プロトレイルランナー奥宮俊祐選手が語る「トレランのマナー」

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近年、人気を博してきているトレイルランニング。山の中を走る爽快感が最大の魅力で、取り組み始めるランナーも年々増えてきている模様です。しかし山の中を走るがゆえに、ランナーのマナー不足が指摘されることも少なくありません。

そこで今回は、プロトレイルランナーとして数々のセミナーを主催している奥宮俊祐選手にお話を伺い、2015年に日本山岳耐久レース(ハセツネCUP)を制した経歴や独立までの経緯、初心者が気を付けるべきマナーや常備するべきアイテムなどをお聞きしました。

2015年に「FunTrails」を立ち上げて独立

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――2015年の3月に独立し、プロランナーとして活躍する奥宮選手。まずは独立のきっかけを教えてもらってもよろしいでしょうか

以前はパン職人から自衛官、その後に会社員もやっていたんです。会社の仕事と平行してトレランの個人的な仕事も受けていたのですが、それが両方とも中途半端な感じになってしまいまして……。広島など中四国の仕事も多くて、ある時現地のメンバーに「これ、やっておいて」とお願いをしていたら、いつまで経ってもやってくれなかったことがあったんです。「何でやってくれないんだよ。もっと本気でやってくれよ」と思ったこともありましたが、「俺自身も本気じゃないじゃん」って思ったんですよね。

自分が本気じゃないのに、相手に本気を求めるのは違う。ということに気づき、会社の仕事かトレランの仕事か、どちらかに全力投球しなきゃいかんなと思った時に、「じゃあトレランの仕事をするか」と(笑)。

――独立するにあたって、収入的な不安はなかったのですか?

すごくありましたよ。でも自分でちょこちょこトレランセミナーとか、ロードでのランニングセミナーをやっていたので、「大体これくらい人が集まると、これくらいの利益があがって、これだけの経費が掛かる」というのが見えていたんです。これくらいセミナーを主催して、これくらいプロデュースのレースがあって……とやっていけば多分食っていける。捕らぬ狸の皮算用的な目論見があって、それを1年間の表にして、妻を説得しました。

――独立当時はお子さんもおられたのですか?

すでに3人いました。だから妻はやっぱり心配していましたね。私も心配だったのですが、「とりあえず3年間やらせてくれ」と。今現在2年3ヶ月経ちましたが、なんとかやっていけていますね(笑)。独立した当初のことを考えれば、ちょっとずつ成長できているのかな。1番最初はパソコン1台で自宅から始めて、そのうちコンテナ倉庫を借りて、去年の10月には事務所を借りて、今年の3月には会社を法人化して……。夏にはスタッフが1人入る予定です。

――現在はどのような事業内容なのでしょうか

セミナーと、レースの主催(プロデュースも)と、メーカーの契約金と、たまに出演させてもらうメディアの出演が中心ですね。FunTrailsで主催しているトレランセミナーは月2回。あとはレースプロデュースが月に1回くらい。夜の練習会(ロード)は月に1~2回ですね。この練習会は2012年から始めていまして、会社員時代から続けているんです。

「プロトレイルランナー奥宮俊祐選手が語る「トレランのマナー」」の画像インタビュー当日の夜にも練習会があったそうで、背中には必要な用具がぎっしり詰まっている

――奥宮さん主催のレースは全国にどのくらいあるのでしょうか

小さいのも入れると、5つくらいかな。それとは別に私がプロデュースしているレースもあるんです。※奥宮さんプロデュースの「三原白竜湖トレイルラン」は、トレイルランナー・上田瑠偉選手のデビュー戦でもあります。詳しくは以下の記事へ

箱根出場が叶わなかった学生時代~トレランに出会うまで

――奥宮さんは学生時代に陸上競技をされていたそうですね

はい、中・高・大とやってきました。とにかく「箱根駅伝を走りたい」という思いで続けていましたが、結果的にその夢が叶うことはありませんでした。

実は高校生の頃から心臓に違和感がありまして、ずっとそれが大学時代(東海大)まで続いていたんです。その時は原因がわからなかったので、「お前の気持ちが弱いんだ」と周りから言われて……。だんだんと走るのが嫌になったんです。結果的に不整脈だったことが社会人になってからわかるのですが、当時はその影響でインターバル練習などをこなすことができなかったんです。

――大学卒業後からトレイルに目覚めるまでの過程を教えてください

大学卒業時は就職もうまくいかない、箱根も走れない、と自己嫌悪に陥っていました。「もうやめた!!」と、まったく違う道に進もうと思い、パン屋さんでパン職人として働きだしたんです。

でも入って2ヶ月で親会社が潰れてしまい、ちょうどその頃に大学時代の先輩から声がかかっていたこともあって、自衛隊に入隊することになりました。それが大学卒業してから半年後のことです。

「プロトレイルランナー奥宮俊祐選手が語る「トレランのマナー」」の画像大学卒業後は2ヶ月間パン屋で働いていた奥宮さん 写真提供=ご本人

――自衛隊には何年ほど在籍したのでしょうか

約8年間いました。その間に子供も3人生まれて、安定した道を進める状況にいたわけです。

――再び走り始めたのはいつ頃でしょうか

自衛隊は入隊後に半年間訓練があるので、1年くらいブランクがあるんですよね。でも、自衛隊の中に持続走訓練隊というのがありまして、そこで走り始めたんです。

――1年間もブランクがあって、走れるものなんですか?

いや、最初は自分の体じゃないみたいでしたよ(笑)。パン屋さんの時には全く走っていなかったし、毎日のように自分が作ったパンを食べて、しかもタバコも吸っていたんです。自衛隊に入って、風呂で自分の体を見て「なんだこりゃ!」って(笑)。体重も今より7~8㎏ほど少なくて、ガリガリに痩せていたんですよね。でも半年間の訓練を経て、逆にムキムキになっちゃいました(笑)。

――そもそも奥宮選手がトレランに出会ったのはいつ頃なのでしょうか

自衛隊の時に、『富士登山駅伝』という大会に出ていて、僕は毎回ロード区間の3区を担当していました。山を走る5区は別の先輩が担当していて、その先輩が毎回順位を落とすんです(笑)。そうしたら「来年はお前が5区を走れ」ということになりまして、走ってみたら思いのほかいい成績で……。そこで初めて山の適性を感じたんです。

その後、「ハセツネ走ってみろよ」と言われ、初めて出たのが13回大会(2005年)。鏑木(毅)さん、横山(峰弘)さんらトップランナーたちと走らせてもらって、3番に入ることができたんです。そこから10年以上もハセツネの因縁が続いています。
※その後、奥宮さんは『ハセツネCUP』において毎回上位に食い込み、2015年に念願の初優勝を遂げました。

「トレランは登山と一緒」マナーを忘れてはいけない

「プロトレイルランナー奥宮俊祐選手が語る「トレランのマナー」」の画像Photo by Shou Fujimaki

――会社員時代はどういうスケジューリングで練習をしていたんですか?

基本的には通勤ランと帰宅ランです。会社が9時~17時だったので、家を7時に出て1時間半とか2時間くらい。着替えと弁当だけザックに入れて、片道だけロードバイクとか、途中まで電車とか、その日の体調に合わせながら片道22㎞を走っていましたね。

非常に理解のある会社だったので、「練習があるので行かしてください」と言ったら可能な限り行かせてもらっていました。辞める直前なんかは「奥宮ががんばれば営業につながる」ということに気づいてくれて、実際にトレラン接待なんかもあったんですよ(笑)。

――奥宮さんが思う、トレランの魅力とはどんなところにあるのでしょうか

自然の中を走る爽快感は、街中では絶対に味わえないですよね。すごく気持ちいいし、ストレス発散になります!

――初心者が始める際に気を付けることはありますか?

極端なことを言うと、山の中は下手をすると命を落とすことがある。それを念頭に置いて、ちゃんと準備をして山に入ることですね。ロードだったらスマホとお金を持っていれば何とかなりますが、山中では水分、塩分、エネルギーなどの補給、地図や救急セットなど、自分の命を守るものを持ってから山へ入るようにしましょう。

――山の中ではマナーも必要になってきますが、初めての人はわからない人も多いと思います。具体的にどんなマナーが求められるのでしょうか

私が主催する大会では参加条件にもなっているのですが、以下が最低限必要なマナーです。

・ゴミを落とさない(最低ひとつは拾いましょう)
・あいさつは必ず2回
・トレイルを外れない
・ハイカーを抜かす時は必ず歩く
・どんな時もハイカー優先
・イヤホン禁止
・自然への感謝を忘れない

あいさつ2回というのは、すれ違う直前に「こんにちは」って言うとビックリされるので、まず少し離れたところで「こんにちは」とあいさつし、すれ違う時にお礼を言う。だから2回のあいさつが必要になってきます。

実際に走っていると、わざわざ避けてくれる人も多いのですが、それでもこちらが立ち止まって「いや、どうぞどうぞ」という姿勢が大切なんです。

「プロトレイルランナー奥宮俊祐選手が語る「トレランのマナー」」の画像山を走る際の心がけを教えてくれた奥宮選手

――山の中を走る際に、最低限持っていくべきアイテムはどんなものでしょうか

まずは水分、塩分、エネルギー。この3つの1つでも欠けてしまうと身体が動かなくなってしまいます。あとはライト。「今日は明るいうちに下山するから大丈夫」と思っていても、道に迷う可能性がありますよね。あとは地図も必要ですが、最近はスマホで代用できるので、あらかじめ地図アプリを入れておくといいでしょう。スマホを使う際はモバイルバッテリーを持っていくと安心です。あとはレインウェアですかね。

――本当に登山と一緒ですね

そうですよ。トレランはマラソンじゃなくて登山ですから。最初はそこまで揃えるのは大変だと思うので、最初は小さな里山とか公園から始めてもいいと思います。いろんなものを持たなくても平気なところから、徐々に本格的なトレランへ移行するといいでしょう。

――なるほど。数々のトレランセミナーを主催している奥宮選手の言葉は重みがありますね! 最後に、今後の展望をお聞かせください!

まずは現役で走れているので、しばらくはバリバリいろんなレースに挑戦していきたいですね。世界中でバンバン新しいレースが増えているし、そのためにはFunTrailsの仕事をもっとがんばらなければいけません。会社としてもレースを増やしつつ、利益を出せるような体制を作っていきます。

いずれは自分の中で「もう競技はいいかな」と思うタイミングが来ると思うので、その時には「プロで活動したい」という若いトレイルランナーを受け入れる会社になっていたいですね!

プロフィール

奥宮 俊祐(プロトレイルランナー)

「プロトレイルランナー奥宮俊祐選手が語る「トレランのマナー」」の画像Photo by FUN SWISS

1979年6月18日生まれ、埼玉県在住
中学・高校・大学と陸上部で長距離を続け、大学(東海大)では箱根駅伝を目指すも選手にはなれず、挫折を経験する。25歳の時に、心臓に感じた違和感の原因が不整脈と判り、手術を受け完全回復。快適に走れる喜びを初めて味わい、走りの楽しさを再確認した。

その年、初めて日本山岳耐久レース(ハセツネ)を走り、3位入賞。それ以来トレイルランニングに全力を注ぐようになる。2012年からランニングチーム「Rord to Trail!」を主催し、セミナーを通じてトレランの楽しさを広く伝えている。ロードやウルトラマラソンでも実力をいかんなく発揮、2015年3月からFunTrailsを立ち上げ独立した。

【FunTrails主催大会情報】
●北根室ランチウェイロングトレイルランツアー
2017年9月8日(金)-10日(日)
北海道中標津のロングトレイルを2日間に分けて駆け抜ける!のんびり、ゆっくり、北海道の人も驚く大自然や絶景を楽しめます。更に、温泉やグルメも!!
詳細:https://moshicom.com/6237/

●第3回 FunTrails 100K Round 秩父&奥武蔵、FunTrails 50K Two lakes & Green Line
2017年11月17日(金)-19日(日)
HP:http://fun-trails.com/race/2017/100k/
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