フェンシング太田雄貴さんが“パリ五輪”に向けて走りだす!?ランナーになって感じたランニングの魅力とは
Jan 10, 2024 / MOTIVATION
Jan 10, 2024 Updated
フェンシングで日本初のオリンピックメダリストとなり、トップアスリートとして世界の舞台で活躍した太田雄貴さん。近年はランニングを始め、市民ランナーとして次なる目標を追いかけています。
そして、多くのランナーが愛用する『アミノサウルス』を展開するサウルスジャパン株式会社の支援者という顔も持つ太田さん。こちらの記事では、ランニング愛好家でYouTubeチャンネル『SAKI RUN サキラン』の企画『嵜本広辞苑』レギュラーを務める野本大貴さんが“ランナー・太田雄貴さん”へ走ることの魅力や目標を伺いました。
苦い思い出だけが残ったはじめてのマラソン
野本:よろしくお願いします。早朝にサウルスジャパン代表の嵜本晃次さんを交えて一緒に走りましたが、太田さんナイスランでした!
※取材日の早朝に、ジョグと1kmの刺激走を実施。
太田:ありがとうございます。
野本:今回はランニングを始められたきっかけや、今後の活動についてもインタビューしていきたいと思います。
早速ですが、フェンシング日本初メダリストの太田さんが、ランニングを始められたのはどんなきっかけだったのでしょうか。
太田:まず、私たちアスリートはスポーツが当たり前の生活を送っているので、運動はお腹いっぱいなんです。一生分ではなく「“二生分”くらい運動したな」と(笑)。
太田:引退したあとの現象としては、一旦身体が小さくなるんですよ。鍛錬してきた筋肉が大幅に小さくなります。しかし、そのままではなく基礎代謝が落ちることで太りはじめます。体重は引退前と変わらないとしても、構成する中身が変わる。アスリート時代の筋肉が脂肪に変化するようなイメージです。それもあって、引退したアスリートは身体が大きくなる人が多いのです。
ロンドンオリンピックで競技を引退して、その後東京五輪の招致活動をしていたときに、古くからの友人がフルマラソンを完走して感動したという話を聞きました。それで、自分も初マラソンにチャレンジしてホノルルマラソンを走りました。
野本:ホノルルマラソンがデビューだったんですね。
太田:完走したあと、感動は全くなく残ったのは脚の痛みだけでした(笑)。32km以降は歩いた記憶しかないです。
野本:10kmのウォーキングは長かったでしょうね!
太田:初マラソンは苦い思い出で終わりました。モチベーションは限りなくゼロになり、ほぼ走らなくなりました。
長い距離を走り続けることがいまの課題
野本:でも、ここにきて頑張ってる印象を受けます。再チャレンジはどんなきっかけでしたか?
太田:初マラソンから5、6年が経ったころ、当時近所だった長谷部健・渋谷区長から「朝一緒に走らないか?」と声をかけてもらったんです。
長谷部さんにスタート時間を聞いたら「朝6時15分に家の前で!」と一言。当時は朝8時に起床する生活だったので早朝に自宅から代々木公園へ走るだけでも辛かった。代々木公園はクロカンコースを走るのですが、後半は木の根っこにつまづいて大変でした。
野本:今朝の走りを見ると、軽やかに走っていて当時の想像がつかないですね。
太田:当時と比べればだいぶ走れるようになってきましたが、まだまだ課題もあるんです。長い距離を走り続けるのが苦手なんです。毎年年末に25~27kmほど走る予定を入れているのですが、毎回完走できず……。
フェンシングも瞬発系の動きが多いからか、好きなトレーニングはスピードを鍛える1kmのタイムトライアルやインターバル走。最近は1kmのベストタイムを3分7秒まで縮めたのですが、短い距離のほうが走れる実感を味わえるので楽しいんです。
野本:数字による成長実感は大きなモチベーションにつながりますよね。さすが元トップアスリートという記録ですが、最近は練習量も多くなってきていますよね。
太田:10月の月間走行距離は250km、11月は295km。12月は予想ですが、350~370kmになると思います。
※2023年12月に取材。
野本:私たち市民ランナーから見てもすごいですよ。一方で、突然練習量を上げるとケガのリスクもありますよね。疲労回復が遅いと感じることはありませんか?
太田:もちろん実感することもありますが、フェンシングの現役時代から疲労感に対する耐性が他人よりも強いのだと思います。
野本:たしかにそうですよね(笑)。
太田:1週間のトレーニングのなかでも、ポイント練習の位置づけが好きです。毎日1人でダラダラと走っているのとは違う、独特の緊張感がある。ほかのランナーと走るプレッシャーがスイッチの切り替えにもなると思うんですよね。
野本:自分1人だと簡単に妥協できますが、チームやコミュニティーのなかでこの日に練習やタイムトライアルがあると予定されていると心持ちも変わりますよね。
太田:「オリンピックで金メダルを獲る」と宣言すると一気に周囲の見る目が変わるんです。自分自身も「金メダルを獲る選手はこんな生活で良いんだっけ?」と思う。そうやって自分にスイッチが入っていくんです。
フェンシング太田、パリ五輪に向けて走りだす!?
野本:ここまでランニングにハマるとターゲットにするレースや具体的な目標ができると思いますが、太田さんがいま目標にしているものはありますか。
太田:ゴールを決めない方が続く気がしているので、最終的なゴールは決めていません。
しかし、出たいレースを決めることはメリハリにもなるので、今は2024年パリオリンピックと同時開催の“パリ2024マラソン(Paris 2024 Marathon Pour Tous)”完走を目指しています。その目標へたどり着くために今シーズンは駅伝やハーフマラソンを走る予定です。
野本:やはり太田さんはオリンピックと切っても切れない関係がありますね!パリといえば4月に開催されるパリマラソンが有名ですが、パリオリンピック期間中にも市民が走れる大会が開催されるのですね。
太田:そうなんです。オリンピックの男子マラソンが開催されたのち、市民レースであるパリ2024マラソンが開催されるという豪華なスケジュールです。
野本:それは楽しみですね。このインタビューも一部を切り取れば“フェンシング太田、パリ五輪に向けて走りだす!?”という見出しになりそうですね(笑)。
太田:現役復帰ではなく、市民ランナーとしてマラソンを走るだけです(笑)。
野本:パリ2024マラソン完走に向けて、タイムの目標はありますか?
太田:今の練習を継続できれば、3時間30分ほどで走りたいと目論んでいます。
野本:今朝の走りを見ても、十分に狙えそうな仕上がりだと感じました。
ポジティブなサイクルがランニングの魅力
野本:ランニングをはじめたきっかけから今後の目標まで伺いました。太田さんはランニングを通してどんなことを感じていますか?
太田:ランニングは日々の努力が数字という形で見えやすいですよね。また、人には嘘をつけても、数字としてわかるので自分には嘘をつけない。それがとても良いと思います。
競技性の追求だけでなく、仲間の輪が広がるのも魅力ではないでしょうか。たとえば仕事の話もランニング中に済ませることもできますよね。
野本:走ると脳が活性化しますし、良いアイデアも生まれますよね。
太田:それに、『痩せる→スタイルが良くなる→積極的に行動したくなる→仕事も前向きに取り組める』というポジティブなサイクルを感じています。身体の体力だけでなく、“人生の体力”がつくイメージ。すべてにおいて良いことづくし。
特に朝は生活のなかで唯一コントロールできる時間なので、そこでランニングするのが1番ですね。
野本:最後に、フェンシングとマラソンの共通点や相違点について感じることを教えてください。
太田:フェンシングは対人スポーツなので、常に相手の嫌がることを探し続けるんです。でも、ランニングは自分との戦いですよね。
それと、多くのスポーツは若いほうが圧倒的に有利。ただ、マラソンは違う。40歳や50歳になっても伸びしろを感じられますよね。
野本:その通りですね、持久系スポーツなので年齢関係なく伸びます。
太田:いつからはじめても楽しめるのが魅力ではないでしょうか。
野本:それでは、最後にもう1度。“パリ五輪”へ向けて一言お願いします!
太田:私が走るのはオリンピックではなくパリ2024マラソンですけどね(笑)。タイムの目標は持っていますが、あくまでもゴールを決めすぎずに楽しんでいく1つとしてパリマラソンを完走したいと思います。
野本:ありがとうございます。また朝ランもやりましょう!
***
生涯スポーツとしてランニングを楽しむ太田さんの姿からは、これからも走り続けたいランナーにとって多くの言葉がヒントとなったのではないでしょうか。トップアスリートから市民ランナーへ。取り組み方は変わっても、スポーツを楽しみ続ける太田さんのチャレンジは続きます。
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太田雄貴さん
北京オリンピックで個人銀メダルを獲得し、フェンシング競技において日本初のメダリストとなる。その後もロンドンオリンピック団体銀メダル獲得、リオデジャネイロオリンピック出場と世界の舞台で活躍を見せた。現在、国際フェンシング連盟副会長、公益社団法人 日本フェンシング協会会長を務める。2021年よりサウルスジャパン株式会社へ資本参画。
野本大貴さん
ランニング好きが講じてランニング業界に多くの繋がりを持つ。ランニング知識や情報の宝庫、自らも41歳でサブ3達成、フルマラソン2時間48分で走る二刀流ランナー。嵜本さんのYouTube『SAKI RUN サキラン』の企画『嵜本広辞苑』レギュラーを務める。