プロ転向後、初フルマラソンを終えた八木勇樹の想い

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所属していた実業団を退き、2016年7月に独立、11月に初のフルマラソンを走り、プロランナーとしての一歩を歩み始めた八木選手。ハーフマラソンや5000m、10000mといった種目で前人未到の華麗な実績を持ちながら、東京五輪出場を目指して独立を決意した彼に、独立後の半年で感じていること、そして未来の展望を聞いてみた。

トラック種目からフルマラソンへの転向

プロ転向後、フルマラソンという種目で戦おうとしている八木選手。これまでの種目との違いはどんな風に感じているのだろうか。

「これまでやってきたこととは別次元の要素が必要になってくると感じています。今はようやくスタートラインに立てたという楽しみな気持ちですね。これまで戦ってきた種目で言えば、5,000mの延長に10,000mがあり、10,000mの延長にハーフマラソンがありました。でもフルマラソンはハーフの延長ではなかった。だからこそ特別な対策が必要で、これまで培ってきた自分のやり方をアレンジする必要があると感じています。」

今はどうやってマラソンの結果を出すために己を導いていくかを考察するのが楽しいとのこと。

しかし、実は短い距離の方が好きだという八木選手。なぜフルマラソンにチャレンジしてみようと思ったのか。

「自分がまだ未体験の領域を常に求めているんだと思います。きついことをやりたいんでしょうね。勝ち負けには一番こだわっていて、昔から“誰よりも速く走りたい”という願望が強くあります」

八木選手のこの言葉に嘘はなさそうだ。実際、中学生の頃から部活の練習終に、必ず一人でタイムトライアルをしていたそう。中学生ながらにして、毎日2.5kmのタイムトライアルを、しかも練習後に欠かさず行う。全ては「誰よりも速く」走るためだった。

中学時代の練習は決して楽なものではない。ただ、与えらえたことはやりつつも、自分のやりたいことは自分で決めるというスタンスでずっと練習を積み重ねてきた。たとえ集団での練習でペースが決められていたとしても、自分を追い込むに値しないと感じれば決められたペース以上のスピードで走り、倒れそうになるまで追い込んだ。

中学時代はスター選手ではなかったと自分を振り返る。それでも他校のライバルより速く走るには、自分が必要だと思うトレーニングを妥協なく行う、その姿勢は今も原点になっていると語る。

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フルマラソンを走ってみて

初めてのフルマラソンは、今年の11月。地元神戸マラソンだった。
感想としては「全然思い通りに体が動かなかった」そう。もともと緊張しやすいタイプで、過度に自分にプレッシャーを与えてしまう癖があり、初マラソン、地元のレース、というプレッシャーからか、ハーフ過ぎですでに辛いレース展開だったという。その結果を踏まえ、今後どんな対策を考えているのかを聞いてみた。

「そこは2つに分けようと思ってます。距離走をもっと増やすことと、スピードで押していくペース走。それも、練習のための練習ではなく、レースを想定した練習を積むことですね。ハーフでエネルギーが切れることはないものの、フルマラソンだと走っている途中にエネルギー切れの不安が頭を過ぎります(笑) もっとハイペースで押していけるようになるために、エネルギー効率をどうマネジメントするかが課題。そういったレースにおける課題発見を、すぐに練習に反映できるのも、今置かれている環境の利点のひつとだと捉えています。やらされてやっているうちはレースで辛いときに踏ん張れない。甘えを捨てて、こだわりを持って、自主的に追い込めることこそが強さだと考えています。それが、辛いときの粘りに影響するはずです。」

独立して初めて走ったフルマラソン。その時初めて感じた感情は、”自分のために走っている”ということ。これまでのように「早稲田の八木」「旭化成の八木」といった肩書きがない中で、シンプルに結果にこだわることができるようになったという。生活もかかってるから「”リアル”ハングリー精神」ですと笑う。

独立して半年、そして今

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高校も大学も実業団も、すべて日本一のチームに入ることを意識してきた八木選手。「日本一のチームだと思う」と語る旭化成を抜け、半年前に独立した。

「独立してみて、実は大変なことの連続です(笑)。想定できないことが次々と起こるんです。レースの企画やランニングチームの運営など、何をするにも0から1を立ち上げるのには相当の労力を要しますね。これまでは、自分の言っている事や、やりたい事を理解してほしいのに理解してもらえないという事に大変さを感じてきましたが、それとは全く違います。でも、それがやりたい事だから苦ではないし、楽しくて大変さも納得しながらやってます」

とはいえ、想定していた通りに順調に進んでいるかと聞いてみると、

「まだまだ順調ではないので面白いです!マラソンと共通していて、これまでやってきたことではないことを経験する楽しさがあります。想定外の出来事といっても、決して悪いことばかりではなく、嬉しいことや良いこともたくさんあります。新しい出会いが生まれたときに、生きている、といった実感を感じられます」

実業団の時は、決まった日に決まったお給料がもらえ、精神的にも安定して練習に集中できる環境だった。独立するとそうはいかず、平常心を保てない時もあり、ストレスを感じていたそう。ただ、やり始めてみると、短期的に結果が出ることではないことがあることを知り、自分がやることに対して価値がないと、当然お金も動かないことを学んだ。生きることの大変さの反面、それで生きられることの嬉しさは、少年の頃にがむしゃらに練習をしていたピュアなマインドと同じだという。

何か良くないことが起これば、すべて自分の責任。だからこそ外的要因に惑わされず、自らの信念にのみ基づいて日々を過ごせているということ。これが彼の今の根幹になっている。

今後の目標

「競技者としては、マラソンで東京五輪に出ること。もっと長期的な目標は、陸上界を変えたいという気持ちが強いです。実業団のシステムを、僕が生きている間に変えたい。そして、純粋に、世界で日本人が誰よりも速く走っているのを見たいんです。」

世界を相手に活躍している後輩の存在もある。彼が海外に拠点を移したということは、国内で強くなるための環境が用意されていない証だと考える八木選手。

世界のレベルはどんどん上がっていく中、日本には停滞感がある。だからこそ、プロとして自分のやり方で結果を出しつつ、日本陸上界のレベルアップに貢献したいそう。そのために、まずは2019年の世界陸上で結果を出すこと、目標から逆算したときに感じるギャップを埋めること。それを考えれば考えるほどワクワクするという八木選手。

陸上に人生を賭けた彼の、壮大なチャレンジが楽しみだ。


八木 勇樹(YUKI YAGI)
株式会社OFFICE YAGI
代表取締役 兼 マラソンランナー

身長 178cm 体重 58kg
兵庫県神戸市出身

YAGI RUNNING TEAM 代表/アマンクラ アンバサダー

YAGI PROJECT(https://mg.runtrip.jp/wp-admin/post.php?post=11803&action=edit)

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