“2時間00分25秒”キプチョゲが再びサブ2挑戦。「イネオス1:59チャレンジ」開催

2017年5月6日にイタリアのモンツァで開催されたマラソンサブ2への挑戦“Breaking2”。そこで、非公認記録ながらも2時間00分25秒という驚異的な記録で走ったのが、リオオリンピック男子マラソン金メダリストのエリウド・キプチョゲだった。

それからおよそ2年後の2019年5月5日。キプチョゲのBreaking2・第2章となる“イネオス1:59チャレンジ”INEOS 1:59 Challenge)の開催が告知された。さらに、6月27日には開催地がオーストリアのウィーンに決定したことが主催者のイネオスから発表された。

イネオス1:59チャレンジの開催は2019年10月12日に予定されているが、悪天候の場合は開始日が延期となり10月13〜20日の8日間の予備日の中で行われる。

月へ飛び立つ『エリウド・キプチョゲ』

サブ2への第2章は、英国化学メーカーのイネオス社の創業者で会長のジム・ラトクリフ氏のサポートによって実現する。同氏は英国一の資産家(純資産320億ドル)で、2019年には自転車ロードレースの旧チーム・スカイを買収し、プレミアリーグの強豪クラブ チェルシーの買収にも意欲をみせている。

そのほか、イネオス社は子供向けのチャリティランニングプロジェクトのGO Run For FunThe Daily Mileを後援しており、ランニング業界おいても存在感を増している。

イネオス1:59チャレンジを公表する1週間前に行われたロンドンマラソンでは、先導車からキプチョゲの勝利を見守ったラトクリフ氏。その2日後に、2人はオックスフォードのイフリーロードのトラックで顔を合わせたが、そこは故ロジャー・バニスターが “1マイルサブ4” を人類で初めて達成したトラックだった。

「エリウド・キプチョゲは史上最高のマラソン選手であり、世界で唯一サブ2を達成できるスポーツ選手だ。人類はこれまで誰もサブ2を達成することができなかった。人類が初めて月面着陸した時のように、今回彼が1時間59分で走れば、彼がそれまで不可能とされていたことを破った最初の人間となるだろう」- ジム・ラトクリフ 

キプチョゲは、2016年リオオリンピックで優勝。2017年Breaking2では、2時間00分25秒(非公認記録)をマーク。2018年ベルリンマラソンでは、2時間01分39秒(世界新記録)で優勝。そして、2019年ロンドンマラソンでも、2時間02分37秒で優勝している。

「“2時間00分25秒”キプチョゲが再びサブ2挑戦。「イネオス1:59チャレンジ」開催」の画像
2018ベルリンで2時間01分39秒の世界新記録を樹立 ©︎2018 Sushiman Photography

「Breaking2の時の自己記録は、2時間03分05秒だった。今の自己記録は世界記録の2時間01分39秒で、さらには2時間02分37秒でも走ることができた。そのおかげで、今回の挑戦で“サブ2を達成できる”という確信を持っている」 – エリウド・キプチョゲ

Breaking2では、サブ2まであと26秒だったキプチョゲであるが、現在はサブ2に対する心理的ハードルをほとんど感じていない。

1往復9.6kmの直線コースでの開催

イネオス1:59チャレンジは、オーストリア・ウィーンの緑豊かなプラーター公園にある長い直線の並木道“ハウプトアレー”(Hauptallee)を舞台に開催される。そのコースは、ハウプトアレー両端のロータリーで折り返す1往復9.6km × 4往復+αの42.195km。フラットなこの遊歩道は、ウィーンでも人気のランニングコースで、毎年4月に行われるウィーンマラソンのコースの一部でもある。

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ハウプトアレーの1往復9.6kmの直線コース(出典:INEOS 1:59 Challenge

開催予定日は10月12日。悪天候の場合は延期され、10月13~20日の8日間を予備日に開催される。もし10月13日に開催されれば、シカゴマラソンと同日開催となる。今回の開催地決定にあたり、ウィーンのプラーター公園が評価された点は以下である。

・フラットなコース
・ハウプトアレーの4.3kmの直線
・マラソンに適した10月の安定した気候
・“ウィーンの緑の肺” といわれる森の新鮮な空気
・車が出入りしない、広くて見通しの良い道
・キプチョゲの拠点のケニアから時差1時間のみ
・開催に理解のある市長と、経験豊富なウィーンマラソン主催者の存在

特に、時差は重要な要素で、ケニアとウィーンの時差は1時間。そして、ウィーンマラソンは、毎年多くの観客が沿道で声援を送る印象的な大会。今回のイネオス1:59チャレンジが盛り上がることは間違いないだろう。

Breaking2からの改善が期待できる点

記録は非公認ではあったが、工学的アプローチで記録更新へのお膳立てを行なった“Breaking2”。一定のペースを刻むテスラの自動運転車を先導車に採用。その後ろではペーサーがフォーメーションを組み、空気抵抗を抑える“ドラフティング技術”を駆使した。真新しいエキシビジョンイベントとして注目を集めたBreaking2だったが、イネオス1:59チャレンジに向けて、改善が期待できる点は以下だ。

シューズのアップデート

2017年5月6日に開催されたBreaking2では、キプチョゲはヴェイパーフライエリートで走ったが、イネオス1:59チャレンジでどんなシューズを履くのか、現時点では公開されていない。2019年7月にはヴェイパーフライ4%をアップデートしたヴェイパーフライネクスト%が発売。今回、キプチョゲが履くシューズが、Breaking2の時よりもアップデートされていることは確実である。

ペーサーのアップデート

Breaking2ではペーサーのフォーメーションや、途中交代のタイミングなど、非公認レースならではの“ペーサー戦略”が展開された。また、前回の選手3人とは違って、今回はキプチョゲ1人のみに対して多くのペーサーが全面的にケアをする。前回のノウハウを生かしつつ、ペーサー戦略のクオリティー向上が期待できる。

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中長距離種目での記録挑戦には、ペーサーの存在は欠かせない ©︎2018 Sushiman Photography

レース時の湿度

Breaking2のレース時の気温は理想通りではあったものの、レース前の降雨の影響によって湿度が高く、それが終盤の失速につながったのではないかといわれている。Breaking2でも数日間の開催日枠を設けていたが、今回は開催予備日を8日間確保しているので、最高のコンディションを求めて綿密に日程を決めることができる。

クローズドイベントからオープンイベントへ

観客を動員しないクローズドイベントのBreaking2で、キプチョゲの終盤の失速の原因の1つとして、観客の声援が“あまりなかった”ことが挙がる。モンツァ・サーキットのホームストレートの一部分で、限られた人数のスタッフやメディア関係者しか声援を送ることができなかったのだ。

“沿道の声援に後押しされた”ということは、多くのランナーが経験する。今回の舞台はウィーンマラソンのコースで、かつ気軽に出入りできる公園。自然豊かな景観の良い並木道に多くの観客を見込めるので、盛大な声援がキプチョゲの耳に届くことだろう。

「“2時間00分25秒”キプチョゲが再びサブ2挑戦。「イネオス1:59チャレンジ」開催」の画像
©︎2018 Sushiman Photography

“サブ2の壁” とは、心理の壁を破ることである。キプチョゲが今回でサブ2を達成すれば、ロジャー・バニスターが初めて超えた1マイルサブ4のように、近い将来で “サブ2ランナー” が複数生まれる可能性があるかもしれない。

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