クリスマスイブに行われた「箱根OB座談会」。箱根駅伝常連校のOB4名が集結し、様々な選手やチームの裏話を暴露してくれています。今回の記事は後編でお伝えしきれなかった箱根駅伝の深部に触れた内容を“おまけ”としてお届けします。
座談会前編はこちら
座談会後編はこちら
<メンバー>
法政大OB・大森英一郎さん(ラントリップ代表)、早稲田大OB・八木勇樹さん、城西大OB・玉澤悠輝さん、青山学院大OB・高橋宗司さん
5区は〝神〟が走る場所
個人レースにはない、駅伝ならではのものってあるじゃないですか。いわゆる「タスキの重み」みたいなもの。みなさんは感じますか?
軽かったですね(笑)。でも後輩の渡邉利典(現・GMO ATHLETES)は「これを途切れさせたら大変な事態になる」って言ってましたよ。彼は10区(アンカー)を任されたので。
やっぱり人間が走るところじゃないですね。〝山の神〟が走る場所です。
走り方そのものじゃないですかね。僕まったく前に進まなかったですよ。宮ノ下で死にかけて、「歩いてやろうか!」と思ったくらい(笑)。
俺は83分くらいかかったよ。だって5区だけで柏原(竜二、東洋大/現・富士通)と6分離されてるんですよ。ちょうどその時ブログをやっていて、コメントがエグいんですよ。「負けたのはお前のせいだ! 死ね!」みたいな。アクセスランキングめっちゃ伸びましたから。辞めましたよ、ブログ(笑)。
足音がすごい。めっちゃ力がすごいので、一歩一歩が本当に大きいんですよ。馬力がすごい。でも神野くんの場合は、どちらかというとキレイなフォームのまま「軽さ」でいきますよね。だからすごい。それまで山は馬力でいかなきゃダメだと思ってたんですけど、彼を見て「いや、違うな」と。
93回大会、OBたちの予想は「早稲田ワンチャンある」
と思ってるんですけど、早稲田の4年生が僕らの4年目と同じ空気があるんですよ。「俺らそんな強くないけど、最後に思い出残そうぜ」感がすごい伝わってきて。こういうチームって強いと思うんですよね。
僕らが4年生の時に言ってたのが、「俺らこのまま2位で終わっても、絶対一生楽しいよね」って。僕ら陸上以外で全然仲良くないんで。その分陸上で、ミーティングとかでいろいろ話すんですよ。「俺らそんな仲良くなかったけど、実際仲いいよね」みたいな。
僕はワンチャン来てほしいですよ。ただ、悔しいことに……。
まぁ走力だけ比べたらね。だって(青学大)全員(5000m)13分台でしょ?
いや、タイム以上に強いっすね。僕的にはもちろん早稲田に勝ってほしいですけど。
いや、でも山いないしな~。神野がいない不安感はすごいと思うんですよね。(山の神は)いた方がいいんですよ、絶対。それが後ろの待ってる選手にも影響してくるんですよ。7,8,9区と。
ただ選手層は相当厚いよね。人数が増えれば増えるほど青学が有利になるんじゃないかな。
でも実は早稲田のワンチャンちょっと見たいんですよね。
そこはちょっと見たいよね。早稲田って山対策しないんですか?
早稲田って極端なことしないので、1年間山対策をずっとするとかはあんまりないんですよ。基本みんなスピード強化としてトラックを走って、夏合宿のスタイルも山専用の練習はしない。でもこれまで山を担当してたのって相楽(豊/現・早大駅伝監督)さんなんですよね。コーチの。その相楽さんが監督になったので、逆に山対策を徹底的にやっている可能性もあるし、相楽さんに全日本終わった後に電話したら、何か自信がある感じだった。
いや、本当早稲田はいいチームですよ。もう結束できている感じがする。
箱根駅伝は「人生のピーク」
みんな人生かけて箱根駅伝を目指したわけじゃないですか。その中で、箱根駅伝って皆さんにとってどういう存在ですか?
これインタビューでも言いましたけど、僕は「人生」ですね。現に人生のピークになっちゃったんで。
でも、そこは超えたいよね。今のところ人生のピークなんだ。
でもおもしろいですよね。明確に人生の頂点にあるってわかってるから。それを超えるものを探す旅に出れるじゃないですか。
僕みたいな凡人からすると、箱根駅伝に出たっていうことは本当に人生のピークで、それは常に超えたいから、世の中に対してインパクトのあることをやりたい。というところで起業したのはあるんですよね。あの時の自分がピークだとは言いたくないし、いつまでも「俺は箱根に出ていてね」みたいなことを語っていたくない。だから箱根駅伝は原動力、いや燃料に近いかな。玉澤くんはどうですか?
僕は箱根を目指して出会った仲間とか、引退した後に市民ランナーとして出会った仲間がいるので、箱根を目指してつながりができたのが、自分の中で大事なものかなと。箱根駅伝は「つながり」「絆」ですね。
八木くんとかはどう感じてるんですか? 通過点でしょ? どう考えても。
でも、1回目走った時に、すごい地元の人とかが喜んでくれたのを感じたので、恩返しの意味でも走りたいなって思いももちろんありました。テレビで出身の高校とか載るじゃないですか。あれいいですよね。もう祭りというか、ビッグイベント。それこそ全部のスポーツを合わせた中でも「箱根駅伝」って知らない人いないし、みんな観てるんですよ。そういうレースでしか味わえないことって絶対ありますよね。
日本選手権優勝するよりも、箱根駅伝走ってる方が有名ですよね。
僕としては、そこで経験したプレッシャーのかかり方とかは、正直今から出るどのレースでもそれ以上のものはないなって思います。そこで仲間とかスタッフ、みんなで盛り上がったことは財産ですね。だから「箱根は通過点」っていう考え方はないんです。箱根は箱根でゴールがある。
一言では言えないですね(笑)。ひとつの物語って感じですかね。僕の場合は1年目に風邪ひいて、2年目は山でぶち抜かれたとか、3年目優勝して4年目は欠場したとか、箱根だけの物語ができる。っていうくらい魅力的なものなんですよ。
今回の箱根駅伝楽しみですね。ありがとうございました!
プロフィール
八木勇樹(やぎゆうき)
1989年10月17日生まれ、兵庫県出身。
株式会社OFFICE YAGI 代表取締役 / YAGI RUNNING TEAM 所属 プロランナー
西脇工業高校時代は5000mで全国高校総体 (2年時、3年時)、3年時の秋田国体でケニア人留学生に競り勝ち優勝。早稲田大学競走部では競走部主将を務める。出雲駅伝、全日本大学駅伝、箱根駅伝すべてで優勝し3冠を達成。大学卒業後、旭化成へ入社し、2016年6月末に独立。株式会社OFFICE YAGIを設立、YAGI RUNNING TEAM所属のプロランナーとなる。
玉澤悠輝(たまざわゆうき)
1989年6月15日生まれ、千葉県出身。
千葉・山田中時代に全国大会に出場。3年時の全国中学校駅伝では6区で区間賞を獲得し、チームの全国2位に貢献。市立船橋高校を経て、城西大には一般入部で進学。最終学年で箱根駅伝エントリー16人に選出されるも、惜しくも出場は叶わず。現在は市民ランナーとして活躍中で、「イケメン郵便局員ランナー」として密かに注目を集める。
高橋宗司(たかはしそうし)
1993年2月2日生まれ、宮城県出身。
利府高校では1500mで全国インターハイ出場。青山学院大学では第89回箱根駅伝8区で区間賞を獲得。翌年は5区で箱根の山上りを経験。第91回箱根駅伝では再び8区を走り、区間賞を獲得。チームの総合優勝に貢献した。現在は市民ランナーとして活動する。
1991 年生まれ、東京都出身。スポーツをメインに取材・執筆を行うフリーライター。陸上競技 の専門誌『月刊陸上競技』での執筆経験を生かし、当媒体では元陸上ランナーのインタビュ ーや箱根駅伝関連の記事を多く執筆している。