【箱根駅伝】戦時中1度だけ復活した大会を描く小説「タスキ彼方」。時を超え“箱根駅伝を走りたい”と願うランナーたちの想いを紡ぐ

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年末年始を目前に控え、箱根駅伝を心待ちにしている方も多いのではないでしょうか。正月の風物詩として、毎年大きな注目を集める箱根駅伝は2024年で節目となる100回大会を迎えます。

そんな歴史ある大会は学生ランナーたちによって脈々と受け継がれてきましたが、実は第100回が100年目というわけではありません。箱根駅伝は第二次世界大戦の期間に中止を余儀なくされた過去をもちます。しかし、戦時中に箱根駅伝を開催したいという学生たちの熱意によって、1943年に1度だけ復活した“幻の箱根駅伝”とも呼ばれる大会が存在します。

戦時下で『箱根駅伝』を復活させた学生たちの姿を物語として描かれているのが、額賀澪さんの小説『タスキ彼方』。徴兵される前に「箱根駅伝を走りたい」という想いから復活に向けて奔走する学生たちの熱意に心動かされる物語です。

戦時下と現代、駅伝に人生を懸けるランナーの想いが交差する

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本書のスタートとなる舞台は2023年4月のボストンマラソン。学生ながら日本の陸上長距離界でトップレベルの実績を持つ日東大の神原八雲は、その舞台で数々の有力選手たちのなかで3位という華々しい成績を残します。

学生ナンバー1とも称される実績を残していながら多くの学生ランナーが憧れる『箱根駅伝』には目もくれず、出場することを拒んできた神原。

そんななか、神原の指導者である日東大の監督・成竹はボストンマラソンの会場で、とある選手から古びた日記を受け取ります。そのなかには、戦時下で『箱根駅伝』に人生を懸けた学生たちが大会復活に向けて文部省や軍部との交渉、周りの学生ランナーたちへの呼びかけを経て実現させていった日々が綴られていたのでした。

戦時下において、学生たちも徴兵されていた時代。スポーツは鍛錬としてのみ認められ、箱根駅伝を運営する関東学生陸上競技連盟(以下、関東学連)も解体。当時は多くの競技、大会が国の管理のもと開催される状況でした。「箱根駅伝を走りたい」と願うことは、「戦争に行ってる若者がいっぱいいるのに、何を呑気に駅伝なんてやってるの」と周囲から見られてしまう世相だったのです。

軍部との交渉を続け、『戦勝祈願』を目的とすることで靖国神社と箱根神社を往復する『靖国神社・箱根神社間往復関東学徒鍛錬継走大会(第22回箱根駅伝)』を開催。“これが最後の箱根駅伝”として、駅伝へ臨んだ選手たちの姿が本書では描かれています。

後に“幻の箱根駅伝”とも称されるこの大会を終え、大会を復活させた関東学連の学生のひとりは「きっと、この大会は遠くまで飛んでいきますよ」と口にします。2023年の現代に生きる私たちの視点から見れば、それは彼らの走りたいと願う純粋な想いがこうして遠くまで飛び続けてきたのだと、深く考えさせられる一言です。

現代の舞台において、成竹とともに日記を読み先人たちの想いに触れた神原の箱根駅伝に対する視点が変化していく様も注目したい描写。

現代では当たり前とされるスポーツが許されない時代にタスキをつないだ学生ランナーたちの願い。その“幻の箱根駅伝”を走った選手たちのなかにも多くの犠牲者がいたなか、戦後生き残ったことへの罪悪感を抱えながらそれでもスポーツに取り組む意味を模索する学生たちの姿。100回大会を迎える現代の選手たちが箱根駅伝へ懸ける想い。

物語を読み進めると、その背景は時代によって移ろいながらも、“駅伝魂”ともいえる駅伝を愛する学生たちの想いが交差しているように思えます。

まもなく号砲を迎える第100回箱根駅伝

本書において現代の舞台ともなる第100回箱根駅伝は2024年1月2日(火)8時に東京・大手町からスタート。節目となる今大会は、23チームの出場校による熱いレース展開が予想されます。

100年以上の月日にわたりタスキと走ることへの切実な想いをつないできた幾多の学生ランナーたちの姿に、本書を読んで想いを馳せながら1月2日を迎えてみてはいかがでしょうか。

書籍情報

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出典:nukaga-mio.work

『タスキ彼方』(額賀澪著、小学館)

価格:¥1,980(税込)

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戦時下と現代の熱い駅伝魂を描く小説

(文・写真:木幡真人)

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