東京〜福島間の330kmを4日間で走る!?IAU24時間走で優勝した井上真悟選手にインタビュー
Dec 12, 2016 / MOTIVATION
Apr 26, 2019 Updated
2016年11月19〜20日に台湾で開催された『IAU24時間走アジア・オセアニア選手権』。そこで見事に優勝を飾ったのが、ウルトラマラソンランナーの井上真悟選手です。今回は井上選手から、競技に取り組む理由や日々のトレーニング等について、詳しく詳しくお話を伺いました。
結果を求めて走り続ける理由
素晴らしい逆転劇から『IAU24時間走アジア・オセアニア選手権』で優勝した井上選手。しかし高気温下ということもあり、実は19時間が経過した頃、熱中症で倒れてしまったと言います。
「一度は入賞さえ絶望的に思えていたので、優勝という結果には自分でも驚いています。しかし倒れた直後、サポートスタッフが迅速に補給を手伝ってくれました。ラスト1時間のタイミングではトップとの正確な距離差も教えてくださり、だからこそ、諦めず最後で勝機を見出すことができたのだと思います。」
24時間でどれだけ多く走れるかを競う24時間走。シンプルに感じる競技ながら、情報戦略など非常に奥深く、優勝という結果は井上選手1人で得られたものではないようです。
「競技者はライバルとの位置関係が全く掴めません。しかしサポーターが選手にとって必要な情報を与えてくれたとき、やる気というエネルギーが生み出されるんです。そういう意味で、今回の勝利は僕1人では得られないものでした。サポートスタッフには、とても感謝しています。」
選手にとって必要な情報は、1人1人の目的によって大きく異なるでしょう。ではいったい、井上選手にとって走る目的とは何なのでしょうか。
「実は過去にも一度、2010年に開催された24時間走の世界選手権で世界チャンピオンになっているんです。その際は『BORN TO RUN』という本でも有名なアメリカのスコット・ジュレク選手と過酷な心理戦・消耗戦を繰り広げ、7km近い差で優勝できました。しかし帰国しても、このことがメディア等に取り上げられることはなかったんです。たとえ世界一になっても選手として注目されない。これは、ウルトラマラソンがプロスポーツとして発展するための下準備が、日本ではまたできていないからだと気付きました。ですから私は自身の競技を通じ、この競技をもっと広く知ってもらう必要があると思ったんです。そのためには、やはり結果を出し続けるしかありませんよね。」
日本では“趣味の一つ”に過ぎないウルトラマラソン。しかし隣国・台湾では競技として認知されており、井上選手は活動の舞台を台湾へとシフトします。2010年からの6年間を台湾でのアスリート活動に集中。2013年の『台湾一周1100km』優勝、さらに2016年4月には『台湾横断246km』優勝という成績を残し、台湾での自伝出版も果たしています。
「僕は20代の頃から、どうしても自著という手段で、ある社会問題に挑戦したいという思いがありました。それが、親からの虐待や経済的な事情で家庭を持てない子どもたちに対し、マラソンを通して勇気を与える活動。私自身も幼少期には辛い経験を持っており、その経験に対する反骨精神が、現在アスリートとしての強さに繋がっています。」
勝つためのトレーニング方法
強い思いを持って競技に取り組まれている井上選手は、トレーニングの面でもストイックさを持っていました。
「今回のレースに向け、最終的なトレーニングとして東京〜福島間の330kmを4日間かけて走りました。さらにその間は毎日、約80km先の児童養護施設へ走って訪れ、施設児童にマラソンの体験談を伝えていったんです。」
330kmという距離だけでも常人離れしていますが、さらにその道中で児童養護施設を巡ったという井上選手。20代の頃からこの活動を始めたそうですが、実はご自身がトレーニングするうえでの動機付けにも繋がっているようです。
「レース本番より遥かに長く、そして苦しいトレーニング期間。そこで追い込んでいないランナーが、本番だけ結果を出せることなんて絶対にありません。しかし誰も見ていない日常生活の中こそ、人って怠けやすいですよね。誰も応援なんてしてくれませんから。でもトレーニングが『誰かに会いに行く』ための手段だと、少し違ってきます。例えば子どもたちに『○時に会いに行くから』と約束すると、僕にとって毎日が関門時間の決まったレースになるんですよ。ですから今回、私は子どもたちという存在に力をもらって、勝つためのトレーニングができたと思っています。」
マラソンのトレーニングといえば、スピード練習やスタミナ強化など多様。1日80kmという距離走をベースとしつつ、もちろん井上選手も工夫を凝らしてトレーニングに取り組んでいます。
「もちろん、いわゆる陸上競技選手が行う心肺トレーニングやペース走のような練習も行います。しかしウルトラマラソンは、身体能力だけで勝てる競技ではありません。一度にレースと同じ距離を走ることはありませんが、複数回に分散してでも、今回のような詰め込み型のトレーニングは大切だと考えています。なぜなら、これによって自分の弱点に気付けるから。今回、4日間で330kmを走りながら気付いたのは、消化機能の低下でした。」