「やっぱりそう動く?」山の神・柏原竜二さんが東京マラソンの見どころを語る
Feb 27, 2020 / COLUMN
Feb 28, 2020 Updated
3月1日に開催される東京マラソン2020。新宿の東京都庁から東京駅までの42.195kmにどんなドラマがあるのか注目が集まる。なんといっても今年は、男子マラソンのMGCファイナルチャレンジを兼ねている。招待選手はとにかく豪華。国内では大迫 傑(Nike)2:05:50、設楽悠太(Honda)2:06:11だけでなく、井上大仁(MHPS)2:06:54、山本憲二(マツダ)2:08:42、村山謙太(旭化成)2:08:56、佐藤悠基(日清食品グループ)2:08:58、園田 隼(黒崎播磨)2:09:34、神野大地(セルソース)2:10:18、堀尾謙介(トヨタ自動車)2:10:21らが出場。また、海外からはビルハヌ レゲセ(エチオピア)2:02:48をはじめ、ゲタネ モラ(エチオピア)2:03:34、シサイ レマ(エチオピア)2:03:36、アセファ メングストゥ(エチオピア)2:04:06、ディクソン チュンバ(ケニア)2:04:32らが参加する。
「誰かが飛び出すことはないと思います」。そう予想するのは、箱根駅伝の二代目・山の神こと柏原竜二さんだ。柏原さんは、自身もフルマラソンを2:20:45で走った経歴を持っている。現在は現役を引退、富士通の企業スポーツ推進室に在籍している柏原さんが、東京マラソン2020と東京オリンピックの男子マラソンに内定した2選手について語った。
ペースメーカーが外れる30kmがポイント
気象条件や選手のコンディションにもよると思いますが、僕自身は、今回の東京マラソンで誰かが飛び出すことはないと思っています。基本的には設定記録の『2時間5分49秒』のペースで進めて、ペースメーカーが外れる30kmからは、各選手がその時の余力で決めるのではないでしょうか。ただ、設楽選手だけはそれ以上のペースで走るかもしれません。設楽選手に他の選手がどう反応するかには注目です。30km以降は前の選手と離れがちになるので、そうなった時に前にいた方が良いのか、それともエチオピアやケニアといったアフリカ勢と一緒にいた方が良いのか、ここはそれぞれ戦略があると思います。実際、大迫選手や設楽選手が日本記録を出した時は、ちょうどいいポジションに前の選手がいたんです。それを追いかけたことが好記録に繋がったと思うので、今回、もし日本人先頭というポジションで前に追いかける目標がいない場合は、グッとブレーキがかかってしまうかもしれません。
フルマラソンはやっぱり難しいですね。レース中にいくつか分岐点があって、すべて正しい方向を選択し続けなくてはいけません。昨年のMGCでは、大迫選手も設楽選手もベストコンディションだったと思いますが、設楽選手は途中で失速し、大迫選手は服部勇馬選手に抜かれてしまいました。分岐点で選択を間違えると、うまくレースができないんです。選手には大変な苦労があったかと思います。
マラソンは、トランプゲームの『大富豪』を想像してもらうと理解しやすいと思います。どこでどのカードを選ぶか。例えば、2を中盤で出して流れを一気に引き寄せて、最後は2枚切り、3枚切りで出しきってしまう。設楽選手はMGCで、2を4枚持っていたようなものです。最初に『革命』をしたのですが、最後に戦えるカードが残っていませんでした。手持ちのカードは自身のコンディションやモチベーションです。東京マラソンでは、各選手がこれらをどう切っていくのかが見どころです。
MGC優勝を報告に来た中村匠吾選手と大学の後輩の服部勇馬選手
MGCで優勝した中村匠吾選手は、同じ富士通に所属しています。実は同じフロアで仕事をしていまして、彼はとても愛されているんですよね。MGCを前にして同じ職場の人たちは「会社来なくていい!」「練習してな! 」と声をかけるんですが、彼はまじめに業務にあたるんです。優勝した時も会社にきて報告をしてくれましたし。MGCでは社内でパブリックビューイングをしたんですが、「中村選手の応援をしたいんです! 」って僕のところに来る方もいました。彼にはそういった人を惹きつける魅力があります。
準優勝だった服部選手は、学年は被っていませんが、同じ東洋大学の出身です。話し方や走り方を見ていると彼のまじめな性格がわかります。探究心が人一倍ありますし、それを自分の身体で実現できてしまう高い能力も持ち合わせています。MGCではそれがうまく噛み合ったように感じます。相当苦労はしているかと思いますが、魅力的な走りを見せてくれました。
キプチョゲ選手の2時間切りに「すげー」
東京マラソン2020には、2:02:48の記録を持つビルハヌ レゲセ選手が参加。現在の世界記録はエリウド キプチョゲ選手による2:01:39(2020年2月時点)だが、同選手が昨年10月に特設レース(非公認)で1時間59分40秒2をマークしたことから、『マラソン2時間切り』も現実味がでてきた。書籍『限界は何が決めるのか? 持久系アスリートのための耐久力(エンデュアランス)の科学』では、柏原さんと同様に、箱根駅伝で名を馳せた渡辺康幸さんが「マラソンで2時間を切るのは時間の問題だ」と語っている。柏原さん自身はキプチョゲ選手の『マラソン 2時間切り』をどう感じたのだろうか。
僕も10月のキプチョゲ選手の『2時間切り』を見ていました。率直な感想は……「すげー」です。僕がまだ現役だったら、驚いたり、モヤモヤしたりもするんですが、もう実際に選手として走ることはないですし、キプチョゲ選手と勝負することもない。なので、ちょっと他のスポーツを観ている感覚に近かったですね。少し距離を置いた感じで、なんだか野球やサッカーを観ている気分でした。笑