レース直前・レース中のパニック。サブスリー精神科医が行う動作とは【ランニング ×メンタル】

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いよいよ今年も1ヶ月を切りました。ランニングを楽しんでますか?

『スポーツ精神科医』として、メンタルの専門家として、アスリートのメンタルケアに取り組んでいる精神科医師の岡本浩之です。

学生時代は陸上競技、中でも中長距離に取り組んでいました。当時はメンタルのコントロールがうまく出来ず、結果を残すことはできませんでしたが、精神科医になり、自分のメンタル強化に向き合ってコントロールする方法を身につけました。その経験を活かして、ランナーの皆さんがメンタルの不調に悩むことなく走ることを楽しめるようにサポートしたいと考え、活動しています。

フルマラソンを2時間48分で走る精神科医が『メンタル』について、連載でお伝えしていきます。

前回は『レース前の『緊張』をプラスにする考え方』をお伝えしました。

パニックに陥ったときの対処法

「レース直前・レース中のパニック。サブスリー精神科医が行う動作とは【ランニング ×メンタル】」の画像今回は、実際にレースがスタートしてからのお話です。

最初から最後まで自分の想定通りに展開して、目標通りのタイムや順位で気持ち良くゴールできた! となれば良いのですが、そんなにうまく行くレースは一生で1度あれば良い方ではないでしょうか。

「思っていたペースより遅い。体が動いていない」「予想より早く足が重くなってきた」「お腹が痛くなってきた」など、レース前の想定とは違うことがレースでは度々起きます。そして、想定外のことが起きると私たちは焦って冷静さを失います。

そんな時に「想定通りの状態に戻らなきゃ! 」と考えてしまうと、気持ちが空回りして余計に失速しがちです。

想定外のことが起きて焦って冷静さを欠いている時、私たちの脳内にある扁桃体という場所が過剰に興奮しています。この扁桃体の活動をコントロールしているのがセロトニンという脳内ホルモンです。セロトニンは心を安定させる働きがあり、普段はセロトニンが扁桃体の過剰な興奮を抑えて、必要以上にパニックにならないようにしているのですが、想定外のことが起きて焦ってパニックになると、セロトニンが抑えられないほど扁桃体は興奮します。

そんな緊急事態でも、扁桃体の過剰な興奮を抑えてセロトニンがしっかり働き、心を少しでも落ち着けるために、私が必ず行っている動作があります。
左手のひらを胸に当てて大きく深呼吸をして、両手のひらで両頬を同時に1回叩きます。もしくは、両頬を叩く代わりに、左手を握って拳で胸を2回叩きます。

これはあくまでも『私の場合は』であって、皆さんがパニック状態になって冷静に考えられない時でも出来そうな動作であれば、どんな動作でも良いですよ。想定外のことが起きて、パニックになった時にでもできる動作を決めておきましょう。複雑な動きにするとパニックを起こした時に思い出せずに、余計パニックに陥りますから、簡単な動作がいいです。

私の場合は2つ決めていますが、複数パターンを事前に決めておくと、1つ思い出せなくても別の動きをやってみよう、と切り替えやすいです。

想定外のことが起きてパニックになっている時に、自分の想定した通りに体が動かせていることを理解すれば、扁桃体の過剰な興奮は幾分か落ち着き、セロトニンでコントロールできる程になります。

次に、『想定通りの展開で目標達成する』というのは難しくなっても、レースはまだ続いています。残りの時間を有意義なものにするために、新しい目標を作ってみましょう。

「キロ○分ペースは超えないようにしよう」「最低○時間○分までにゴールしよう」「ストライドを小さくして腕を小刻みに振ってみよう」「次の折り返しまで頑張ってみよう」「沿道の声援に全部応えて走ろう」など、その時に考え付いたものなら何でもいいです。とにかく意識しやすい目標をもう1度立てて、それを達成することに集中してみましょう。

そうすることで、意外と落ち込みが少なく済んだり、しばらくするとまた動きが良くなったりします。これは見失っていた目標を明確に捉えなおすことで、脳内ホルモンの一つであるドーパミンがしっかり出るようになるからです。ドーパミンが分泌されると、我々はやる気が出て、楽しくなって、もっと頑張ろうという気持ちになります

また、想定外のことが起きてパニックになったけど、心を落ち着かせるための動きが出来た。もう1度目標を作り直して心が折れずに走り切ることが出来た。その時は、たとえどんなに悔しいタイムや順位であったとしても、「目標には届かなかった。悔しい。でも、目標に届かないと分かってからも無抵抗では終わらなかったのはすごい」などと、自分で自分を評価してあげましょう。周りの誰もが評価してくれなくてもいいのです。せめて自分だけは、自分の頑張りを評価しましょう。

自分で自分を評価してあげることで、ドーパミン、セロトニンが分泌されます。そうすると、悪い結果であっても乱れがちな気持ちが安定し、また走ろうという意欲につながります。

さらに、同じレースで結果を出した人を褒めてあげると、褒めた自分、褒められた人のどちらもドーパミンやセロトニンが分泌されて、お互い幸せですね。

東京マラソン2017に参加した私は、スタート前から体の異変を感じており、15㎞くらいでさらに体調を崩して、まともに走ることが出来なくなりました。当初の目標は2時間50分切りでしたが、歩きつつ時々ゆっくり走るのが精いっぱいになりました。その時にも、やはり胸に手を当てて深呼吸をしてから、拳で胸を2回叩き、扁桃体の過剰な興奮を抑えようとしました。そのあと、「レースは続いているのだから、倒れない限り、関門に引っかからない限り、ゴールを目指す」と目標を作り直して、ドーパミンを出してゴールを目指しました。

結果は6時間39分と、目標とは程遠いタイムでした。「そんなタイムで走るくらいなら棄権したら良いのに」とも言われました。しかし、焦る気持ちを鎮めてゴールを目指し、その通り到達できた自分を誇らしく思いました。「東京マラソン2018で必ず自己ベストを更新する!」と強く決意し、実際に1年後自己ベストを更新して2時間48分で完走できました。

   
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