〝福島をランニングで元気に〟。東日本大震災を機に回りだした時間、動き出した仲間――〝マウンテンプレイヤー〟眞舩孝道さんインタビュー・後編

サロモン・スントを始めとして、多くの企業にスポンサードされながら、福島県を中心に活動する〝マウンテンプレイヤー〟眞舩孝道さん。前・中・後編で描く眞舩さんの半生記。後編では、東日本大震災をきっかけに志向した、地元への貢献活動について伺いました。

福島県人、ハワイで日の丸を背負う

東日本大震災が発生した2011年。地元・福島への貢献を模索していた眞舩さんは、8月に開催された『XTERRA JAPANチャンピオンシップ』のトレイルランニング部門で優勝を果たし、ハワイで行われるレースに派遣されることになりました。

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東日本大震災の年に開催されたXTERRA JAPANで優勝(提供:眞舩孝道)

「福島県人が日の丸を掲げて海外レースに行く。当時、福島が腫れ物に触る様な状況の時だったので、アピールする機会になりました」と振り返ります。

ハワイから帰国し、次のアクションを考えていた眞舩さんは、思いを同じくする人物と引き合うのに、それほど時間はかかりませんでした。

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日の丸を背負い、福島県人としてハワイを走った(提供:眞舩孝道)

眞舩さんの気持ちに火を付けた県庁マン

1月下旬、JR福島駅。待ち合わせの時刻になると、細身の男性が現れました。高根修さん。福島県庁で勤務しています。ランニングを愛する県庁マンとの遭遇が、眞舩さんの3つ目の出会いです。

「私は毎年『サロマ湖ウルトラマラソン』に出場しているのですが、地域に溶け込んだ素晴らしいイベントだと思っていました。地元でもやりたいと思い、まずはプライベートの活動として、地元の方々と協力して福島県初のフルマラソン大会を作りました。『飯坂・茂庭っ湖マラソン』と言うんですけど、その大会に眞舩くんが出場した。彼との出会いはそれがきっかけでした」

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高根修さん。眞舩さんと共に福島のトレイルランコミュニティづくりに尽力した(Photo by Naoto Yoshida)

「フルマラソンを軌道に乗せてから、今度は大規模なリレーマラソンを2011年の夏に企画していました。ところが、3月に震災があって、それどころではなくなってしまった。当時は県全体が落ち込んでいました。閉塞感があった地元の為に何かしたい。そこで浮かんだのがトレイルランニングでした。丁度、東北のトレイルランニング黎明期でもあり、自分もハマりつつありました。眞舩くんが山を走っていたのを知っていたから、山の魅力とトレイルランニングを使って地域の交流人口を増やしていかないか、と提案しました。そして、風評を払拭したい、トレランの魅力を広めたい、と始まったのが『ふくしまトレイルランニング振興会』です」

活動内容はトレイルランニングの初心者講習会や、情報発信、トレイルツアーもワンデーから宿泊型まで幅広く実施。来県者に加え、地元のトレイルランニング愛好者も徐々に増えていきました。

「山を走るという新しいスタイルを福島に浸透させたいという気概が強かったんです。地域に根ざしていけるように、トレイルランニングのルールやマナーを俺達が創っていくんだと。愛好者のコミュニティーの場として、東北初となるトレイルランニングクラブも作りました」

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提供:高根修

高根さんに眞舩さんについて聞くと、こんな答えが返ってきました。

「彼がどんどん発信をして、福島のPRに繋がる。僕らは彼を応援する。それが結果としてクラブのまとまりに繋がっていると思います。眞舩くんはクラブのシンボルです」

「最初はトレランを社会活動にしようとは思っていませんでしたが、震災が起きて、風評をなくそう、福島に人を呼ぼうと活動が始まった。トレラン自体に地域と結びつく楽しさがあるんです」

〝シンボル・アスリート〟は動きを止めない

視点は眞舩さんに戻ります。

「高根さんから提案をされた当初は戸惑いもありました。自分の競技にプラスになるだろうか、と。ただ当時、多くの人から『トレイルランニングをやってみたい』という相談を受けるようになっていました。それを高根さんに話したら『コミュニティーを作ることができれば、仲間がもっと増えていく』と言われて」

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提供:眞舩ファミリー

2人を中心にした思いから2012年に生まれた『ふくしまトレイルランニング振興会』と『ふくしまトレイルランニングクラブ』。現在も前者はトレイルランニングの魅力を伝えるNPO(非営利活動団体)として、後者はトレイルランナーの交流の場として活動しています。なお、クラブには現在、隣県や東京など県外も含め120名が所属しています。

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提供:眞舩孝道

コミュニティーを地元の人々に任せ、眞舩さんはまた新たなアクションを始めています。2013年にモンゴル・ゴビ砂漠で行われたステージレースで総合優勝を果たすなど、チャレンジングな姿勢は衰えを知りません。2016年には、安達太良山(福島県中部の山域)の登山道を日の出から日の入りまでにひと筆書するFKT(※)に挑戦し、成功。翌年には、福島県いわき市で開催された『いわきサンシャインマラソン』で、2人の息子さんの体重(当時:長男24kg+次男6kg)を合わせた30kgのザックを背負い、フルマラソンを走破しました。どの挑戦にも通底するのは、「福島にこんな男がいる」という発信です。
※FKT:Fastest Known Time(ファステスト・ノウン・タイム)の略。特定のトレイルコースの個人レコードを競うというもの。

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2013年にはモンゴル・ゴビ砂漠マラソンで総合優勝を果たした(提供:眞舩孝道)

「人生の登山口なんていっぱいある」

そんな眞舩さんに、最後に尋ねました。人生の分岐点で、意識していたことは?

「自分は迷ったときにどっちに進んでも、成功だと思う様にしています。ちょっと落ち込んでも、何年か後には必ず芽が出る、と。登山口なんていっぱいあるんだから、登り方も色々だし、エスケープも寄り道もあっていいんです」

眞舩さんがFKT挑戦の場にも選んだ安達太良山は、9つの登山口を持っています。眞舩さんに言わせると、「この山には母性がある」そうです。

「地形や景色のバリエーションの豊かさが安達太良山の魅力です。登ると力の配分を教えてくれる。それがどこかお母さんに掛けられる声と似ているというか。山を走ると、心がマイナスになることはまずありません。必ずプラスになっているんです」

福島と共に生きてきた〝マウンテンプレイヤー〟眞舩孝道さんは、今日もまた、トレイルを駆け巡っています。

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「〝福島をランニングで元気に〟。東日本大震災を機に回りだした時間、動き出した仲間――〝マウンテンプレイヤー〟眞舩孝道さんインタビュー・後編」の画像
SNSにアップされた写真の数々。誰かに撮影されている様に見えて、実は〝自撮り〟が多い(提供:眞舩孝道)

 

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Photo by Naoto Yoshida

眞舩孝道(まふね・たかみち)1978年生まれ。2児の父。高校までは野球少年。大学からフルマラソンに挑戦し3年目にして2時間26分で走破。卒業後、地元福島県に就職し国体山岳競技(縦走)と出会う。現在は故郷の白河市西郷村に拠点を構え、広域医療法人職員として勤務する傍ら、福島の大自然を駆ける「マウンテン・プレイヤー」として全身全霊のマウンテンライフを発信。SNSを通じて発信されるライフスタイルは高く評価され、多数のスポンサー企業からサポートを受けている。

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