五輪で金メダル獲得!! ファラー選手が語る「一度勝ったことによる難しさ」とは

東京駅前、和田倉噴水公園レストラン。ナイキの特設スペースに、同ブランドのロゴ〝スウッシュ〟が大きくプリントされたTシャツを来た人々が吸い込まれていく……10月6日。あいにくの雨となったこの日、トラック長距離種目においてロンドン、リオの両五輪で2冠、世界陸上で計6つの金メダルを獲得したモハメド(モー)・ファラー選手(英国)の来日に伴い、トークイベントが開催されました。

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Photo by Naoto Yoshida

9月16日にハーフマラソンの日本記録を更新する1時間0分17秒をマークした設楽悠太選手(ホンダ)もゲストとして参加。モデレーターは、400mハードル日本記録保持者で、世界陸上で2度の銅メダルに輝いた為末大氏です。

抽選で選ばれたランナーたちが、ファラー選手とのランニングセッションを前に『ナイキ BREAK THROUGH ラウンジ』と名付けられたトークセッションに参加しました。

(構成・吉田直人)

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勝ち〝続ける〟為の秘訣とは

【為末氏】設楽選手はファラー選手と一緒に走ったことがあるんですよね?

【設楽選手】はい。これまでも憧れの選手でしたし、今日こうして対談することができて嬉しいです。

【為末氏】ファラー選手の走りを間近で見たことがあるわけですよね? 僕らにとって未知の世界です。一体何が他のランナーと違うのでしょうか?

【設楽選手】そうですね。一緒に走ってみて感じたのは、ストライドの大きさです。一歩の幅が全然違うので、そこがやっぱり日本人との差、というか違いじゃないかと思います。

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【為末氏】なるほど。ファラー選手には8月のロンドン世界陸上のレースについて伺いたいと思います。振り返ってみてどうですか?

【ファラー選手】ロンドンはホームタウンですので、多くのプレッシャーがある中でしたが、楽しんで走ることができました。結果として1万メートルで金メダルが獲れ、大変嬉しく思っています。勿論、5千メートルでも獲りたかったのですが、なかなか難しいレースでした。ちょっぴり悔しいレース(2位)でしたが、まあ、そういうこともあります。私としては、2つのメダルが獲得でき、良いレースだったと思っています。

【為末氏】僕も現役選手だった頃にプレッシャーを感じることはありましたが、勝つことと、勝ち続けることではまったく違う難しさがあると思うんです。あなた自身が思う、勝ち続けられている理由にはどんなものがありますか?

【ファラー選手】一度勝ってしまうと、頂点に来たことで、各選手が自分を目標にして挑んで来るわけです。自分が皆の敵になるような感覚ですね。色々戦略を練られたり、研究されたり、プレッシャーも含めて。その中で、コツはやはり〝ハングリー〟でいること、「勝ち続けたい」という気持ちを強く持つことです。同時に自分の身体をしっかりケアすることも大切です。調子の悪い時はちょっとリカバリーを入れたりね。身体の調子を考えながら競技を続けることが大事だと思っています。

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【為末氏】設楽選手に伺いたいのですが、9月のベルリンマラソン、ベスト記録(2時間9分3秒)を出したレースとなりました。振り返ってみていかがですか?

【設楽選手】日本記録の期待も高い中でしたが、僕自身は特に日本記録は意識せず、まずは自己ベスト更新を目指して走りました。終わってみて、トップの選手(E・キプチョゲ:2時間3分32秒)とは6分程度の差があります。焦らず、少しずつ縮めていきたいと思っています。

ブレイクスルーは〝チェコ〟と〝スウェーデン〟

【為末氏】続いて、〝ブレイクスルー(障壁の突破)〟というテーマについて伺います。若い設楽選手にとって今回のレース、完璧なレースではなかったと思うんですけれど、自分の中で、これから突破しなくてはならない壁は感じましたか?

【設楽選手】もちろん前半は、僕の持ち味である積極的な走りができたことは良かったのですが、後半の失速が目立っています。35km以降、呼吸は楽でも身体が思う様に動かなくなってしまいました。その部分はこれから経験を積んで克服しようと思っています。後半にしっかり粘ること可能になれば、今のタイムよりも1分以上は縮められると思う。次のマラソンまではまだ期間がありますので、しっかり修正していきたいですね。

【為末氏】ファラー選手はどうですか?ご自身のマラソントレーニングでも感じることはありますか?

【ファラー選手】マラソンとトラックはまったく違いますからね。現在、来年4月のロンドンマラソンを目指してトレーニングをしていますが、設楽さんもおっしゃる通り、マラソンには経験が必要です。マラソンという競技を理解し、どのように走るかということを考え抜くことが非常に大切です。1度走っただけでわかるものではありませんが、楽しみながら、距離を重ねながら、今までとは異なる競技ですが、様々なトレーニングをしながら準備したいと思っています。

【為末氏】1万メートルとマラソンで最も異なる部分をひと言で言うと?

【ファラー選手】メンタルですね。マラソンは長いですから(笑)。

【為末氏】今日はこの場所に、ブレイクスルーを目指すランナーの皆さんが集まってきていると思います。私は現役時代、ハードルをやっていました。ずっと同じトレーニング。苦しい練習。でも記録が変わらない。それでも、ある時急に(記録が)伸びることがある。〝その時〟が一体、いつ来るのかも分からない中で練習を重ねていたな……という印象があるんですね。それを踏まえてお二人に伺いたいことがあります。まずファラー選手、ご自身の中で苦しい時期をどのように乗り越えたのか、もう一つは、ブレイクスルーが起きた瞬間はどこにあったのかを教えていただけませんか?

【ファラー選手】チャンスは訪れた時にしっかり掴むことも大事ですが、やはりどんなに練習をしても結果がついてこない時もあります。そんな時、私は今までやってきたことを振り返りながら、自分に正直になり、身体の声を聴くということを繰り返していたように思います。ブレイクスルーを感じたのは、2010年に欧州選手権で5千メートル、1万メートルで優勝した時です。「自分はこれでやっていける」と思うことができました。やはり、自分を信じるということが凄く大事だと感じています。

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【為末氏】設楽選手はどうでしょう?

【設楽選手】やはり、先月行われたチェコのハーフマラソンで、日本記録を出した時です。あのレースはあくまでもベルリンマラソンに向けた練習の一環で出場したんですが、特に(日本記録は)狙っていない試合でこうして更新することができたのも、自分を超えられた瞬間だと思っています。またマラソンでも、自分を超えていきたいですね。

【為末氏】そのブレイクスルーの瞬間というのは、例えば「ここで自分は変われそうだ」と思ったのか、それともレース中に「こんな力が出るのか」と思ったのか、イメージとしてはどちらの方が近いんでしょうか?

【設楽選手】そうですね…走っている途中で「これはいけるぞ」という感覚はありましたね。

【為末氏】それはスタートじゃなくて走り出した時に?

【設楽選手】はい。スタート前はまったくそんな感じはなくて、走っているうちに段々とそういった感覚になっていきました。

【為末氏】ファラー選手は2010年のブレイクスルーの瞬間はどんな感覚でしたか?

【ファラー選手】欧州選手権は4年に1度の大会で、その前は2位(※)だった為、更に上を目指したいという思いで走りました。そうしたら、金メダルがひとつ獲れたので、1個取ったらもうひとつ…という思いで走りました(笑)。

※2006年、スウェーデン・イェーテボリで開催された欧州陸上競技選手権5千メートルではスペインのJ・エスパニャに敗れた。

シューズは最重要のエクイップメント

【為末氏】チャンスを逃すなということですね。因みに今日もこの会場に置いてありますが(※)、ランナーにとって重要なのはやはりシューズ。ファラー選手にとってランニングシューズとは?

※ナイキ社は今年、速さを求めるズーム シリーズである『ナイキズームヴェイパーフライ4%』『ナイキズームフライ』『ナイキエアズームペガサス34』を発表した。

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【ファラー選手】最も大事なエクイップメント(器具)です。最高のシューズを履いていると思えば、そして、最高のトレーニングを積んだと思ってスタートラインに立てれば、自信に満ち溢れる中で走ることができると思いますよ!

【為末氏】普段はどのようにシューズを使い分けていますか?

【ファラー選手】自分にとって『ナイキ ズーム フライ』はトレーニングシューズとレーシングシューズの中間にあるような感覚ですね。普段のトレーニングでは『ナイキ エア ズーム ペガサス34』を履いているんですけれど、スピードのあるトレーニングの際にはこの『ナイキ ズーム フライ』を履いています。そして『ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4%』、これは本当に軽くて、履いた瞬間に「いける!」と思えるようなシューズですよ。

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【為末氏】僕には〝速いシューズは薄い〟というイメージがずっとあったんですが、ソールに厚みがあるにも関わらず、非常にスピードが出るんです。それが最初にこのシューズを見た時に感じたことです。履いてみた時にどんな感覚を持ちましたか?

【ファラー選手】実際、私はこの『ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4%』の開発に関わっていて、ナイキ本拠地のオレゴンでトレーニングをしていたので、発売の3年程前からデザイナーや開発者たちと一緒に、試作品のテストでトレッドミルを走ったり、自分の意見を出したりして、発売前からずっと見ていたものなんです。テストする上で私の意見も反映してもらいながらシューズの開発に関わりました。クッション性やサポート性も備えつつ推進力をもつ、よりスマートなシューズになりました。『ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4%』は内部にカーボンファイバーのプレートが入っているので、本当にバネのような感覚を持てる推進力と反発性を備えたシューズに仕上がったなという印象ですね。

【為末氏】設楽選手はベルリンマラソンで履かれたそうですが、その時の感触はどうでしたか?

【設楽選手】そうですね。僕も今までは薄いシューズで走るのが当たり前だと思っていました。でも実際に履いてみると、疲労感が以前のシューズとはまったく異なっていて。それまでのシューズでは、ワンレース走ったら翌日は走れないくらいに疲れていたんです。でも『ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4%』にしてからは、連戦に対応できている。9月5日から海外遠征に行っていたんですが、そこで3レースしっかり走れましたので、それはやはりシューズのおかげかなとも思っています。

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ブレイクスルーは伝播する

【為末氏】最後に、設楽選手から会場の皆さんに何かメッセージはありますか?ブレイクスルーをするにあたって意識すべきことがあれば。

【設楽選手】やっぱり、まずは目標を立てることが大事です。目標を達成する為には何をすればよいか、しっかり考えて練習に取り組めば、結果は必ずついてくると思う。まずは自分にあったトレーニングを見つけて、試合に臨んでほしいと思います。

【為末氏】ファラー選手、あなたの走りで、多くの人がチャレンジをしようという気持ちになったと思うんです。そういった意味で〝ブレイクスルー〟というのは様々な人々に伝播していくんじゃないかと。皆さんに何かメッセージがあれば。

【ファラー選手】多くの人に刺激を与えられたことを凄く嬉しく思っています。私自身、子供の頃にシドニー五輪のレースをテレビで観て、1万メートルの決勝で最後の数メートルの接戦に凄く感動しました。それからというもの、私も五輪チャンピオンになりたいという思いで、本格的にトレーニングを重ねるようになりました。そして、地元開催となったロンドン五輪もあり、結果として2つのゴールドメダルが獲れて、非常に嬉しかったです。皆さんにとっては今度、東京オリンピックがあります。素晴らしい機会だと思います。そこに目標を定めて頑張って欲しい。勿論、五輪なんて誰もが出られるわけじゃありませんが、それぞれのゴールを作りながら、自分を信じて頑張って欲しいと思います。

トークセッションを終え、全員揃って、ファラー選手お馴染みの『Moポーズ』。記念撮影を終えて会場の外に出ると、待っていたかのように弱まる雨。〝ブレイクスルー〟を果たさんと集まったランナーたちは、ファラー選手と共に皇居でのランニングセッションへ駆け出していきました。

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Photo by Naoto Yoshida

多忙な合間を縫ってファラー選手がRuntrip に語ってくれた今後のビジョンとは。

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