いつでも走ることができる競技と、チームがないと活動できない球技の話
Mar 22, 2019 / COLUMN
Apr 26, 2019 Updated
ぼくの車のトランクにはロード用とトレイル用の2種類のランニングシューズがいつも置いてある。いつでも好きな時に走るためでもあるし、どこに行ってもその辺りを走ってみると初めてその土地のことがわかったような気がするからだ。だから持ち物が制限される飛行機で旅行するのはあまり好きではない。そんな時でもランニングシューズは持っていくが、さすがにカバンに2種類のシューズを入れるほどの拘りはない。
走ると当然体は疲れるし、車で回ることと比べたら、見ることが出来るものの量は限られてくる。旅をするには効率は悪い。それでも走ることでしか得られないものもある、と思う。旅の実感という意味では、量より質なのだ。
ぼくにとっては旅と走ることはセットになっていて、どちらが主だと決めることは出来ない。もちろんマラソンとかのレースに出るような時は走ることが一番の目的で、レース後の観光はおまけのようなものだ。あるいは何か別の目的で見知らぬ土地に行って、そこで走ってみたら、思いもかけない出会いがあったり、いつまでも忘れられない思い出が出来ることもある。今回紹介するパームスプリングスはぼくにとっては後者だ。
ロサンゼルスから片道2時間ほどの距離にあるパームスプリングスは、避寒地リゾートとして名高い。ハリウッドのスタジオにすぐに戻れるからという理由で、多くの映画スターがこの街に別荘を持っているということだし、近辺には有名な(そして高額な)ゴルフ場がいくつもある。現在女子テニスの世界ランキング1位、大坂なおみが昨年ブレイクするきっかけとなったインディアン・ウェルズ・オープンの会場もすぐ近くだ。
2月の間、ぼくはこのパームスプリングスに何回も通った。数えてみると1か月で合計7回、最後の週などは3回も自宅とパームスプリングス間を往復している。
映画スターでもゴルファーでもないぼくがこのリゾート地にかくも頻繁に通った理由は、もちろん別にある。それがこの地で行われていた全米屈指のプロ野球スカウトリーグとして知られるカリフォルニア・ウィンターリーグ(CWL)だ。
スカウトリーグとは、プロ志望のアマチュア野球選手達がメジャーリーグや独立リーグのスカウトの前で実力を披露し、プロ入団契約を勝ち取ることが目的で開かれる。選手達の多くは、20代前半。高校や大学での野球を終え、メジャーリーグのドラフトからは声がかからず、それでも野球を続けたいと願う若者たちが、全米各地からこのCWLにやってくる。そうした選手達の中には日本人も多く含まれていて、今年は全体で10チームあるうちの1チームがほぼ全員日本人で形成された。
最初ぼくはこの日本人チームの監督や選手達に取材目的で会いに行ったのだが、彼らのプレイを見て、ひとりひとりと話をしているうちに、どんどん彼らのファンになってしまい、気がついたら何度も試合や練習を観に行くことになったのだ。最後の方は取材なのだか応援なのだか、自分の中でも区別がつかなくなっていた。