塩尻和也選手「共感」。デサントから『新・薄底』ランニングシューズ
Nov 18, 2019 / SHOES
Mar 27, 2020 Updated
デサントジャパン株式会社は、『デサント』ブランドとしてランニングシューズ市場に本格参入し、『原点 GENTEN』シリーズの3種類のシューズを12月13日から発売する。日本人の足型に合わせて設計された、日本人のための『新・薄底』シューズがランニングシューズ戦国時代にヴェールを脱いだ。
日本人の足を創る『新・薄底』シューズ
野球やスキーを筆頭に、トレーニングウェアなどのスポーツアパレルに強みを持つブランドのデサント。
また、ルコック、アリーナ、マンシングウェア、アンブロといったブランドを日本で手がけ、最近ではデサントオルテラインの水沢ダウンが話題となっている。しかしなぜ、このランニングシューズ戦国時代ともいえるタイミングで、フットウェアを展開するのだろうか。
デサントには、スポーツやトレーニングの原点である“ランニング”に注力することで、事業領域拡大を図る狙いがある。デサントジャパン株式会社・代表取締役社長の小川典利大氏は「あくまで中期的なビジョンで、デサントブランドのランニングシューズを普及させる」と力強く話した。
2017年から3年連続でホノルルマラソンに協賛するなど、今回のシューズ発表までもランニング事業に注力していた。そして今回、トライアスロン用やファンラン用のシューズも販売するが、マラソン完走や記録向上のためにメインとなるのがGENTENシリーズである。
開発に2年余りをかけたというこのシリーズは、『日本人の足や走り方に合うシューズを作る』というコンセプトに基づいて設計された。また、ものづくりの原点に戻るということから、その名前の通り、シンプルかつミニマムなデザインとなった。
なかでも、デサントがこだわりを持って開発したのがフィット感を高めること。あるアンケートによれば、ランニングシューズ購入時の多くの決め手は、フィット感の良さにあるという。
そのため、日本人の足の特徴を考慮したラスト(木型)作りから、こだわりを持って開発を進めたという。3種類のシューズは、それぞれに対象とするランナーのレベルが設定され、ラストもそれぞれ微妙に違う。学生や実業団などのエリート層の選手に向けて作られた最上位モデルの “GENTEN-EL” は、カーボンプレート内蔵の新・薄底シューズ。
中足部から角度がつく独自のドロップ構造によって、推進力と安定性を実現している。また、軽量性を重視してノーベル物理学賞で話題となった2次元物質のグラフェンをアウトソールに使用。自社の開発拠点施設であるDISC(DESCENTE INNOVATION STUDIO COMPLEX)での検証実験を重ねて、新感覚の1足を完成させた。
サブ3レベルのランナーのマラソン完走をサポートする “GENTEN-RC” は、3つのシューズの中で1番のフィット感の良さを売りにしている。また、エントリーモデルの “GENTEN-ST” もクッション性があり、多くのランナーが手に取りやすい1足となっている。
デサントは、これらの『GENTEN』シリーズを主軸に、ランニングシューズ開発で培ったノウハウをランニング以外のシューズ開発にも応用したいと考えている。
塩尻和也とアドバイザリー契約を締結
リオ五輪男子3000m障害出場の塩尻和也選手(富士通)は、この種目で順天堂大時代に日本インカレ4連覇、2018年アジア競技大会・2019年アジア選手権で、ともに銅メダル獲得。また、10000mでも日本人学生歴代4位の27分47秒87の自己記録を持つ。箱根駅伝エース区間の2区で日本人歴代最速記録の1時間06分45秒をマークしたオールラウンダー。
そんな一流ランナーとデサントとの繋がりは大学時代から。順天堂大のユニフォームは、現在もデサントブランドであり、塩尻選手が所属する富士通のユニフォームもデサントが手がけている。そして、新シューズの開発を機に、デサントが東京五輪を目指す23歳のホープにアプローチ。
塩尻選手は「デサントのシューズづくりのコンセプトに共感した」と、今回のアドバイザリー契約締結に至った経緯を振り返った。
現在は怪我の影響で治療に専念しているが、シューズについて「フィット感がすごく良い」と話す。デサントが打ち出す『新・薄底』という特徴に関しては「今までに薄底シューズで地面をダイレクトに蹴るような走りを求めてきたが、これまで以上の走りができるかどうかが楽しみ」と期待を込めた。
また、「ランニングシューズ選びでは様々な選択肢があるが、人によっては地面を蹴る感覚が好きな人もいる。そんな人には、デサントのシューズをぜひ履いてもらいたい」とアドバイザーらしい説得力のあるコメントも出た。
3つのデサントシューズのレビュー
製品発表会の後、実際に3つのシューズを筆者が履き比べてみた。まずはエントリーモデルの “GENTEN-ST”。フィット感の良さが特徴で、3つのシューズの中では反発性とクッション性のバランスが最も良い。ゆっくりとしたペースのジョギングやボリュームゾーンであるマラソン4時間前後のランナーには、最適であると感じた。
次に、サブ3レベルのシリアスランナー向けの “GENTEN-RC” を履いた。今の筆者の走力レベルがちょうどこの程度であるが、3足の中ではいちばんフィット感が良いと感じたモデル。グラフェンソールを搭載するこのシューズは、グリップがとても効いているのが特徴。
最後に、カーボンプレート内蔵でエリート層を対象としたレーシングモデルの “GENTEN-EL” を履いた。こちらもまたグラフェンソールによってグリップ力に優れ、もちろんフィット感も良いが、3つのシューズの中では1番ダイレクトに接地の感触を味わえた。塩尻選手が言う “地面を捉える感覚” を養うには良いシューズで、ハーフまでのロードレースや駅伝には最適だと感じた。
元競技者の私としては、 “GENTEN-EL” で10kmまでの距離のロードレース・駅伝を走ってみたくなった。このモデルはスピードトレーニングにも重宝しそうである。また、“GENTEN-RC” は、故障しにくいタフな脚を作るための走り込み(脚筋力向上)にも良さそうだ。
ランニングシューズは厚底vs.薄底の対立構図がよく取り上げられ、厚底優勢の記事を目にすることが多い。しかし、厚底シューズだけが必要なのではでなく、薄底シューズも積極的に手に取りたい。なぜなら、トレーニングやレースの目的に応じて、様々なシューズを履き分ける必要性があるからだ。
『GENTEN』シリーズのキャッチコピーは、『日本人ランナーの足を創る』である。持久的な運動を継続していくと、体がその刺激に慣れていく。しかし、それまでとは違う刺激を与えることによって、体はまた違った変化を起こそうとして、より強靭になっていく。厚底主流の現代に、デサントがこのタイミングであえて薄底シューズを販売するのには、こういった狙いがある。
デサントは過去にランニングシューズ市場に参入したが、シューズを売る体制を十分に整備できず、撤退を経験している。その後2018年には、研究開発拠点のDISCを大阪と韓国の2ヶ所に作るなど地力を強化。将来は、DISCを活用してまた違うシューズを開発することも検討しているという。
デサントは、このブランドのシューズが世間に浸透するまで「5年、10年はかかる」と覚悟している。そこに勝機を見出すデサントの挑戦に今後も注目したい。
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