大迫の勝負どころは!? モーエンって誰!? 福岡国際マラソンを振り返る

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Photo ©2017 SushiMan Photography  史上初の非アフリカ人の公認コースサブ2時間06分を達成したモーエン

12月3日、第71回福岡国際マラソン選手権大会が開催され、33kmからのビダン・カロキとの競り合いを制したノルウェーのソンドレ・モーエンが2時間05分48秒の欧州新記録で優勝した。2位には2時間07分10秒でウガンダのスティーブン・キプロティクが入り、そのキプロティクと終盤まで競り合ったナイキ・オレゴン・プロジェクトの大迫傑が、日本歴代5位の好記録となる2時間07分19秒で3位に入った。

その他の日本人選手は、大塚製薬の上門大祐がサブテンの2時間09分27秒で6位入賞、中間点を前に先頭集団から離れてしまった川内優輝は2時間10分53秒で9位、初マラソンとして注目された神野大地は2時間12分50秒の13位に終わった。2020年東京オリンピックマラソンの日本代表を決定するMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)出場への権利は、大迫傑、上門大祐、そして7位の竹ノ内佳樹(2時間10分01秒)が獲得した。

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Photo ©2017 SushiMan Photography 大迫は日本歴代5位の記録でゴール。瀬古氏(右)も笑みを浮かべた

真の実力者のみが残る:レース展開

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レース中は風もほとんど無く、日差しはあったものの気温はそこまで高くならない絶好のコンディションのなかで行われ、ペースメーカーが非常に安定したペースで30kmまでを先導した。

★5km:14分59秒 – 10km:30分00秒 – 15km:44分59秒 – 20km:1時間00分01秒

– 中間点:1時間03分19秒 –  25km:1時間15分04秒- 30km:1時間30分07秒

30kmまでに川内や神野は先頭集団から脱落しており、ペーサーが外れた30kmからは、モーエン、カロキ、大迫、キプロティクの4人に絞られ、そこからペースが上がった。ここで対応できるのが大迫の強みであったが、33km過ぎからはカロキとモーエンの一騎打ちに。カロキのロードでの強さは、すでに日本の駅伝でおなじみであるが、彼のマラソンでの強さはまだ未知数。それをみる好機が訪れたが、そのカロキをさらに上回ったのがノルウェーのモーエンだった。

モーエンは30kmからゴールまでの12.195kmを、それまでの1km:3分00秒ペースよりも速い1km:2分55~56秒ペースで走り抜けた。福岡国際マラソンのレース展望で、“今回の台風の目になるのはモーエン”と述べたが、まさにレースはそのように展開された。このレースまでのモーエンの自己記録はサブテンすら達成していなかったが、彼はここで優勝する実力をつけていて、見事にその実力を遺憾無く発揮した。

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モーエンとの駆け引きから脱落したカロキは、終盤にペースを落としてしまい、3位争いをしていた大迫とキプロティクに追い抜かれた。大迫はカロキを抜いた後も、ロンドンオリンピックとモスクワ世界選手権のマラソンで2回の金メダルを獲得しているキプロティクに喰らいついたが、最後まで及ばす。それでも、2度目のマラソンで堂々たる2時間07分19秒での3位は、今の日本のマラソン界に新たな光をもたらしたといえるだろう。

 

【第71回福岡国際マラソン結果】

1位 ソンドレ・モーエン(ノルウェー):2時間05分48秒=欧州新記録

2位 スティーブン・キプロティチ(ウガンダ):2時間07分10秒

3位 大迫 傑(ナイキ・オレゴン・プロジェクト):2時間07分19秒(MGC出場権獲得)

4位 ビダン・カロキ(ケニア、DeNA):2時間08分44秒

5位 アマヌエル・メセル(エリトリア):2時間09分21秒

6位 上門 大祐(大塚製薬):2時間09分27秒(MGC出場権獲得)

7位 竹ノ内 佳樹(NTT西日本):2時間10分01秒(MGC出場権獲得)

8位 ギザエ・マイケル(ケニア、スズキ浜松AC):2時間10分46秒

9位 川内 優輝(埼玉県庁):2時間10分53秒

10位 深津 卓也(旭化成):2時間12分04秒

マラソン2戦目で日本歴代5位・大迫傑の快走

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大迫にとっては、今回のペースはまさに絶好のペースでレースが進んでいた。30kmからペースが上がり、大迫は素早く対応。その後の33kmでカロキとモーエンがスパートしたとき、大迫は自分のペースを保つことに集中した。そして、カロキが終盤に失速したことを考えると、その時の大迫の判断は間違っていなかったであろう。レースの終盤には、マラソンの経験が豊富なキプロティクと競り合い、ここぞ、というマラソンの我慢どころを経験した。2回目のマラソンで堂々とレースを進めて、この2時間07分19秒という素晴らしいタイムを出したことは賞賛に値する。

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大迫はレース中、“きっと自分の走りをすれば、結果もタイムも後でついてくる”と考えていただろう。そして、最初からあえてタイムに固執せず、ありのままの自分の走りを100%発揮することに集中した。ゴール地点の平和台陸上競技場では大歓声を受ける大迫。その素晴らしいフィニッシュのあと大迫は、彼が大きな信頼を寄せているナイキオレゴンプロジェクトのピート・ジュリアンコーチと抱き合った。お互いを信頼し、尊敬し、ともに高みを目指していくプロチームの姿をそこにみた。今回のレースに向けて大迫は、家族をオレゴン州のポートランドに残し、コロラド州のボルダーで高地トレーニングにはげんだ。ほとんどが一人でのトレーニングをこなし、身の回りのことも自分でこなした。長距離走者の孤独の先には栄光が待っている。マラソンとは自分自身との闘いであり、そこには寛大な人間力が必要とされる。自らの走力だけではなく、一回り成長した人間力をもって、大迫はナイキのプロ選手として相応しい走りをした。

【大迫傑のラップタイム】

★5km:15分01秒 – 5〜10km:15分02秒 – 10〜15km:14分58秒 – 15〜20km:15分03秒

 – 20〜25km:15分01秒 – 25〜30km:15分03秒 – 30〜35km:14分55秒

 – 35〜40km:15分18秒  – ラスト2.195km:6分58秒=2時間07分19秒

突如あらわれた新星たち

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欧州新記録の2時間05分48秒で優勝したノルウェーのソンドレ・モーエンは、アフリカ勢が圧倒する現在の世界の長距離界に新たな歴史を作った。モーエンの終盤のその素晴らしい走りは、疑いようのない圧倒的なパフォーマンスであり、現代の長距離界の勢力図に一矢報いる走りとなった。モーエンは昨年の秋からコーチを変え、そこからケニアのイテンで単独の住み込みでの長期合宿を行った。

ケニアの厳しい環境のなかで自分を律し、大迫と同じく孤独のなかでも自分の可能性を信じてトレーニングを継続してきた。この二人の今回のパフォーマンスは、東京オリンピックでの再戦を期待させ、アフリカ勢に対する対抗勢力の筆頭としてその激しいトップ争いに面白さを加えた。モーエンのコーチのレナート・カノーバによると、モーエンの来年のマラソンは“1本のみ”とのことで、そのレースがどのレースになるかが興味深い。おそらく秋のベルリンマラソン、またはアメリカかヨーロッパのマラソンとなるだろう。

【ソンドレ・モーエンのラップタイム】

★5km:14分59秒 – 5〜10km:15分02秒 – 10〜15km:14分58秒 – 15〜20km:15分04秒

 – 20〜25km:15分01秒 – 25〜30km:15分04秒 – 30〜35km:14分37秒

 – 35〜40km:14分38秒  – ラスト2.195km:6分25秒=2時間05分48秒

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日本人選手の新星は、サブテン達成の2時間09分27秒で6位に入り、MGC出場の切符を手に入れた上門大祐である。上門は神野大地と同世代の高校時代はほぼ無名の選手で、京都の北陵高校を卒業し、高校の近くにある京都産業大学に進学。上門は箱根駅伝を経験していないが、学生時代から長い距離のロードを得意としてきた。

今年の3月のびわ湖毎日マラソンでは2時間12分58秒で走り、その頃よりマラソン適正をみせていた。そして、この福岡での快走に向けて一歩ずつ積み上げてきた。マラソンとは、ダークホースが突如名乗りあげることのある種目であり、そこに箱根駅伝を経由する必要性は絶対では無い。今回、箱根駅伝のスターが注目されたなかで、上門はプレッシャーのかからない立場で走れたが、今後注目される立場となれば、そこから彼の真価が問われるだろう。

スター選手の見据える先は

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川内優輝は中間点までに先頭集団から離れてしまった。先頭集団は昨年よりも速いペースで進んでいたこともあり、“単純に昨年のレースよりもレースレベルが上がった”ということがいえる。川内は今回も後半に粘って、最後は9位まで順位を上げたのはさすがである。しかし、彼にとってはこの福岡のレースをもって何かが変わることもなく、また次のマラソンに向けて再始動するだけである。川内は2週間後に防府読売マラソン、新年の元旦にはアメリカのマサチューセッツ州で行われる“マーシュフィールド・ニューイヤーズデイ・マラソン”でマラソンを走る予定だ。

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神野大地にとってはこのレースはどのように映っただろうか。神野はこの福岡でマラソン選手としてのスタートを切った。川内よりも長く先頭集団には喰らい付いたが、結果は2時間12分50秒の13位に終わった。目標にしていた2時間08分59秒には届かなかったが、いつか有言実行を果たす未来のレースを想像して、神野は次なるマラソンに向けてまた走り出す。神野は、この経験を今後に確実に生かすだろう。

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