ランニングが脳トレに? 走ることの効果を科学的に紐解く書籍『走り方で脳が変わる!』を紹介
Jun 25, 2024 / COLUMN
Jun 25, 2024 Updated
市民ランナーがランニングで汗を流す景色は、現代では日常的なものになりつつあるでしょう。ただ走ることが身近ではない人にとって、ときに苦しさも感じるランニングの魅力に共感することはむずかしいはず。
ランニングの魅力を紐解くために 編集部が見つけたのは書籍『走り方で脳が変わる!』(茂木健一郎著/ 講談社)。こちらの記事では本書を題材に、ランニングがもたらす効果、ランニングを継続する方法をお届けします。
走ることで脳が鍛えられる?
下井田:今回は書籍『走り方で脳が変わる!』をご紹介します。
岡田:茂木健一郎さんはランナーとしても有名ですよね。
下井田:脳科学の知見や茂木さんの考えを総合すると、体と脳は別々のものではなく、関連性の高い「一体のもの」として捉えることができます。体に関する基礎体力はなじみ深いですが、脳にも基礎体力と似た概念があり、体を鍛えることで脳の基礎体力を向上させることができるのです。
岡田:脳の基礎体力はあまり意識したことがなかったです。
下井田:具体的に説明すると、脳における運動や感覚に関わる部分はランニングによって鍛えることができ、とくに『運動皮質』『小脳』『感覚皮質』『大脳基底核』といった4つの部分が鍛えられます。
またランニングをすることで全身の血流は促進されます。そして脳にも血管は張り巡らされているため、ランニングをすることで脳に流れる血液量も増やすことができるのです。血流が促進されることにより、脳に溜まった老廃物を除去したり、脳の隅々まで栄養を行き渡らせることができます。
岡田:体の調子を整えることは意識しやすいですが、脳の調子を整えるとは考えたことがなかったです。
ランニングで脳のどんな機能が鍛えられる?
下井田:体と脳の神経活動の関連性にまつわる研究は多くありますが、本書ではランニングによって「認識の柔軟性」が高まった研究が紹介されます。これは物事をさまざまな角度から捉えたり、独創的に思考したり、解決策を生み出すことができる機能です。
とある実験にて50~64歳の40名を2つの集団に分け、それぞれに「新聞紙などの日用品について本来の目的以外でどんな使い方ができるか、思いつく限り列挙する」というお題を与えました。一方の集団では映画を視聴してもらい、もう一方の集団にはランニングをさせました。映画の視聴、もしくはランニングをしたあとにお題を遂行すると、映画を見ていた群とランニングをしていた群で「認識の柔軟性」に統計的に有意な差が出たのです。
具体的には最大心拍数の60~70%ほどの心拍数を保ち、35分間のランニングをしたところ認識の柔軟性が高まったと取り上げられています。おおよその最大心拍数は「220-年齢」によって計算できるので、私(27歳)であれば115~135回/ 分が目標となります。
岡田:かなりゆっくりなペースですね、いわゆるジョギングでしょうか……。たしかに仕事のことや悩みについて考えているとき、ランニング中に考え事をすると解決策が見つかりやすいと感じます。
気分転換だけじゃない! ランニングから得られるメリットとは?
下井田:脳に良い影響を与えることがわかってきたランニングですが、ランニングから得られる具体的なメリットが2つあります。1つ目が「ランニングの計画を立て、遂行する」という行為が脳に良い影響を与えるということです。計画を立て、遂行することは「前頭葉」の回路が鍛えられます。
前頭葉は思考や自発性、感情や理性をコントロールする部位なので、前頭葉を鍛えることは非常に大切です。たとえば「1ヵ月に○○km走りたいから、今週は○○kmは走ろう」「夕方に走りたいから、午前中に仕事を頑張ろう」といった思考が前頭葉の回路を刺激します。また「計画を立て、その計画が成功した」という一連の流れも前頭葉によい影響を与えます。
下井田:また多くのランナーは自分のコンディションに合わせ、トレーニングの量を調整しますよね? この行為もメタ認知機能の向上に役立ちます。メタ認知とは自分が能動的に行っている言動に対し、もう1人の自分が客観的な立場から言動を調整・緩和するための機能です。
岡田:たしかにランニングをすると、自分の体に耳を澄まし「今日どうしようかな、こうしようかな」と考える行為は増えますね。
継続するために“1分ランニング”がおすすめ!
下井田:ランニングをはじめたばかりの方にとって、毎日走ることのハードルは高いと思います。ランニングを継続するためには『1分ランニング』からはじめることがおすすめ。なぜなら脳科学の観点では刺激は数秒与えるだけでも良い影響があるからです。
1分、1秒、0.1秒でも脳の活動は劇的に変わるので、とりあえず「1分だけでも外へ出てみよう」や「ウォーキングしてみよう」といった意識をもつことで、ランニングや運動が継続できるようになります。
下井田:ただランニングを続けるうちに3日坊主になってしまうことも多いでしょう。3日坊主は家に帰りたくなる意識の『帰巣本能』が原因で起こります。走る習慣がない人にとって、走っていない状態がホーム、走っている状態がアウェイという認識となっています。つまり走っている状態をホームにすることが、ランニングを継続するためのポイントなのです。
走っていることをホームにするために、まずは1分ランニングをはじめたり、とりあえず1週間はやるといった、まずは短い時間・期間を頑張ってみることがおすすめです。
岡田:少しずつランニングすることで、基礎的な本能が変わってくるのですね。
下井田:走っている状態がホームの認識になると、走らないと体がムズムズしてくる脳になると思います。これはランニングだけではなく、チャレンジしたいことを継続するヒントにも成り得るはず。そのほかにもランニングや脳に関するさまざまなエッセンスが散りばめられた本なので、ぜひ皆さんに読んでいただきたいです。
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ランニングで体の筋肉だけでなく脳も鍛えることができるーー。本書でランニングのメリットを知ることにより、あなたの走りたいという気持ちがより高められるはず。ランニングが好きな人、これから走りたい人にとって、とても大きな価値を与えてくれる1冊です。
書籍情報
『走り方で脳が変わる!』(茂木健一郎著/ 講談社)
・価格:¥1,430(税込)
【動画からご覧の方はこちら】
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