マラソン芸人のM高史さんと萩原拓也さん(ポップライン)が関東地区の大学陸上部を訪問し、チームの様子をレポートする当企画。第1弾はMさんの母校でもあり、箱根駅伝4連覇、全日本大学駅伝4連覇など、21世紀の常勝軍団として大学長距離界に君臨する駒澤大学(以下、駒大)にお邪魔しました。専門誌では見られない学生たちの〝素顔〟を、芸人2人が引き出していきます。
●インタビュアープロフィール
M高史(ものまねアスリート芸人、右)
中学・高校は陸上部(長距離)に所属し、駒澤大学陸上競技部では駅伝主務として選手をサポート。2011年12月より「ものまねアスリート芸人」へ転身し、〝公務員ランナー・川内優輝選手のそっくりさん〟として注目を集める。
萩原拓也(お笑いコンビ・ポップライン、左)
かつて神奈川大学陸上競技部に選手として4年間所属。卒業後は2年間の役者生活を経てお笑い芸人へ転身し、現在は設楽悠太選手(Honda)のそっくりさんとして駅伝ファンを中心に密かなブレークを果たしている。
大八木監督就任後は三大駅伝21勝を誇る
2005年に史上5校目となる箱根駅伝4連覇の偉業を達成するなど、これまで数々の駅伝タイトルを獲得してきた駒大。OBには豪華選手の名が連なり、現在チームのコーチを務める藤田敦史さん(男子マラソン元日本記録保持者)や、2015年世界選手権男子10000m代表の村山謙太選手(旭化成)、3月のびわ湖毎日マラソンで日本人トップ(7位)に輝いた中村匠吾選手(富士通)などが、学生時代に藤色のタスキを繋ぎました。
そんなチームを長年指揮するのは、学生長距離界の大御所である大八木弘明監督。1995年4月に母校・駒大のコーチに就任すると、2002年に助監督、2004年に監督へ昇格し、大学三大駅伝(出雲、全日本、箱根)では通算21勝を挙げるなど屈指の戦歴を誇ります。グラウンドや監督車から「男だろ!!」と、選手に檄を飛ばす姿もファンにとっては印象的です。
【大八木監督就任後の三大駅伝タイトル】※コーチ、助監督時代も含む
箱根:2000年、02~05年、08年
全日本:1998~99年、2001~02年、04年、06~08年、11~14年
出雲:1997~98年、2013年
部員数は現在48名(マネージャーを含む)で、東京都世田谷区の玉川キャンパスにあるグラウンドや、砧公園、多摩川の土手が主な練習場所。昨年は9年ぶりに箱根駅伝のシード権(※)を失うことになりましたが、再び優勝争いに加わるため、チーム一丸となって練習に取り組んでいます。
(※シード権・・・10位までに入れば、次回大会の予選会が出場免除となる)
エース・片西は中学まで軟式野球部
現チームの注目株は、昨年のユニバーシアード・ハーフマラソン金メダリストの片西景選手(4年)。10000m28分38秒70、ハーフマラソン1時間01分58秒の自己記録を持ち、駒大復活のキーマンとしても期待されますが、高校時代までは全国的に有名な選手ではありませんでした。どんな経歴を持つ選手なのか、大学の先輩でもあるM高史さんが片西選手のバックボーンを引き出していきます。
高校の時から駒大は早大、東洋大と並んで『3強』と言われていましたし、トラックだけでなく駅伝で強いのは力がある証拠。そんなチームの指導を受けてみたいと思って駒大にしました
事前に片西君の情報を調べてきたのですが、中学までは軟式野球部でセカンドを守っていたんですよね。そこから何故陸上の世界に進んだのでしょうか
身体も大きくないし、高校野球は無理だなと思ったんです。体育の授業の1500mでサッカー部の次くらいに速かったのもあり、『競技でやってみようかな』と陸上を始めました
サッカー部の方が速かったんですね(笑)。高校は昭和第一学園(東京)ということですが、強豪校ではないですよね?
すごいなぁ、それで高校時代は5000m14分23秒ですもんね。駒大入学後はトントンと記録を伸ばしていますが、転機となったレースってありますか?
風が強くてタイムは悪かったのですが、2年時のかすみがうらマラソン(10マイル)で勝てたというのが大きかったですね。監督も記録より〝勝負〟を評価してくれると思うので、飛躍のきっかけになったと思います
吉川主務の5000mベストは他大学の主力級!?
大会でスポットライトを浴びるのは選手や監督ですが、そんな彼らを裏方として支えるマネージャーの存在も忘れてはいけません。主務の吉川大知さん、女子マネージャーの山本亜美さん(ともに4年)は、長年チームをサポートしてきたエピソードを話してくれました。
主務の吉川君は岡山の名門・倉敷高校の出身で、5000mの自己ベストがかなり速いと伺ったのですが……
他の大学だったら主力でもおかしくないですよね。いつ頃からマネージャーに転身したんですか?
3年生の夏からです。きっかけは同期ががんばって走っている中で、自分だけ全然走れなくて、気持ち的にも『そろそろ厳しいかな』と。それまでチームにお世話になったし、何か恩返しできるかたちがあるかなと考えた時に、マネージャーとして少しでも貢献できたらと決意しました
片西君から見て、吉川主務の仕事ぶりはいかがですか?
めっちゃ頼っていますし、よく伊勢(翔吾)とか下(史典)とかと一緒に部屋で語り合っています(笑)
山本さんは、陸上部のマネージャーになろうとしたきっかけはありますか?
高校生の時から箱根駅伝は見ていたので、強豪と言われているチームのマネージャーになれたらいいな、と思って入部しました
男子マネージャーと女子マネージャーの仕事って、具体的にどう違うんですか?
大会の申し込みや、選手と直接コミュニケーションをとったりすることは男子マネージャーに任せて、それ以外の練習の準備や(監督の)奥さんと一緒に食事を作ったりしています
駒澤では、監督の奥さんが20年以上も食事を作られているんですよね
練習ではタイムを測ったりすると思うのですが、選手側から見て『この人の声は聞きやすいな』とかありますか?
吉川の声は、本当によく通りますよ! 練習だけじゃなくて、記録会とかでも周りが声を出している中で(吉川の声だと)はっきりわかります
結構わかりますね。ハーフマラソンの大会で、あらかじめどこにいるか知らされていなくても、すぐ気づきますから(笑)
大八木監督は女性に優しい
話題は大八木監督について。試合中は厳しい言葉も投げかけますが、グラウンド外では意外な一面もあるそうです。
※インタビュー時は大八木監督不在
ちなみに僕は大学時代に主務をやっていたのでよくわかるのですが、大八木監督は普段どんな方なんですか?
入学前は、厳しくてやっていけるかなという不安もあったのですが(笑)、練習は細かいところまで見てくれますし、普段は気さくに話しかけてくれるので、本当に人として好きですね
『人として好き』って、すごいですよね。この取材が始まる前も、皆さん和やかに話していたので、『普段はそんな感じなんだ!』と、意外な印象を受けました
僕は卒業するまで怖かったですよ。今でもビクビクしていますが……(笑)。ちなみに2人はいかがですか?
僕は監督の考えを選手にうまく伝える役割なのですが、自分にはない考えを持っている方なので、すごく勉強になります
男子マネージャーには厳しい一面もありますが、女性に対しては優しいですね
さっき集合写真を撮った時も、監督は山本さんを真ん中に入れてあげてたもんね(笑)
だから、私は良い印象の方が強いですね。あとは情があって、熱い人というイメージですね。本当に人として尊敬できる方です!
「アイドルのライブに行きたくても行けない……」
試合では真剣な表情で駆け抜ける選手たちですが、普段はキャンパスライフを送る大学生でもあります。そんな学生ならではの悩みも打ち明けてくれました。
皆さん4年生とのことで、卒論や残っている単位もあるかと思いますが……
自分は学年で1番残っています(笑)。前期は週5で通って、後期は駅伝に集中できるようにがんばります!
自分は経済学部で卒論がないので、もうほとんど学校に行っていないです
僕はマネージャーの仕事が大変だったので、学校があった方が息抜きになっていましたけどね
これはマネージャーあるあるかもしれないですけど、主務は監督から電話がきてもすぐ出られるように、なるべくドアの近くで授業を受けるんです。監督は、気になったらすぐ電話をかける方なので
朝練の時でも、6時くらいから誰かと電話しているんですよ。『そんな時間から誰と電話しているんだろう』って、ずっと気になっています(笑)
たまに深夜も、寝ている時にかかってくることがありますね
着信音をMAXにしているので、反射的に対応できるようにしています
そんな、マネージャーの知られざる苦労があるわけです……
学生たちのプライベートも気になりますよね。好きなタレントさんとか
行きました! でも、レースとかで忙しいのでなかなか……
(吉川主務を指さす)
行きたいですけど、土日は寮から出られないですし、基本的に全部練習なので……
今年は駒大のここに注目!
最後に、学生の皆さんに今年の駒大の注目ポイントを挙げてもらいました。
今年は9年ぶりに(箱根駅伝の)予選会に出場します。過去には予選会で1位通過して箱根で優勝した日体大(2013年)の例もあるので、予選会から注目してもらいたいです
片西君から見て、『この選手は注目!』という人はいますか?
最近良かったのは2年生の小島(海斗)とか、3年生の山下(一貴)。あとは4年生はみんな箱根を経験しているので、注目してもらいたいですね
※取材日(4月26日)の9日後に行われた『ゴールデンゲームズinのべおか』にて、片西選手と小島選手は5000mで自己新(13分57秒02、13分55秒65)をマーク。ともに初めて13分台に乗せた
あと1つ、これだけは聞いておきたかったんですけど、3年生に中村たいせい君が2人(大成、大聖)いますよね。どうやって呼んでいるんですか?
(2人の出身高校である)東北と(埼玉)栄です(笑)
1人でいる時は『たいせい』って言うんですけど、2人並んだら……(笑)
珍しいですよね。まったく同じ読み方の選手が同じチームの同学年で揃うなんて
やっぱり4年生が注目されていると思うので、同級生としてがんばってほしいですね
皆さん今回は本当にありがとうございました。萩原さんから何か一言ありますか?
一同(笑)
1991 年生まれ、東京都出身。スポーツをメインに取材・執筆を行うフリーライター。陸上競技 の専門誌『月刊陸上競技』での執筆経験を生かし、当媒体では元陸上ランナーのインタビュ ーや箱根駅伝関連の記事を多く執筆している。