「陸上・マラソンとは違う……」トレイルの魅力を語る荒木宏太さん

箱根駅伝出場経験をもつランナーがトレイルランの世界に足を踏み入れ、そこに没頭する理由とは一体? 今回はそんな荒木さんの人物像を探るべく、お話を伺いました。

前回のインタビューの続きになります。前編はこちら

「トレイル」との出会い

「「陸上・マラソンとは違う……」トレイルの魅力を語る荒木宏太さん」の画像
左から2人目が荒木さん

――大学を卒業してから自衛隊に入隊されたそうですが、どのような経緯があったのでしょうか。

大学時代に「自衛隊体育学校にどうか」と、スカウトがあったんです。走るための環境がものすごく良かったので、やるならもっと高みを目指したいという気持ちで選びましたね。

――我々一般人は自衛隊体育学校での生活が全く想像がつかないのですが、実際どのような生活をされていたのですか?

自衛隊の時は、まず「教育」が半年間あるので、その期間は全く走れないんですよ。その間は腕立て伏せとか、腹筋とか、鉄棒などの筋トレ(訓練)ばっかりでしたね(笑)。

有酸素運動がないので、なかなかスタミナに対する不安があったのですが、「こういう時期も必要かな」と割り切った考えでいました。でも半年間の教育が終わって、いざ走れるようになったら練習が辛かったですね。

――自衛隊の中で「陸上部」みたいなものがあるんですか?

「持続走練成隊」という部活のようなものがあったんです。指導者もいて、実業団みたいな感じですね。自分は、金栗四三さんが考案した「富士登山駅伝」という大会に出ることを一番の目標としている、「滝ケ原自衛隊」というところに配属されました。
※滝ケ原自衛隊はチームとして「ニューイヤー駅伝(全日本実業団駅伝)」への出場経験もある。

富士山の近くにある駐屯地だったので、大砂走や登山道などを走るのが身近になっていったんです。それでも5000mや10000mの自己ベストが出たりして、単に平坦の道を走るだけじゃなくて、アップダウンや不整地を走るのも有効的なんだなと気づきましたね。

「「陸上・マラソンとは違う……」トレイルの魅力を語る荒木宏太さん」の画像

――その当時はマラソンもされてたんですか?

マラソンに初めて出たのは自衛隊に入って4年目か5年目ですね。2011年の河口湖マラソンに出て、そこでたまたま優勝したんです。2時間22分くらいだったかな。でも、当時からマラソンだけを追求したいという気持ちは無かったですね。

その後、エリートの枠で東京マラソンにエントリーしたんですよ。2時間20分は切れる順調なペースで前半から行けたんですけど、39㎞地点で筋断裂になってしまって……。

そのリハビリの一環で始めたのがトレイルランニング。トレイルだったらゆっくりのペースだし、やれるのではないかと。その後2012年の4月に「日本郵政グループ」に職場を移しまして、初めて「西丹沢アドベンチャートレイル(48㎞)」に出場したんです。ケガが治ってすぐの状態だったのですが、そこでもたまたま優勝することができました(笑)。

――なるほど。ケガをしたことがトレイルを始めるきっかけだったのですね。そもそも5年間在籍した自衛隊を離れ、日本郵政に移った経緯というのは?

当時、日本郵政グループの監督をされていた方に「ウチでやらないか」と話をしていただいたんです。一応〝部〟としての認識で入ったのですが、実際は同好会に近い感じでした。一応実業団駅伝の予選会なんかも走っていたんですが、なかなか経営状況が厳しいような感じで、会社からの協力はしてもらえませんでした。

そして、「このまま日本郵政はいい方向には進まんぞ」という流れになり、会社を離れることを決意しました。期待していたのは、日本郵政が陸上部としてしっかりとした基盤を作って運営をしてくれることでした。が、そういう希望もなかったので、それなら熊本に帰って新しい基盤を作ろうと。トレイルランというのを関東で知って、知名度も少しずつ出てきていたので、「九州トレイルランを少しでも広げたい!」という思いで帰郷しました。それが2013年の2月です。

※日本郵政グループはその後2014年4月に女子陸上部を発足し、16年10月の全日本実業団女子駅伝で初優勝を遂げるまでに成長。

純粋に〝走る〟ということが楽しいと思うように

「「陸上・マラソンとは違う……」トレイルの魅力を語る荒木宏太さん」の画像

――先ほどトレイルに目覚めたきっかけをお話していただきましたが、改めて陸上やマラソンとは違う、トレイルの魅力はどのようなところでしょうか?


やはり純粋に走るというのを楽しめるところですね。自分はこれまで陸上競技や駅伝など、他人に〝勝つ〟ことを中心にやってきましたが、トレイルは基本的に自分との戦いなので、自分のカラダを知るとか、自分自身を見つめ直さないと走れない競技なんです。

その面白さに取り付かれて、〝走る〟ということの概念が自分の中で変わった気がするんですよね。今までは勝てば嬉しいとか、負ければ悲しいというレベルだったのが、今では純粋に「走ることが楽しい」。そこに行きついたんですよね、自分の中で。

――ちなみに普段はどのくらい走られているんですか?

最近はマラソン練習をしているので、毎日20㎞以上は走っていますね。ポイント練習で35㎞走とか、距離走をメインにやっています。メニューだけを見れば陸上の長距離選手と変わりませんが、平坦なところではなく、峠とか山道とか起伏があるところを選んで走っています。そこは普通のマラソンランナーとは違いますね。

「「陸上・マラソンとは違う……」トレイルの魅力を語る荒木宏太さん」の画像
UTMBを2度も制したグザビエ・テベナール選手(フランス)とイベントで共演!

――トレイルを本格的にやっていくなかでの、マラソン大会出場というのは、どういった位置づけなのでしょうか?

自分の中で、マラソンのタイムも落としたくないという〝こだわり〟みたいなものですね(笑)。できればスピードを落としたくないですし、そこも諦めたくないんです。ただ単にトレイルの練習ばかりやってもスピードにつながらないので、ある程度スピードを維持できるような、かつ起伏を含んだトレーニングをやっているんです。35㎞走とかもキロ3分40秒とマラソンのレースに近いペースで走ったりするんですが、これってトレイルには必要ないんですよね。トレイルはキロ6分のペースで優勝できる大会ばかりですから(笑)。

スポンサーを募集しています!

「「陸上・マラソンとは違う……」トレイルの魅力を語る荒木宏太さん」の画像

――現在、荒木さんはスポンサーを募集していると伺ったのですが……

そうなんです! 現在グリコやアシックスなどがついているのですが、まだまだですね。海外でもっと活躍したり、走る楽しさを伝えていけたらと考えているので、そのためには支援していただけるスポンサーの方々の力が必要です。

――世界選手権の海外渡航費もすべて自費だそうですね……

はい。一応IAAF(国際陸上競技連盟)の中に入っている大会なのですが、日本の窓口がそこまで力を持っていないので……。そこを何とかサポートしてくれる企業やスポンサーが必要なんです。海外への渡航費用だけで何十万円もかかってしまいますから……。

――日本代表になっても大変ですね……。最後に、改めて2017年の目標を伺ってもよろしいでしょうか?

2017年はイタリア(世界選手権)で好成績を残すことですね。今年はそれしか考えていません。そして日本に凱旋帰国をして、もっとトレイルランが広まってくれたらなと思います!

――あと5ヶ月ですね。がんばってください!

プロフィール

トレイルランナー荒木宏太 ~熊本から世界へ をテーマに走り続ける箱根出身ランナー!~

「「陸上・マラソンとは違う……」トレイルの魅力を語る荒木宏太さん」の画像

出身:熊本県和水町
生年月日:1984年5月22日(32歳)
経歴:三加和中学校→鎮西高校→山梨学院大学(法学部)→自衛隊体育学校→日本郵政→地元熊本へ
在住:熊本県和水町
家族:妻と子ども3人
契約スポンサー:アシックス
サポート:ウルトラスパイアー(ザック)、江崎グリコ株式会社「POWER PRODUCTION」、オンヨネ(コンプレッション)、ニューハレ(テーピング)

戦績

2006年 出雲駅伝 2区出場
2004・2005年 全日本大学駅伝 3区
2007年 箱根駅伝 4区
2009年 上海東レハーフマラソン 3位(招待出場)
2011年 河口湖マラソン  2時間22分22秒 優勝 (自己ベスト)
2012年 ベルリンマラソン 招待出場
2012年 西丹沢アドベンチャートレイル 優勝 (トレイルランをスタート)
各地方レースの優勝を次々獲得
2014・2015年 ASICSのプロモーションでフランスへ。日本代表として選出
2016年 熊本城マラソン 2位
2016年 STY 70㎞・・・40㎞地点で中止 地点トップ
※世界のグザビエ選手(仏)と共演!
2016年 ハセツネCUP 70km 3位
2016年 熊野古道トレイルレース 優勝 イタリア世界選手権出場権獲得!
2017年 イタリア世界選手権で日本人過去最高順位を目指す!

荒木宏太さんのFacebookページ https://www.facebook.com/kota.araki.runner/


こちらのインタビュー記事も人気です

松永貴允が書いた新着記事
RUNTRIP STORE MORE
RANKING
「HEALTH」の新着記事

CATEGORY