睡眠でランをより楽しく! アスリート研究から学ぶ睡眠とランニングの関係

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梅雨明けと共に、寝苦しくなる熱帯夜の時期がやってきますね。

『睡眠負債』というワードで話題となった『睡眠』。睡眠にまつわる様々な著書・情報がありますが、ランナーと睡眠にはどのような関係性があるのでしょうか。

海外で大会に臨むトップアスリートの中には宿泊先に専用の寝具を持っていく人もおり、睡眠にこだわりを持つ選手は増えてきています。背景には、ここ数年で睡眠に関する論文が急増¹⁾していることもあるようです。スポーツをしている私たち市民ランナーにも活かせるヒントがあるかもしれません。 “市民ランナーにとっての睡眠とは?” と題して、ランニングと睡眠の関わりについて考えていきたいと思います。

睡眠は疲労回復に最も効果的

アスリートは、毎日のハードなトレーニングにより、かなりの疲労が溜まります。パフォーマンスを上げるにはトレーニングの質・量を高めることが第一ですが、疲労の蓄積による怪我や体調不良で結果に結びつけられないことも、しばしば。トレーニングで溜まった疲労を回復させるには、睡眠が最も効果的であるとされています²⁾。

怪我の防止に

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パフォーマンスの向上には、日頃の『トレーニングの積み重ね』が必要。そのためにも『怪我をしない』で継続していくことが最も大切です。怪我の要因になることは様々。

■フォーム・メニューなどの走り方
■必要なエネルギー・栄養素の不足
■筋疲労を抜くためのケア不足

などの要因が複雑に絡み合い、怪我に繋がります。

アスリートは睡眠時間が長いほど、怪我のリスクが減ります³⁾。技術面・食環境など周りのサポートが充実していたとしても、睡眠はプライベートの範囲になるために個人の裁量に大きく委ねられます。帰宅後にダラダラ過ごして睡眠時間が短くなってしまうのか、十分な睡眠をとるのか。この違いが怪我のリスクと結びついていると考えられます。

良質な睡眠が成長に

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睡眠は時間だけでなく、『質』を意識することも大切です。

睡眠中に多く分泌される成長ホルモンは、睡眠時の前半のノンレム睡眠(深い睡眠)の間に多く分泌されます⁴⁾。成長ホルモンはトレーニングで傷ついた筋肉や細胞の修復、また肌などの新陳代謝に欠かせないホルモンです。質の良い睡眠がとれると1日に分泌される成長ホルモンの80%近くがノンレム睡眠中に分泌される⁵⁾ため、睡眠と疲労回復の関連の強さがわかります。

『短眠でもいける』は危険サイン?

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「それなら、質の良い睡眠だけとっていればOKでしょう 」という訳ではないようです。

3時間睡眠など短眠が可能な方(いわゆる、ショートスリーパー)は、遺伝的なものともされています。そうでない方が “習慣的な睡眠不足” に陥ってしまうと摂食障害や集中力・パフォーマンスの低下などのリスクがあります。習慣的な睡眠不足は眠気などの自覚がなく⁶⁾、「眠気がないから、自分は大丈夫」とはいえません。

仕事や家事などでランニングをする時間の余裕がない中、 “寝る間も惜しんで走る” ことは現実的ではなさそうです。自分は大丈夫だと過信はせず、まずは推奨される睡眠時間を優先的に確保し、省いたり時短したりできる生活習慣を見直していくことが先決でしょう。

7~8時間睡眠が安全域

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年齢によって推奨時間は異なりますが、一般的な成人に必要な睡眠時間は7~9時間とされています⁷⁾。

また、厚生労働省が発表する資料では、日本人の平均的な睡眠時間や個人差を考慮して6~8時間が必要だと記しています⁸⁾。

先ほども『アスリートは睡眠時間が長いほど、怪我のリスクが減る³⁾』と記しましたが、研究では6時間睡眠が最も怪我のリスクが高く、9時間睡眠が最もリスクが低い結果となりました。

市民ランナーでは、アスリートほどのランニング量になることは稀なので、7~8時間睡眠が安全範囲といえるでしょう。アスリートに必要な9時間もの睡眠時間は、普段の生活では必要ないかもしれません。ただ、特に頑張って走った練習・大会の後で疲労が大きい時には、その日だけは睡眠時間を長くとる方がよいと思います。筆者の経験からも負荷の強いトレーニングをした日から2日後までは疲労感が強く、睡眠時間が長くなる傾向にあります。その時々のランニング内容、疲労の蓄積状態に応じて睡眠時間を増やすと、より効果的に疲労回復できるかもしれません。

寝る前のランと入浴は?

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もう少し、生活の中での細かな睡眠シーンについて考えてみたいと思います。

市民ランナーであれば、平日にランニングをする時間は、仕事が終わった後の夜間が多いのではないでしょうか。ふと、「夜遅く走ると、睡眠への影響はどうなのか 」と、気になることはありませんか。

寝る前の行動の多くは、睡眠の質に直接影響します。負荷の大きいランニングは交感神経の興奮や過度な体温上昇をもたらすため、睡眠の質にマイナスの影響を与えます。どうしても夜遅い時間にしかトレーニングできない場合は、トレーニングと睡眠時間までの間をなるべく確保するようにスケジュールを組みながら、クールダウンやストレッチ、落ち着いた食事でリラックスするとよいでしょう。

ランニングが全て睡眠に悪いというわけではなく、会話ができるほどのジョギングのスピードであれば深い睡眠を増やすこともできる⁹⁾ため、仕事の時間に応じて「今日はジョギングにして、早く仕事が終わりそうな明日にトレーニングしよう! 」と臨機応変に調整すれば問題ないでしょう。いずれにしても、走ってから体が落ち着くまでの時間をとってから寝るようにしましょう。

体を温める入浴も睡眠の質に関わる大切な習慣の1つです。就寝3時間前の入浴で体を温めることで、寝つきが良くなり、さらに疲労回復が促されるノンレム睡眠を増やせるようになります¹⁰⁾。入浴時間はあくまでも目安であり、お風呂の温度やシャワー浴、また体型によってもベストな入浴時間が変わります。色々なシーンで試しながら、入浴後に眠気を感じられるよう自分のベストな入浴・就寝時間を見つけましょう。

ブレない習慣化が良い結果に

生活の中で『睡眠は譲れない』と高い優先順位を保ちながら、時間や質を確保するべきものだと思います。遺伝的に短眠で過ごせる方もいれば、仕事の疲れも相まって推奨時間を確保しないと疲労回復が間に合わない方もいると思います。負荷をコントロールしたランニング、体温を上げる入浴。睡眠に良いアクションが疲労回復と成長を促し、長期的なパフォーマンス向上につながります。健康面でも体重管理でもメリットがあります。

ランニングフォームや仕事の目標と同じように、睡眠も自分の “ブレない” 軸を持ってランニングライフを楽しみましょう!

参考文献

¹⁾ 西多正規(2019)「アスリートにおける睡眠の重要性」,『臨床スポーツ医学』36(7),pp716-718,文光堂
²⁾ Juliff, Laura E., Shona L. Halson, and Jeremiah J. Peiffer. “Understanding sleep disturbance in athletes prior to important competitions.” Journal of Science and Medicine in Sport 18.1 (2015): 13-18.
³⁾ Milewski, Matthew D., et al. “Chronic lack of sleep is associated with increased sports injuries in adolescent athletes.” Journal of Pediatric Orthopaedics 34.2 (2014): 129-133.
⁴⁾ Broussard, Josiane L., et al. “Sleep restriction increases free fatty acids in healthy men.” Diabetologia 58.4 (2015): 791-798.
⁵⁾ Van Cauter, E. and E. Tasali, Endocrine physiology in relation to sleep and sleep disturbances. Second ed. Principles and Practices of Sleep Medicine, ed. M.H. Kryger, T. Roth, and W.C. Dement. 2011,Missouri: Elsevier Saunders. 291-322.
⁶⁾ Van Dongen, Hans, et al. “The cumulative cost of additional wakefulness: dose-response effects on neurobehavioral functions and sleep physiology from chronic sleep restriction and total sleep deprivation.” Sleep 26.2 (2003): 117-126.
⁷⁾ Hirshkowitz, Max, et al. “National Sleep Foundation’s sleep time duration recommendations: methodology and results summary.” Sleep health 1.1 (2015): 40-43.
⁸⁾ 厚生労働省健康局編,(2014)『 健康づくりのための睡眠指針 2014』,  厚生労働省健康局.
⁹⁾  Yoshida H, et al. “Effects of the timing of exercise on the night sleep.”Psychiatry Clin Neurosci (1998) Apr:52(2):139-40.
¹⁰⁾ Kobayashi T,et al : Effects of a Hot Bath on the Sleep Onset Process. 人間-生活環境系シンポジウム報告集, ICHES’05 in Tokyo,12,2005

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