コロナ後初「OMM」開催の背景、「白馬の岩岳・小谷の住人の皆さんに、心より感謝」
Oct 21, 2020 / COLUMN
Oct 21, 2020 Updated
ロゲイニングイベント『OMM LITE/ BIKE HAKUBA,OTARI 2020』が、10月17.18日の週末に長野県白馬町で開催された。東京オリンピックが延期となった2020年。多くのスポーツイベントが延期、もしくは中止となった。人類が直面したウイルスとの戦いは、日常を簡単に非日常にする。ただ、この戦いは歴史が古いことが厚生労働省での紹介でもわかる。
古くは、エジプトのミイラからは痘とうそう(天然痘)に感染した痕が確認されており、中世ヨーロッパの人口の3分の1が死亡したといわれるペスト、また、世界中で5億人以上の者が感染したとも言われる1918年からのインフルエンザ、さらには、記憶に新しい2003年のSARSがある。人類の進化のすぐそこには、ウイルスの存在があるのだ。今回もまた、この難題を乗り越えてくれることに違いない。
しかし、あっという間に失った日常を取り戻すことは、想像よりもはるかに難しい。今年春に開催予定だった『OMM LITE/BIKE』もまた、中止・延期を余儀なくされた。
OMMとは、現在のアドベンチャーレースの起源にもなったイギリス発祥のレース(1968年初開催)。世界最古と言える山岳耐久レースは、走力のみならずナビゲーション能力や野営技術など、まさに“山の総合力”が試される。トレイルランニングを想像するとわかりやすいが、ルールがやや異なる。ゴールまで決まったコースはなく、エイドポイントもない。選手たちは地図とコンパスのみを頼りに、自分たちでルートを探って、ポイントを積み上げていく。『OMM』の名称で人気を博しており、今年11月には『OMM JAPAN 2020 NOZAWA ONSEN』開催を発表。また、その入門編と位置付けられる『OMM LITE/BIKE HAKUBA,OTARI 2020』が先行して開催された。
入門編とはいえ、簡単なものではない。舞台は秋の白馬、小谷村内で、適切な判断は常に求められる。競技エリアは主に標高450mから1300mに位置し、当日の天候は雨。この競技に挑むにあたって、『自分の限界を知る』ことは欠かせない。これは大前提であって、その上、天候や状況変化の把握についても敏感にいる必要がある。なぜなら、自然の中では「その時」になってからでは遅いから。距離、時間、体力などを常に逆算しながら行動し、より多くのポイントを獲得し、時間内にゴールするのだ。ゴールが1分遅れるごとに、5ポイント減点(各ポイントには10-50ポイントが設定されている)されるのは、逆算の意識を持つためだ。
一方で、カラマツの植林地、ブナ林、スキー場の草地や水田など様々な植生が分布する地帯になり、ヨーロッパの雰囲気を思わせるスキー場や別荘地、日本らしい里山の集落、田園、そして、何よりも北アルプスの峰々などが競技中に堪能できるのは嬉しいポイント。テント場に荷物を下ろした選手らは、1日目5時間、2日目4時間と限られた時間内で競技に挑んだ。
開催にあたって、イベントディレクターを長年担当している株式会社ノマディクスの小峯秀行さんに話を聞いた。キーワードはチャレンジの捉え方だ。
−−コロナ禍での開催にあたり、どのようなディスカッションをされましたか?
小峯:まず、11月の『OMM JAPAN 2020 NOZAWA ONSEN』については、1年前から開催地が決まっていました。コロナで、3~4月ごろには、ほとんどのイベントや大会が中止を余儀なくされていく中、私たちも『OMM LITE/BIKE YOGO 2020(余呉)』を中止に、開催予定だった『OMM LITE/BIKE HAKUBA,OTARI 2020(白馬小谷)』を延期としました。
今回開催を決めた『OMM JAPAN 2020 NOZAWA ONSEN』については、春の時点では10月、11月がどのような状況かを予測することは不可能でしたので、運営するという意味においては一番リスクが少ない『中止』とするのが正しい判断だったのかもしれません。
ただ、OMMが一番大切にしているのは『チャレンジ』。そこにリスクはあるかもしれませんが、リスクマネジメントこそをテーマに毎年開催している側としては、最悪の結果を想定しつつもプランA/B/Cと考え、最大限そこへ向かって実際準備してみて、最終的に中止という判断をすることになったとしたらそれはそれで仕方がないということを、運営側はもちろん参加者に対してもメッセージとして発信し、開催に向けて着手しました。それが5月ごろのことです。
−−割と早い段階ですね。
小峯:はい、先の状況はまったく予想できませんでした。ただ、GOの判断が出たときに、すぐに開催できるように動いておく必要があったのです。
−−当時は軒並みイベントや大会が中止になっていく中で、「開催するかもしれない」とご連絡をいただいたので驚きました。
小峯:判断を余儀なくされる中で、『右向け右』を選択することもできた。ただ、開催予定地が白馬・野沢と観光地でした。お客さんに来てもらうという意味では、受け入れる側も柔軟な対応をしてくださった。リスクを最大限に減らしたうえで、可能な限り開催に向けて前向きな話し合いができたのです。このことが、開催を予定することをみなさんに発表できた、大きな要因だったと思います。
「OMM JAPANを開催する」と決めるのは簡単だ。ただ、実際にそのための準備となったら、様々な立場の人が集まり、決して少なくはない時間を要して、当日のため準備を行う。それも例年以上に選択肢を増やして、今年はプランA/B/Cが必要だ。10月中旬のタイミングでもまだ、『OMM JAPAN』が無事開催できる保証はない。ただ、今回開催された『OMMLITE/BIKE』は、そのための大きな足掛かりとなることだろう。『OMMLITE/BIKE』では、今回、オリジナルルールが採用されていた。イベント性を最小限におさえ、競技が安全に進行できることを優先したためだ。
これまでのイベントからの変更点
・受付時に検温。37.5°C以上の発熱がある方がいるチームの参加並びに出走をお断り。
・発熱している方は飛沫を防ぎ、できるだけ早めに会場を離れ、医療機関等への相談へ。
・スタートは一斉スタートではなく、ウェーブスタートに。
・スタート時刻の個別指定はなく、準備ができたチームから時間内に順次スタート。
・スタート待ちで並ぶ場合は距離を取る。
・チェックポイント得点表はこれまでのようにスタート前に配布せず、受付にて事前配布。
・受付で配布するSIチップ、地図、得点表、地図を入れるポリ袋、チラシ等は各自で取る。
・会場での食事の提供は10月18日(日)の朝食のお弁当のみ。
上記のみならず、イベント会場内で密にならないことをMCが発信しながら、『新しいOMMのカタチ』として、運営側・参加側の双方が協力的に楽しんだ。
イベント終了後、小峯さんはこう振り返った。
「状況によっては開催できない可能性もあった今回のOMM LITE/BIKEですが、そのなかでもエントリーしてくださった選手たちにお礼を申し上げたい。ルール変更がありましたが上手に対応していただき、レースを楽しんでいる姿をみて嬉しく感じました。
アウトドアというのは、まず自分たちが何よりも楽しむ。仲間と一緒に場を共有できることが大事。我々としては、そういった場を、来年以降どうなるかわからない状況ですが、つくっていきたいです。
また、運営チームがどんなに『開催したい』と思っても、場所を提供くださる地元の皆さんのご理解がないと叶いません。このような素晴らしい場所を提供してくださった、白馬の岩岳、小谷の住人の皆さんに、心より感謝申し上げます」
実際に筆者もイベントに参加したが、道すがりに出会った農家の夫婦や工事現場のおじさん、酒屋のおじさんらが、「どこまで走るのだ」「どれだけ大変なんだ」と、飛沫感染を気にしながら遠慮がちに走る我々以上に、フレンドリーに、そして優しく声をかけてくれた。
今回のイベント開催が、地域の人にとって、アウトドアを楽しむ人にとって、少しでも前進する一歩になればいいと参加者全員が思ったことだろう。また、その前進は周囲へと伝播し、前向きな日常が少しでも早く戻ることを願う。そして、細かなケアを行ったイベントにて、大きな感染被害が発生しないことを心から願っている。
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