8日間以内に「富士山登山7回分」の累積標高差、総距離415kmを進む日本で最も過酷なレース(賞金なし)がスタート!!
Aug 05, 2016 / EVENT
Apr 26, 2019 Updated
皆さんは、「トランスジャパン アルプスレース」という、日本で最も過酷な山岳レースをご存知でしょうか。
富山湾をスタートして、そのまま北、中央、南アルプスを縦走し、駿河湾へゴールする。アルプスには、剣岳、立山、槍ヶ岳、木曽駒ケ岳、仙丈ケ岳、聖岳といった3000メートル級の山々が待っています。
ゴールするまでに選手が上り下りする累積標高差は2万7000メートル。これは富士山登山7回分に相当し、ゴールまでの距離は415km。選手たちは、昼も夜も関係なく進み、8日間以内でゴールしなければなりません。そして、賞金は一切ナシ。
これだけでも、かなり過酷なレースということがわかりますね。同大会のコンセプトは、「限りなく自己完結したスタイル。山岳、気象、装備、危機管理、体調管理など様々な面において、非常に高いレベルの知識と経験を求めます。トレイルランニングをイメージする人も多いですが、考え方のべースはランニングではなく、登山そのものです。なんらかの事故やトラブルが起きても、全て自己対応となります。」となっており、参加するにも経験とスキルが絶対条件となっています。そして、その中には“旅”の要素が含まれているようにも感じます。
この過酷なレースは、2002年に初めて開催され、参加者は5人。そして、完走したのはたったの1人といった結果でした。以後、2年に1度開催されているのですが、2004年にはアドベンチャーレーサーの田中正人や、女性トレイルランナーの間瀬ちがやが参戦。参加8人中、6人が完走することができました。2006年は参加6人で完走は2人。2010年からはトレランが知られるようになり、参加者が21人に増えました(完走者15人)。そして、筆者がはじめてこの大会を知り、テレビを通してその凄まじさに驚いたのが2012年大会。23人の猛者が参加した大会でした。
2012年のレースは、同年に『激走!日本アルプス大縦断』としてNHKで放送されました。なぜ、番組化までに10年を要したかというと、理由はシンプル。「安全管理上の問題や、強靭な体力を持つ選手に走ってついていけるカメラマンの不在」が、番組化が難しかった理由だと、書籍『激走!日本アルプス大縦断』で明かされています。2012年は、ランニングカメラマンとの出会いが、この企画の番組化につながったそうです。
私が初めて同番組を見た時に印象的なシーンがありました。
レース終盤、ゴールまで残り40kmの地点で、ある選手がガードレール下にある草をしゃがみこみながらむしり始めました。明らかに普通ではない行動です。その少し前に「おかしくなっちゃたんだよ、全然」と、カメラマンに話しかける選手。意識は朦朧としており、まるで敗残兵のようにボロボロの状態になっていました。一時はレース棄権を考えたようですが、なんとか気を持ち直してレースを続けることに。ただ、座り込んで動けなくなってしまったのです。
3時間もの間、カメラマンがその選手をとらえていたのですが、その際に進んだ距離はわずか100メートルのみ。
鍛えあげられ、経験のある選手でも、これほど疲弊し、幻聴・幻想に襲われるのです。このレースの過酷さを実感するワンシーンでした。結果的に同選手は危険性のない空き地で眠ることで自分を取り戻し、7日間16時間53分でゴールすることができました。
参加23人すべての選手にドラマが生まれる同レース。手に汗握りながら番組にのめりこんだのを覚えています。
そして、2年ごとに開催される「トランスジャパン アルプスレース」とは、今年も開催されます。明後日、7日0時に富山県魚津市・早月川河口をスタートします。参加人数は30人。さて、どのようなレースになるのでしょうか。全選手が無事完走できることを祈っています。また、2016年大会の様子は、9月にNHKプレミアムで放送の予定ですので、そちらも楽しみですね。