シューズスペシャリストが語るランニングシューズの未来は?Runners Pulse編集長・南井さん×シューズアドバイザー・藤原さんによる対談

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(左から)スポーツMC・岡田拓海さん、シューズアドバイザー・藤原岳久さん、Runners Pulse編集長・南井正弘さん

スポーツMCの岡田拓海さんがお届けする『TAKUMIの屋根裏トーク』。今回は『ランニングシューズスペシャリスト編』と題して、ゲストにRunners Pulse編集長の南井正弘さん、Rutripではお馴染みのシューズアドバイザー・藤原岳久さんをお招きして、ランニングシューズの過去、そしてこれからについて語っていただきました。

子供の頃に興味を持ったスポーツシューズを仕事へ

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Runners Pulse編集長・南井正弘さん

岡田:早速ですが、お2人がいつ頃から、どのようにランニングシューズに関わってきたかを聞いてみたいと思います。まず南井さん、いかがですか。

南井:最初のきっかけは1976年に『POPEYE』という雑誌が創刊されて、まだ小学生だったんですけど本屋で立ち読みした時に、「こんないろんな色のシューズがあるんだ」って感じて、これは面白い世界だなと思ったことですね。

藤原:小学生でそう思った感性がすごいですよね。

南井:あと、今はないんですが『鎌倉書房』という出版社が一冊丸ごとスポーツシューズの特集の本とかも出していたんですよね。

藤原:そこから情報を得たりしてたんですね。

岡田:もしかして、それが今の『Runners Pulse』に繋がっているんですね。

南井:そうだと思いますね。その頃はそういうところでしか情報を得られなかったんですが、逆にディープな情報が結構載っていたんですよね。そこからシューズが買えるような年齢になって、最初はオニツカタイガーやミズノ、安いナイキとかファッションでスポーツブランドのシューズを履くようになりましたね。その次に「自分は何が好きなんだろう」って考えた時に「スポーツシューズだな」と思って、その時に求人募集をしていたリーボックに就職しました。

岡田:シューズが好きだったというところから、仕事に変わったのがそのタイミングということですね。

南井:そうですね。そこでランニングシューズの世界に入ったという感じですね。

岡田:実際にどんな仕事をしていたんですか。

南井:最初は営業をやりながらフィットネスとウォーキングシューズを担当していました。営業ではいろんなランニングショップに行ったんですけど、「マラソンで本格的に履くにはこういうシューズだよ」って『マラソンソーティとか薄底のシューズを見せられてたんですよね。

藤原:昔はそういう考えでしたよね。

南井:そこで「このシューズで世界記録とかも出ているんですよ」って説明しても、日本のマーケットとの乖離があって、そこは苦労しましたね。けど、それがランニングシューズを深く掘り下げていくキッカケになったのかなと思います。

岡田:そこからフリーに転向されるわけですか。

南井:リーボックには10年勤務していました。ほとんどの期間がプロダクト担当でした。

藤原:南井さんがいた頃に世界ではリーボックで活躍する選手がいたのに、タイムよりも日本の常識が最優先される感じはありましたよね。だから相当ご苦労があったんじゃないでしょうか。

シューズへの概念を覆されたニュージーランド時代

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シューズアドバイザー・藤原岳久さん

岡田:藤原さんの場合はどんなきっかけでランニングシューズと関わり出したんですか。

藤原:僕は学生の頃ですね。当時はアメリカへの憧れが強い時期で、初めてのランニングシューズを買う時にナイキの『AIR MAX 1』を見に行ったんですけど、その上にサッカニーの『コライジャス』が並んでいたんですよ。それに一目惚れしてしまって、悩みに悩んだ末にサッカニーを買っちゃったんですよね。

岡田:その頃からシューズは好きだったんですね。

藤原:そうですね。ランニングシューズに関してはニュージーランドに行くようになってから深くかかわるようになりましたね。

岡田:そもそもニュージーランドに行くキッカケは何だったんですか。

藤原:当時は就職浪人していて本当は教員志望だったんです。それがなれなくてカーディーラーに就職したんですけど、南井さんと共通する部分で本からインスパイアされたことも大きいです。本屋に行って、『地球の歩き方」を片っ端から見ようと思った時にいきなりニュージーランドのページで止まっちゃったんですよね。

岡田:いきなりですか。

藤原:ニュージーランドに近代トレーニングの基礎を作ったと言われるアーサー・リディアードというコーチがいたんですけど、彼に会いたいと思うようになって実際に行ったんですよね。そこで彼が主催している大会に出て優勝したんです。そしたらアーサーに急にシューズの紐を抜かれて、『リディアードレーシング』っていう結び方をされたんです。

岡田:それは衝撃的な出会いですね。

藤原:そこからシューズの多くを学びましたね。ニュージーランドへはナイキの『エア ストリーク 迅』というモデルを1足だけ持って行っただけなんです。そこで現地のクラブチームに入った時にチームメイトから「毎日そのシューズで来るの?」って言われて、彼らからしたらレーシングシューズだけで走るのかっていう感じだったんでしょうね。

南井:今でいうとデイリートレーナーみたいなシューズは履かないのかって思ったんでしょうね。

藤原:そこで地元のシューズショップに行って、南井さんのようなそのお店の重鎮が出てきて、シューズのアドバイスをされたんです。

岡田:今、藤原さんがやっているようなことをされたんですね。

藤原:そんな感じですね。実際、その人から4足くらい買って使っていました。そこで「これは日本の考え方はダメなんだな」と思って、それを伝えたいと思うようになりました。

岡田:日本に帰ってきてからはいろいろなメーカーで仕事をされてきましたよね。

藤原:ナイキ、アシックス、ニューバランスで勤務してきましたね。

シューズスペシャリスト同士の出会い

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(左から)スポーツMC・岡田拓海さん、シューズアドバイザー・藤原岳久さん、Runners Plus編集長・南井正弘さん

岡田:お2人が知り合ったきっかけは何だったんですか。

藤原:確か南井さんに声をかけて頂いたんですよね。

南井:藤原さんのことはYoutubeやRuntripとかで知ってはいたんですけど、メーカー勤務経験ありということで「絶対話合うだろうな」と思っていましたね。メーカー経験がない人だと、モノの話になった時にちょっと噛み合わない時もあるんですよね。そこで何かの展示会の時に声をかけました。

岡田:それって結構最近の話ですか。

藤原:結構最近ですよね。

南井:2年前くらいだったかな。

藤原:もちろん僕はずっと知っていましたし、昔の南井少年のように僕も南井さんが作った本を読んでましたから(笑)。

岡田:南井さんは藤原さんに会ったときの印象は覚えてますか。

南井:自動車で例えると藤原さんはF1を運転するレビューができる人、自分はそういうのは無理だけど逆に車のスペックとかそういうことは詳しいから、シューズの話でもお互いに棲み分けができるんじゃないかなって感じていましたね。

岡田:なるほど。それは分かりやすいですね(笑)。

南井:だって50歳超えて、2時間30分台って普通いないですよ。

履いたシューズは合わせて2000以上!印象に残るシューズ3選

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(左から)スポーツMC・岡田拓海さん、シューズアドバイザー・藤原岳久さん、Runners Plus編集長・南井正弘さん

岡田:いろいろな経験をされてきましたが、実際にどれくらいのランニングシューズを履かれてきたんですか。

南井:自分の場合はパフォーマンスだけじゃなくて、普段履きのスニーカーも好きなので、それを合わせると1500足くらいじゃないかなと思います。ランニングシューズは1,000足前後ですかね。

藤原:僕は500~600足くらいは持っているのかな。持っているシューズの足数に関してはだいぶ誇れると思いますね(笑)

岡田:持っているだけでそんなにあるんですか?

藤原:だって捨てられないですからね。

岡田:ちなみに保管はどうしてるんですか。

南井:トランクルームを何か所も借りているんで。あとは実家においてあったりですね。

岡田:どこに何が保管されているかも分かるんですか。

南井:記憶と感覚で、「この時のシューズはここかな」っていうくらいでは覚えてますね。

藤原:自分はなんとか自宅と店舗で収まっていますけど、トランクルームっていうのは良いですね。

岡田:それだけの数のシューズを履いてきたお2人に、歴代ランニングシューズの中で印象に残ったモデルをお伺いしたいと思います。まずは南井さん、お願いします。

南井:リーボックで働いていた当時、その頃のシューズはほとんどがアジアで作られていたんですけど、ランニングシューズの一部はイギリス・ボルトンで作られていたんですね。その中の1つでリーボックの『London』というシューズです。1985年に登場し、昔ながらのミシンを使って手作業で作られたシューズです。

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岡田:結構クラシックなデザインですよね。

南井:これをスティーブ・ジョーンズという選手が履いて、シカゴマラソンで好記録を出したりしていました。

藤原:2時間8分前半とかでしたよね。

南井:2時間8分5秒ですね。さすが藤原さん(笑)。

岡田:良く覚えてますね。いや、すごいです

藤原:マラソンオタクだったから(笑)。

岡田:そんなタイムで走れちゃうシューズだということですね。今でいえばこれもソールが薄い感じですよね。

南井:これでも当時は厚いって言われてたんですよ。それと同じ時期に出た『Paris』というモデㇽもあって、これはロンドンマラソンでスティーブ・ジョーンズが履いて、2時間8分16秒で走っています。クラシックな作りで自分も履いてみたことがあるんですけど、「なんで早く走れるんだろう」って不思議だったんですよね。それを営業トークでも使ってたんですよね。

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岡田:今お店に並んでたら、スニーカーだと思っちゃいますよね。

藤原:日本だと薄底が普通だったんですけど、レースの時にもクッションという発想ですよね。

南井:体格の問題もあって、日本のマラソンランナーには合わないって思われてましたね。

岡田:他にはどんなシューズがありますか。

南井:あとは『インスタポンプフューリー』ですね。1994年に登場したんですけど、サンプルが届いたときに自分は「何これ!すごい」って思ったんですけど、周りからはランニングシューズではないと否定されましたね。でも、今でも街でこのモデルをベースとしたシューズを履いている人がいるってすごいですよね。正直ここまで続くとは思わなかったです。

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岡田:これだけロングセラーってすごいですよね。南井さんが紹介してくれたモデルは自分が関わってきた中でも忘れられない3足という感じがしますよね。

南井:そうですね。自分が走って良いなっていうよりも、心に残る思い出のシューズだなと思いますね。

岡田:これはほんと凄いですね。1,500足の内の3足ですからね。それでは次に藤原さんお願いします。

藤原:まずはこれですね。まさに当時の日本のシューズはこれっていうモデルで、ハリマヤの『KANAGURI NOVA』です。金栗四三さんが初めてストックホルムオリンピックに足袋で出てから、試行錯誤をして1980年代に作られたモデルです。

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岡田:本当にソールが薄いですね。

藤原:重さも145gくらいしかなくて、当時の日本ではより地面に近い接地感が重視されていましたね。

岡田:先ほど南井さんが出してくれた世界のシューズとは全く違いますね。

藤原:ランニングの文化が違ったんでしょうね。高橋尚子さんら日本人メダリストたちも当時はこっち路線でしたよね。より薄くという感じで。

岡田:ここから日本のランニングシューズが始まったということですね。それを藤原さんが持っているっていうのもすごいです。

藤原:いや、でもシューレースもこだわりあるし、今見ても良い作りをしているシューズだなって思いますよ。

岡田:お次に紹介するシューズは何でしょうか。

藤原:アトレイユという新しいブランドのシューズです。

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岡田:これも軽いシューズですね。

藤原:最初にサブスクリプション形式でシューズを販売し始めた斬新なブランドですね。

岡田:今はアメリカでしか買えないということですけど、これを数ある中からピックアップした理由はなんでしょうか。

藤原:創業者がミニマル系のシューズが好きみたいで、シューズに余計な機能をつけず、裸足感覚のナチュラル系のシューズで、普段履きとか短い時間のトレーニングとかに面白いシューズです。

岡田:これも特徴的ですね。そして最後はなんでしょうか。

藤原:スケッチャーズですね。

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岡田:このカラーはすごいですね。めちゃめちゃ格好良くないですか。

藤原:形は『ゴーラン レイザー 3 ハイパー』ですけど、それのプロトタイプのような感じだったんですが、その後このまま発売したんですよね。

岡田:これは買えないんですか。

藤原:このカラーは日本では発売してないですね。ただスケッチャーズもこれからもう少し知名度も上がっていくかなと思いますけど。

南井:スケッチャーズは走行性能は高いですよね。カジュアルシューズのイメージに引っ張られちゃうけど、ランニングシューズも良いものを作っていると思います。

岡田:お二人の特徴って、シューズコレクターとは違って、実際に履いていますから説得力ありますよね。今履いているシューズとは別物になっていますが、こういったところから進化が始まっているんだなと感じます。

藤原:圧倒的に技術が進化してシューズが作られているけど、ランナーが自分で履き心地を感じられる部分も残しているというのはありますね。最新鋭の技術だけど、決してただの乗り物にはならないという所に魅力を感じますね。ランナーや歩く人が履いて初めて機能を発揮するものですから。

岡田:最後は人間が使うものということですね。

南井:どんなに良いシューズでも最終仕上げは履く人間ですからね。

ランニングシューズの今後

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(左から)シューズアドバイザー・藤原岳久さん、Runners Plus編集長・南井正弘さん

岡田:ランニングシューズがかなり進化してきているというお話もありましたけど、これからのランニングシューズはどう進化していくのか興味があります。実際に昔からシューズに関わっていて、今のカーボンプレート入りの厚底シューズなんて想像できましたか。

南井:それは想像してなかったですね。シューズって10年くらいで結構大きく変わったりするんですけど、今思い出しても10年前ってサポートタイプが全盛で、売れていたのってアシックスの『GTシリーズ』とか『KAYANO』だったのが、今はニュートラルタイプが人気になっていて、今年発売された『GEL-NIMBUS 25』なんてすごい良いシューズだと思います。ただ過去のNIMBUSの面影はないですよね。それくらい大きく変わっているなと思います。

あとはナイキの『ペガサス40』なんかもソールユニットは変わっていないけど、組み合わせるアッパーを変えるだけで、こんなに変わるのかっていう感じがありますよね。

岡田:ちなみにペガサスは40代を数えるシューズですが、どの代から履いているんですか。

南井:ほぼ履いてますね。25のゴアテックスとかは東南アジアに行くときは必ず持って行くみたいなシューズもありますよ。

岡田:ランニングシューズの進歩はここ数十年で格段に上がって、想像できないところまできたという感じですね。

藤原:今後はパーツごとにオーダーできる仕組みになると良いですよね。全部カスタムは大変だけど、例えば岡田さんがスポーツ店に行ってサイズを計って、「このデイリートレーナーモデルで、アッパーはニットにしてください」みたいなことができれば面白いですね。

岡田:セミオーダーみたいなことができる時代が来ると?

藤原:そんな時代が来るのかなって思っています。

岡田:ミッドソールなどの進化はそろそろ終わりかなって感じはありますか。

藤原:まだまだですね。

南井:まだまだ進化は続くので、マラソンの記録も更新されていくのかなって思いますね。

藤原:分子レベルで最強の素材と言われているPebaxなどが、もうちょっと一般的になればシューズも変わっていくと思いますね。

南井:2017年の『ヴェイパーフライ』だって、Zoom Xフォームも160kmくらいで寿命になると言われていたけど、今のモデルは全然そんなことなく走行距離も伸びていますからね。

岡田:これからの未来もまだまだ進化するということですね。今後も楽しみです。今日はありがとうございました。

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シューズスペシャリストたちによるランニングシューズを語る対談。2人が長年見てきたランニングシューズの変遷やシューズに懸ける情熱が垣間見えたインタビューでした。こちらの対談はRuntrip Channelの動画でも前後編に分けて配信しています。ぜひ、ご覧ください!

■前編はこちら

■後編はこちら


南井 正弘さん
フリーライター・Runners Pulse編集長
シューズブランド会社に10年間勤務した後、雑誌やインターネットでフリーライターとして活動。『Runners Pulse』で編集長も務める。
・Twitter:https://twitter.com/markminai
・Instagram:https://instagram.com/markminai
・Runners Pulse:https://runnerspulse.jp/mminai/

藤原 岳久さん
FS☆RUNNING(旧藤原商会)代表
ランニングシューズフィッティングアドバイザー
日本フットウエア技術協会理事 /JAFTスポーツシューフィッター / 元メーカー直営店店長,販売歴20年以上
ハーフマラソン:1時間9分52秒(1993)
フルマラソン:2時間34分28秒(2018年別府大分毎日マラソン)

FS☆RUNNINGオフィシャルサイト

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