変わる勢力地図!! 箱根駅伝の区間賞シューズにナイキ「ヴェイパーフライ4%」やアディダス「タクミセン」

シューズでみる第94回箱根駅伝

第94回箱根駅伝は青山学院大の4連覇達成となり、その強さをさらに印象づけた。その青山学院大の選手たちの多く(ミムラボのシューズを履いた8区の下田裕太を除いて)は今回、アディダスのオレンジのタクミセンブーストを履いて箱根路を走った。

一方、往路優勝で総合2位に入った東洋大は、ナイキの厚底シューズ、ブルーのヴェイパーフライ4%を多くの選手(5区と6区の“山”は違うシューズ)が着用した。

このように各スポーツメーカーは、絶大なPR効果を誇る近年の箱根駅伝において、それを見据えた足元へのアプローチを加速させている。大きなレースでカラーを統一し、観戦者や視聴者にアピールする。2010年代半ばからその流れは加速し、青山学院大が箱根路を湧かせている間は、アディダスのタクミセンシリーズは好調な売れ行きを示し、また、そうはさせまいと各メーカーが準備を進めている。

「変わる勢力地図!! 箱根駅伝の区間賞シューズにナイキ「ヴェイパーフライ4%」やアディダス「タクミセン」」の画像

©2018 Rolows

これは、今回の箱根駅伝で区間賞を獲得した選手が履いていたシューズの一覧である。2区は2人が同タイムで区間賞となっているが、

・ナイキ:3人(ヴェイパーフライ4%)

・アディダス:3人(タクミセンブースト)

・アシックス:2人(ソーティRP4+ソーティカスタム)

・ミズノ:2人(ウェーブクルーズ12)

・ニューバランス:1人(ミムラボハンゾー)

と、バランス良く各メーカーに分かれている。こうみれば、各メーカーのシューズは各々に機能し、大差が無いようにも見て取れるが、その詳細について以下に記す。

「変わる勢力地図!! 箱根駅伝の区間賞シューズにナイキ「ヴェイパーフライ4%」やアディダス「タクミセン」」の画像

©2018 Rolows

これらは、今回の第94回箱根駅伝の全選手が使用したシューズの一覧である。その見方は、

・縦軸が区間(一番上から1区、2区、3区、一番下が10区)

・横軸が区間順位(一番左から区間賞、区間2位、区間3位、一番右は関東学生連合チーム)

おおまかに見て、左半分(区間上位)にナイキのヴェイパーフライ4%(主に新色のブルー、次にレッド)が多数位置しており健闘していることがわかる。また、“カラーの統一性”という見方をすれば、

・ナイキ:ブルー

・アシックス:TENKAレッド

・アディダス:オレンジ

・ミズノ:レッド

・ニューバランス:(ネイビーブルー+イエロー)

で、おおまかに統一していることがわかる。これがそれぞれのメーカーの思惑であり、その詳細は以下である。

  1. 東洋大は5区と6区を除いた8人が、ヴェイパーフライ4%を着用し、全員がナイキのブルーのシューズで統一
  2. 青山学院大は8区の下田(ニューバランス:ミムラボハンゾー)を除いた9人が、アディダスのオレンジのシューズで統一
  3. 山梨学院大は全員、日体大は7人、早大は6人がアシックスを着用し、その半分以上がTENKAレッドのシューズを着用
  4. 上武大は6区の鴨川(ミズノ)を除いた9人が、ニューバランスの(ネイビーブルー+イエロー)のシューズで統一

また、各メーカーは上記以外の主力選手に対しても、シューズカラーの統一戦略として、上記と同じカラーのシューズを履いてもらう、という戦略をとった。よって、ミズノのシューズも基本的にはレッドで統一されている。

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©2018 Rolows

次に、メーカーごとの実際に使用されたシューズの図表である。ナイキのシューズは圧倒的にヴェイパーフライ4%(37人)を使用した選手が多い。アシックスはTENKAレッドのソーティマジックRP4(28人)を、TENKAシリーズのキャンペーンとともに箱根駅伝に出場する選手たちに供給した。また、アシックスを履く選手はカスタム(14人+6人=20人)のシューズが多いことも特徴的である。ミズノも同じくカスタム(8人+21人+1人+2人=32人)のシューズが大半を占めている。アディダスは大半がタクミセンブースト(30人)を使用している。

国内メーカーの製品は市販ではなく、カスタム、つまり“特注品”が多いということが特徴であり、各々の足型にあったシューズを製作している。また、シューズ製作の段階で微調整が効くことに対するサポート面への期待、そういった需要をしっかり支えている。一方、海外メーカーは逆にカスタムが少なく(ほとんどカスタムすることができない)市販の商品で走っている選手が多い。「M.Lab」=ミムラボやニューバランスの「HANZO M.Lab」については以下の項目で述べる。

多くの日本人選手の足元を支えてきた三村仁司氏

テレビドラマの陸王で、その存在を世に知らしめた“シューフィッター”。ドラマ内でそのシューフィッターとして登場した人物のモデルは、今回の箱根駅伝でミムラボハンゾーのシューズを生み出した三村仁司氏に他ならない。三村氏は“治療界のゴッドハンド”ならぬ、“競技用シューズ界のゴッドハンド”であるが、陸上競技にとどまらず、イチローのシューズを手がけるなど、多くスポーツで、その選手ごとに合った“特注品”たる名作を量産してきた。

三村氏のそのシューズ製作のルーツは、1960年代後半のオニツカ株式会社(現アシックス)に始まる。それからシューズ作りのノウハウを重ね、瀬古利彦などのマラソン選手を筆頭に、平成に入ってからマラソンで活躍した選手で言えば、有森裕子、高橋尚子や野口みずきなどのシューズを手がけた。アスリート向けのヒット作で言えば、アシックスの“ソーティジャパン”を世に送り出し、一世を風靡した。しかし今や、時代は以下に述べるナイキの厚底シューズのトレンドであるが、2000年代前半の当時は、アシックスのソーティジャパンのような薄底で軽量のシューズこそが、マラソン金メダルへの近道と考えられていた。

(※現在ではソーティジャパンは生産終了となった。今でもソーティジャパンの根強いファンは多い)

三村氏は2009年にアシックスを定年退職。その後、自身のシューズ工房「M.Lab(ミムラボ)」を設立。2010年1月には、アディダスと電撃契約(三村氏といえば、それまでアシックスのイメージが強すぎた)を結び、ミムラボで制作したシューズを、アディダスのシューズとして世に送り出した。そのなかでも代表作は“タクミシリーズ”をである。そのタクミシリーズは日本人に合ったアシックスシューズの履き心地を継承したこともあって、この頃から従来のアシックスユーザーが、次第にアディダスのタクミシリーズに流れ始めた。

また、三村氏に寄り添うかたちでアディダスの特注品(上の図表で2人が履いたタクミセンミムラボ)を三村氏に製作してもらう選手が増えた。現在もシリーズ化が続くタクミシリーズは今回の箱根駅伝でも使用されたシューズで、国内外の選手に人気がある。しかし三村氏は、2017年春にはアディダスと契約解消。2018年から新たにニューバランスの専属アドバイザーに就任し、このミムラボハンゾー(上の図表で16人が使用)のデビューを迎えた。また、2017年春からこの冬にかけては「M」マークのミムラボブランド(上の図表で4種類=4人が使用)のシューズを製作した。

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©2018 Rolows

以上をもって、この棒グラフを見ていただきたい。今回の第94回箱根駅伝で使用されたシューズは、ナイキがシェアナンバーワンとなっているが、アシックス、アディダス、ニューバランスには三村氏の今までの功績を含めたパーセンテージになっているということを前提として理解していただきたい。

初トップに躍り出たナイキの分厚い戦略

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©2018 Rolows

今年の箱根駅伝(左の棒グラフ)と、昨年の同大会との比較(右の棒グラフ)を見ると、昨年シェア4番手だったナイキが今回トップに躍り出た。それは言うまでもなくヴェイパーフライ4%の登場によるものであるが、日本の学生駅伝においては、アシックス、ミズノがこれまでの2トップとされてきた近年では青山学院大・大フィーバーのアディダスが2トップからシェアを奪い取りそうな勢いで、駅伝/マラソンの足元戦国時代の到来を予感させた。この頃までは、上記にある通り国内のイノベーションが先行してきたが、2017年の夏にカーボンプレート内蔵の厚い黒船がオレゴンより来航。

瞬く間に、日本のそれまでのアスリートのためのランニングシューズの概念を変え、ナイキの分厚いプロモーション戦略が展開される。過去数年間、青山学院大が箱根駅伝で優勝し、アディダスが進めてきたタクミシリーズのプロモーション戦略に負けじと、ナイキも“巧みに”厚底シューズのプロモーションを行う。ナイキジャパンは6月に「BREAKING2 CHALLENGE RUN」を都内で開催。また、10月にはゲストにオリンピック金メダリストのモハメド・ファラー選手を迎えた「MO FAST TOKYO」を開催し、日本のランナーたちにズームフライ、ヴェイパーフライ4%の厚底イノベーションをアピールし、足元戦国時代の突破に成功。そして、今回ナイキが一気にシェアトップの座を手に入れた。日本の主要駅伝でナイキのシューズのシェアがトップになるのは初めてのことである。

また、ナイキのヴェイパーフライ4%を箱根駅伝で履いた選手は箱根駅伝で活躍した。なかでも上に述べた東洋大の選手では、1区の西山和弥、3区の山本修二、そして10区の小笹椋が区間賞を獲得。特に、1区の西山は1年生としては7年ぶりの区間賞で、1時間02分16秒の記録は1年生としては1区歴代2位(1位は一色恭志1時間02分15秒、3位は大迫傑1時間02分22秒)にあたる。

また、3区の山本は、3区歴代5位の好記録、日本人で竹澤健介、佐藤悠基、設楽悠太に次いで4番目。また、2区の相澤晃も区間3位ながら1時間07分18秒の東洋大歴代2位の好記録。さらに、箱根駅伝復路の翌日の1月4日には、ヴェイパーフライ4%の新色であるブルーの一般発売も行われ、箱根駅伝でみせたシューズの勢いそのままに、しばらくは厚底シューズの需要が高まりそうだ。

そうはさせまいと追随する各メーカー。陸王のアトランティス社のシューズで再注目されるミズノ、三村氏の獲得に成功したニューバランス、「TENKAシリーズ」で逆襲の灯火を点火し、天下を奪い返したいアシックス、そして、青山学院大の箱根4連覇で勢いに乗り、サブ2シューズの発売をこの先に控えるアディダス。新・足元戦国時代の幕開けは、この1年少々で日本の新たな年号の幕開けととも新たな局面を迎えるだろう。

 

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