高校生ランナーと一緒に断続的断食をすると?

実験2:24時間断食をやった翌日に走れるか?

24時間断食の方は、実行するにはもう少し覚悟が必要だった。ぼくが指導する学校はユダヤ系の私立一貫校だ。ユダヤ教の教えが尊重されるし、ユダヤ教に基づく祝日は学校が休みになる。その祝日の中には断食をするものがあるのだ。今年は10月8日だったヨム・キプル(贖罪の日)もその1つだ。前日の日没から当日の夜まで、ユダヤ教徒はまったく何も食べないだけではなく、飲み物までも完全に断つ。正確には25時間を飲まず食わずで過ごすのだ。

運の悪いことに、今年はヨム・キプルの翌日に地域リーグの公式レースが予定されていた。高校のスポーツ連盟はユダヤ教の祝日までは考慮してくれない。そうなるとぼくの生徒たちは、断食をした翌日にレースを走らなくてはいけなくなる。昨年までは、この祝日の翌日は練習さえも休みにしていたのだ。

ボクシングでは、以前は試合の当日に計量をしていたが、現在では前日に行っている。極限まで減量した直後に試合をするのは危険が大きいからだ。総合格闘技団体のONEでは選手の安全のために水抜きを禁じ、計量も段階的に行っている。飲まず食わずと言うのは簡単でも、やはり体に与えるダメージは深刻なのだ。

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ダイエット目的の断続的断食では水は制限されない

たとえ公式レースであっても、生徒たちの安全と健康は最優先事項だ。だから、レースへの参加は任意とした。半数ぐらいの生徒が欠場すると言い、残りの半数ぐらいがそれでも走ると言ってきた。そうなると指導するぼくとしては、25時間断食した翌日に5キロのレースを走るということがどのようなことなのかを知る必要が出てきた。そうでないと、レースを走る生徒たちに頑張れと言えばよいのか、無理をするなと言えばよいのか、それさえもわからないからだ。

だから、ぼくも彼らと同じ時刻に断食をやってみた。前述したように、ヨム・キプルでは食べ物だけではなく、水も飲めない。ダイエット目的の断食とはそこが大きく異なる。実際のところ、空腹はもちろん苦しいけど、我慢ができないというほどではなかった。それよりも、のどの渇きの方が何倍も大変だった。その間は体にまったく力が入らないし、何もする気にはなれない。ヨム・キプル期間中は労働や身体的活動を禁じるってことだけど、これでは動きたくても動けないというのが正直な気持ちだ。眠くてたまらず、普段はしない昼寝もした。起きている時間は、暇をつぶすのにも苦労した。食事をする時間が1日からなくなると、生活のリズムも狂ってしまうようだ。

なんとか25時間が過ぎて、断食を無事に終わらせることはできた。体重は3キロほど減っていたが、2,3日で元に戻った。肝心のランニングへの影響であるが、翌朝5キロぐらいのジョグをしてみると、やはり本調子では走れなかった。走り始めた当初は特に疲れやすいとは感じなかったし、体が軽い分だけ楽な気さえもしたのだが、少しでもペースを上げると途端に苦しくなった。25時間断食の翌日でもジョグならできる。だけど、ランナーのパフォーマンスは落ちる。それが自分の体で実験したぼくの結論だ。

だから、レースで走る生徒達には、タイムを気にしないでゆっくり走れと指示した。君たちは25時間断食という大変な困難を成し遂げた直後にスタートラインに立つだけで既に偉大なのだから、と。

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レース前の女子チーム。これでも真剣なのである。

結果としては、いつもにも増してチーム成績は悪くなったが、誰も体調を悪くすることはなかった。幸いなことに、ぼくの生徒たちは頑張れと檄を飛ばすときよりも、ゆっくり無理をするなと言ったときの方が素直に言うことを聞く。困った連中だが、このような時は好都合だ。何よりも、彼らと同じ体験を共有できたことは、ぼく自身にとっても良いことだったと思っている。

 

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