(84.8%)
② VF4%21人中:PSP14人(66.7%)NSP7人(33.3%)
③ その他のシューズ117人中:PSP99人(84.6%)、NSP17人(14.5%)

④ 対象138人の前後半のタイム差の平均:+4分59秒(後半ペースダウン)
⑤ VF4%21人の前後半のタイム差の平均:+1分40秒
⑥ その他のシューズ117人の前後半のタイム差の平均:+5分34秒

⑦ 対象138人の前後半のタイム差の※中央平均値:+3分47秒
(※大幅に後半ペースダウンした対象者、+34分01秒のランナーがいるので平均を大きく変えてしまうため)
⑧ VF4%21人の前後半のタイム差の中央平均値:+1分15秒
⑨ その他のシューズ117人の前後半のタイム差の中央平均値:+4分18秒

 

いずれもVF4%のほうがパフォーマンスが良い。しかし、上にも述べている通りまだまだデータのサンプルが少ない。引き続きデータを継続的に集めて、それらを精査していくことが必要だ。2017年はVF4%元年となったが、その勢いは2018年も続くのだろうか。このデータ考察では主に海外のレースを対象にデータが算出されているが、次回の記事では国内のレースを中心に考察を述べる。こうご期待。

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