なにがあった!? 完走率16%のカテゴリがでた「OMM JAPAN 2018 OKUMIKAWA」

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OMM(Original Mountain Marathon)とは?

昨年に続きアドベンチャーレース「OMM JAPAN」に参加したラントリップ取材チーム。OMMとは、現在のアドベンチャーレースの起源にもなったイギリス発祥のレース。その初開催は1968年(当時は、有名ブランドKarrimorが主催していたKarrimor International Mountain Marathonが大会名)と歴史あるもの。名実ともに世界最古と言える山岳耐久レースですが、その特徴は走力のみならずナビゲーション能力や野営技術など、まさに「山の総合力」が試されるところ。OMM JAPANでは、エイドポイントもありません。そのため、選手たちは2日分の食料やギアなどをすべて背負い、地図とコンパスのみを頼りにゴールを目指さなければなりません。

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カテゴリは「Straight」と「Score」。

Straight:オリエンテーリング方式を取り、CP(コントロールポイント)を指定された順番に回り、所要時間を競うカテゴリー。クラスは(上級者から)A、B、Cとあり、それぞれ距離もCP配置も異なる。

Score:ロゲイニング方式を取り、一定の制限時間の中でより得点の高いCPを獲得するために自由にルートを選択しながら進むカテゴリー。各CPの得点は異なる(例えばCP1は30点、CP2は10点などの)ため、正確なナビゲーションとルート戦略が鍵となるカテゴリー。

今回私たち取材チームは、Straight Bにエントリー。双子のランナー・高橋兄弟が走ってくれた。

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OMM JAPANはスタート前からレースは始まっている?

登山と同様に、2日分の荷物を背負うため少しでも軽量化を計りたいところ。ただ、削り過ぎると十分なエネルギーや睡眠を確保できません。大会HPでは多くと語らないと有名で、当日のコースが知らされていないだけでなく、自分たちがどこにテントを張るのかもわかりません。山の総合力が試されるレースならでは。今回は、愛知県奥三河に位置する豊根村、設楽町がエリアとしか案内がなく、DAY1のゴール地点は不明。だからこそ、エントリーした選手たちは前もって「何を捨てて、何を残すのか」を熟考。1g単位で調整するのです。

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今回、高橋兄弟は「睡眠を確実に取る」ことを優先。ひとまず想定しうるギアを全て車にぶち込み会場へ。

「昨年のStraight A(最高)レベルが、今年のStraight Bレベル」と語るのは、イベンターのJeffさん。更に「今年のStraight Aは、本国のStraight B程度。エリートクラスはもっと凄いから、日本のレベルを上げる狙いもあります」と。

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OMM JAPAN 2018 DAY1スタート!

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「最高のレース日和!」とレース当日を迎えた高橋兄弟ですが、悪条件で戦うレースが印象的なOMM JAPANとしては、少し“らしさ”が欠けているとのこと。ですが、せめて天候だけが良かったと振り返る事を、その時の2人は知りません。

開始1分前。ここで初めて今回の地図を手にすることができます。Straightなので、CP(コントロールポイント)を指定された順番に回り、所要時間を競います。で、手にした地図がこれ……(汗)

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これを番号順に回る必要があります。直線距離で約17kmですが、当然そんな距離で済むCPの配置ではありません。地図を埋め尽くす等高線が起伏の激しさを物語っており、既に「史上最高難易度」と言われるエリアに面食らっている状態。そして、国内屈指のタフなコースといわれる奥三河パワートレイルが有名なことを妙に納得。

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覚悟が必要だ、高橋兄弟。

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スタート早々にオフトレイルに。
この季節の奥三河のオフトレイルの印象は、「藪はないが、鬱蒼とした枯木山」。目に枝が入らないよう注意しつつ、バキバキと音を立てながら、積極的に駆け下ります。

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無事にCP1を獲得。次を目指そうと公道に出るため更に下ることに。道中、多少のコースのズレがありましたが、無事公道に出てCP2へのルートを確認。ここで兄弟の意見が分かれます。

「登り基調の公道を走り、CPの近くまでアプローチするロストリスクの少ないルート」
「コンパス指示で丘を横断するロストリスクの高いルート」

OMM JAPANではよく喧嘩が起こる、これは参加者だけが知るあるあるですね。結局、後者を選択。途中で野生の鹿に遭遇しました。

急登を上がることになりましたが、無事CP2を獲得。時間にして数十分程度巻くことに成功。すぐさまCP3の場所を確認。すぐ西にある黒線のトレイルを辿って行く安全ルートがありましたが、尾根伝いにピークを繋いでいけばCP3まで行けると判断。他のコンペティターも同作戦を取ったようで、道中で数チームとすれ違うことに。そんなガシガシ攻めていくチームに気を取られている間に、自分たちの居場所をロス。バディーがいるにはいるのですが、シンと静かになる森の中で2人きり。澄んだ空気がやけに不安を煽り、「遭難したのではないか」と小さなパニックがやってくるのです。

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しばらくすると、同カテゴリーのチームが通りかかり、同じ状態に陥っていることが判明。お互いここは一時休戦となり、手を取り合い、頭をフル回転しながら地図とにらめっこ。

方向は間違えていないはずなので、ひとまず谷あいのトレイルに一度避難しようという結論に至りました。ひたすらコンパス指示で急峻な山を下りていくと、トレイルを発見!「助かった!助かった!」思わず歓喜の声(笑) 互いに胸をなでおろし、その後同時にCP3を獲得。健闘を祈り一時休戦は終わり、お互いがライバルとして、それぞれのペースでCP4を目指しました。

CP4はアップダウンのある公道とトレイルを繋いだ先にあるので、少し心理的に余裕がありました。ですが到着したはずのピークが見当たりません。冷静に地図を読み直すと、「ここのピークって、もしや目指していたピークの西側にあるピークなんじゃないか?」と。周りの景色と地図を頭の中で合成。そして、コンパスを当てて方角を確認すると……正解!なんとかCP4を発見。「地図は絶対嘘をつかない」と、これまでなんども学んだ事を再確認。

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その後CP5まではコンパス指示で迷うことなく歩を進め、問題なく獲得。

CP6までの道中はこの日のハイライトになりました。CP5から北に下り、公道に辿り着くと、ここからひたすら長い登りのロードを走り続けました。途中気が滅入りそうになったので、スラムダンク世代の兄弟は、スラムダンクのアニメ挿入歌を大合唱。「めちゃくちゃいい歌詞(特に大黒摩季!)」と、こちらも再確認でき、CP6を獲得。

CPも残すところあと4つ。制限時間はこの時点であと3時間ほどに。「間に合うのか?」ここで不安がよぎります。「ここまでの時間配分だと、基本走らないと間に合わないぞ!」と、レース終盤ですが走ることを優先。CP7、CP8獲得も、山での上下運動と長距離のランニングでもう足は残っていません。

ゾンビよりも遅いペースでのランニングを自覚しながらもCP9へ。その途中でOMMイベントチームと鉢合わせ。顔見知りのため「完走行けるんじゃない?がんばれ!」との声に微笑むゾンビ。

あと1つ!残り時間は1時間。

「行けそうだ」と、希望が見え始めたところに、Straight A参加の男性チームとばったり遭遇。過去参加した大会で何度か見かけた実力者だった彼らのルート取りを見て、地図に落とし込んでみると、CP10までのルートがくっきり。そんなこんなで苦労することなくCP10を獲得し、1日目のゴールへ。

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無事に制限時間の30分前にゴールすることが出来ました。この日の走行距離、なんと38㎞。

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ヘトヘトになった体を休めたいと思っていたところ、既にゴールしたコンペティター達でテント場が埋め尽くされていることに気づく。今度はCPではなくテントを張る場所を探す(笑)。なんとか隙間を発見し、すぐさまテント張り。

エネルギーが抜けきって気だるい身体はゾンビそのもの。装備を着込み、寝袋に入りながら夕食を取ることに。その後、DAY1の成績表を見に行きました。複数チームに抜かされた記憶があったため期待していなかったのですが、なんと98チーム中14位という好位置!そして、衝撃的事実が。

DAY1を無事に制限時間内にゴールしたチームが17チームのみだったのです。

今回、有名トレイルランニングレースに出場しているランナーも同カテゴリーで参加していましたが、軒並み失格という大波乱。OMM JAPANの難しさを感じるとともに、「山の総合力」という言葉に重みを感じました。

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少し誇らしげな気持ちと明日も完走してやるという引き締まった気持ちを胸に、美しく星が輝く夜空の下、英気を養うべく早々に就寝。

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OMM JAPAN 2018 DAY2スタート!

早朝5時半。周りのコンペティターの出発に向けた準備の音が。睡眠を優先したからか、疲れがほとんど残っていない。朝食をさっと済ませ、出発のために撤収&準備、スタートへ移動しました。

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この日の朝の気温は4℃ほど。昨年の-10℃を思い出しました。今日も、好環境。

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そして手にした新たな地図。DAY1のエリアから北西にエリアをずらしたことが一目瞭然。昨年は同じエリアで異なるCPを獲得する仕様だったので、DAY2はどこにCPがあるかをDAY1の地図で推測していた高橋兄弟は面食らう。「あの時間はなんだったの」と言ったとか、言わなかったとか。スタート後、歩きながら作戦を立てます。

CP1は湿地帯の中にある岩とのこと。そこから伸びている沢が公道に繋がっていることを確認し、そこまでランニング。難なくCP1を獲得。

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CP2を目指しコンパス指示でひたすら進むと、CP2北にあるトレイルに到着しましたが、ここで悩んでいるチームが多数。地図上だと意外に楽に取れそうな印象でしたが、見当を付けて下っていったチームがまた登り返してくる。その光景を目の当たりに慎重になり、自分たちがトレイルの何処にいるか状況の整理をし、湿地帯には沢が伸びているはずだと見当をつけ、沢を下っていくことに。見事CP2の場所に辿り着くことに成功。

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CP3、CP4を目指し南にある行動まで駆け下り、トレイルを進み、尾根やピークを繋いでいき、ここ2つは比較的スムーズに獲得。CP5を目指して進んでいく中で、昨日の終盤に遭遇したStraight Aの実力者と再びばったり。同じCP5を目指していることが判明し、今大会2組目の同志となり、一緒に探すことに。ここで力の差を見せつけられます。

オリエンテーリング畑で培ってきた経験値をもとに、コンパスを使わず、地図と目の前の景色を合成してガシガシ進んでいくのです。すると、引き寄せられるかのようにCP5に到着。内心驚きを隠せませんでした。ここで植生界(植物の境界線。例えば広葉樹林帯と針葉樹林帯の境)という知識を授かり、高橋兄弟はまたレベルアップ(笑)。

CP6は公道とトレイルを繋いでいき、急登の真下まで移動後、コンパス指示で直登して難なく獲得に成功。DAY2となると、地図読みの感覚が洗練されるのです。

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……が、完全に「ロスト」。

CP7が見つかりません。現在地を把握するために特徴のある地形を求め、そのまま彷徨っていると木々の間から覗くCPを発見。道に迷う怖さから解放されたと思いきや、そこにあったのはCP1。

周囲を見渡すと確かに見覚えのある場所。疲れからか、単純にコンパス指示を見誤ったのでしょう。CP6から何故か南東に突き進んでいたようです。

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思うようにいかないことの連続が、このレースの魅力なんでしょう。間違いの度に自問自答が繰り返され、また、その時間も十分にあるため、しっかりと血肉になっている感覚が得られます。その反面、うまくいった時の感覚は、パズルが完成した時のそれに近い。そして、何よりも参加者はゴールを目指しているわけで、フィニッシュした時の喜びはそれ以上のもの。
CP8~10を難なく獲得した高橋兄弟はゴールすることができました。DAY2は2時間ほど時間に余裕をもって戻ってこれました。早速、順位を見ると暫定10位!双子が歓喜のハイタッチ。

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後日、オフィシャルリザルトを確認すると11位になっていましたが、Straight Bの完走率は過去一番の16%というものでした。

OMM JAPAN 2018を振り返って

OMM JAPAN EventDirectorの小峯秀行さんが、今回のレースを振り返ってくれました。

「昨年のOMM JAPAN 2017 NOBEYAMA KOGENを終えて、多くの参加者がとくにナビゲーショ ンに対するより高いレベルのチャレンジを求めていることを感じました。運営チームとしては、それらの思いを今年のコースにぶつける形となりました。結果、過去最高難度のコースと事前に噂されたとおり、straightクラスにおいては全クラスで例年よりも低い完走率となり、Scoreクラスでも得点を伸ばせなかっ たチームが増えました。それでも1200名全チームがDAY1、DAY2ともに自身の判断でコースクローズまでに帰還した ことは、天候が良かったことに救われた面もありましたが、開催5年目を経て確実に参加者の中でのオウンリスクとセルフマネジメントの精神が根付いてきていることを実感します。

今回、有名選手も失格となる難しいレースとなったOMM JAPAN。決して走力だけではないことが浮き彫りになりつつ、山に対して、自然に対して謙虚な気持ちを思い出させてくれました。既に来年度の会場が決まっているとのことなので、帰り道で思いを馳せながらも、『どんなレベルに設定されるのか』と背筋が伸びたのはここだけの話」

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OMM JAPANは「山の総合力」の真価を問われたイベントだった。

とにもかくにも、その魅力がさらに深まった今回のOMMのイベント。早くも2019年度に関連イベントが開催予定とのこと。山の総合力を試す、そんな機会を得てみてはどうでしょう。

■OMM LITE/BIKE HAKUBA,OTARI 2019
開催日程:2019年7月頃
開催場所:長野県白馬村・小谷村

OMM LITEは、安全に楽しく、OMM JAPANに参加するために必要なナビゲーションスキルと経験を学ぶ機会。 体力・知識・経験の有無に関わらず、誰でも気軽に参加できます。そして、このイベントを通してナビゲーションスポーツに必要なコンパスワークや、ナビゲーションの基礎知識、経験、プランニング等を学ぶことが。イベントの楽しみはレースだけではありません。 レース後のキャンプでは夏の白馬という素晴らしいロケーションを存分に堪能しながら、最高に楽しくリラックスした時間を家族や仲間とともに満喫することができます。

■ISHII MOUNTAIN MARATHON 2019 東伊豆
開催日程:2019年5月25-26日
開催場所:静岡県東伊豆町

(株)ICI石井スポーツでは、登山を「より安全に」「より快適に」楽しんでいただくための「山力のスキルアップ」をテーマに、これから本格的な縦走登山をはじめたい方から、スキルアップを目指したい方、そして山の熟練者の方まで、すべての山好きな方々が「山」というひとつのフィールドで一緒に学ぶ事が出来る大会を開催。名前はマウンテンマラソンですが、山を走るタイムを競うフィジカル重視のイベントとは違います。スタート時に渡される地図を仲間とともに検討して、ゴールまでのルートを決める。途中登山道だけでなく、地図とコンパスをたよりに尾根・谷を進むこともあるでしょう。自分自身で決めたルートが道となるのです。
夜は自分たちが担いだテントで仲間と明日の行動について語らい、今日の健闘をたたえ合う時間。もちろん夕食・朝食は自炊します。このイベントはまさに登山に必要な様々なスキルを総動員して山を遊び尽くすのです。

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