常識的な目標設定がサブ2を困難にしていた? スポーツ選手は「思い込み」で自己ベストを2%向上することも
May 01, 2017 / HOW TO
Apr 26, 2019 Updated
人類の夢でもある「フルマラソン2時間切り」。
人類やテクノロジーの進化により、フルマラソンの記録は徐々に縮まってはいますが、未だ人類の大きな壁となっているのが、この2時間という数字。
アディダスやナイキといったブランドが、この2時間切り(サブ2)に本腰を入れ始めたのは記憶に新しいところ。そのために専用のシューズやウエアを発表。また、通常のコースではなくF1コースを採用することから、本気でサブ2を狙っていることがうかがえます。人間はサブ2が可能なのか、その結果が楽しみなところですね。
さて、なぜ、ここまでサブ2が達成されてこなかったのでしょうか。その理由の一つに、ランナーからすると「サブ2を狙う必要がなかった」という点が考えられはしないでしょうか。
世界のトップランナーがまず目指すべきは、世界最高記録。それが難しくても国内記録や自己記録となります。それらを1秒でも更新できると記録保持者になるので、サブ2なんて無茶なタイムよりも、それらを第一優先に考えます。そのためには体をどう使うか、よく考えながら走るのです。レーススタート時からサブ2を狙ってレースに挑むトップランナーは、いないに等しいかと思います。
しかし、この常識的な目標設定が、人間の本来もつ能力の発揮の妨げになっていたら……。
イングランド北東のノーサンブリア大学のケヴィン・トマス博士が行なった実験が大変興味深いです。書籍『2時間で走る フルマラソンの歴史と「サブ2」への挑戦』で紹介されています。
2011年、自転車競技に熱中するサイクリストを集めた実験が行われました。被験者たちはエクササイズ・バイクに乗ります。目の前にはスクリーンが設置。そこにはアバターが登場します。そのアバターとは、サイクリストの自己ベストで走るという設定担っています。被験者は事前に、同じエクササイズ・バイクで4000メートルのタイム・トライアルの自己ベストを測定。その際の自己ベストと同じペースで走るアバターとの競争です。
と、少なくとも被験者はそう思っていました。実はトマス博士が試したかったのは、スポーツ選手に偽の情報でだますことで、彼らはパフォーマンスを向上させれるかどうかの実験。これはなんだか面白そうな実験ですね。
自己ベストの設定がされているアバターでしたが、実は、各被験者の自己ベストを「2パーセント上回る設定」にされていたのです。
「たとえ世界レベルの選手であろうと、自分のエネルギーを極限まで出し切っていると思っていても、まだ二パーセントほどの“余力”があり、しかるべき動機を与えれば(あるいはちょっとした詐欺を働けば)それを引き出せる」というのがトマス博士の考えだったのです。
では、実際に被験者はどのような結果を出したのでしょうか。気になるところですよね。
驚くべきことに、被験者のほぼ全員がアバターよりも先にゴールしたのです。事前に行ったタイム・トライアルでは皆、精一杯に自転車を漕いで自己ベストを出しました。しかし、その100パーセントのパフォーマンスは、実際には違ったのです。
「肉体には限界が複数ある。アスリートの脳は、消耗の度合いを加減することと、最高の成績を出すことのはざまでずっと綱渡りをしながら、生き残りゲームをしている。だから、二秒縮めれば世界記録を更新できるのに、二分も縮めようとするはずがないのではないか?」(同書より)
これは大変興味深い実験ですね。今回のように、すんなり自己ベストを更新し、思い込み次第ではサブ2がすぐに達成するとは限りませんが、一般ランナーなら、この思い込み作戦で、見事な記録を達成できるかもしれませんね。試して見ませんか?