「やるだけやったるでぇ〜っ」100kmの世界記録保持者、砂田貴裕さんが語る

フルマラソンに挑戦したランナーが、次なる目標として見据える競技の一つにウルトラマラソンがあります。そのウルトラマラソンにおいて100kmの世界記録を現在も保持しているのが砂田貴裕さんです。砂田さんの現役時代は、世界記録樹立だけでなく、ウルトラマラソンを始めてからフルマラソンのベストを更新したように、何事にもコツコツと継続性を持って積み上げていくことの重要性が凝縮されています。

ウルトラマラソンもそのコツコツと積み上げることの典型ともいえそうですが、「もともとは、故障からのリハビリではじめたのがウルトラマラソンやった」と砂田さんは当時を振り返ります。現在は、ランニングの普及活動に務める傍ら、IAU 100km世界選手権の日本ナショナルチームのコーチやWings for Life World Run公式アンバサダーとしても活躍中の砂田さんのインタビューをお届けします。

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2015年9月・第28回IAU 100km世界選手権で日本ナショナルチームのコーチとして帯同した砂田さん

いつも弱気。でも先頭でゴールしていた

–砂田さんといえば、関西人で気さくなキャラクターですね。若い頃はどんなランナーやったんですか?

大阪の寝屋川市で育ったんやけども、中学のときはあんま走るの速くなかったからね〜。淀川の河川敷で走りたかったんやけど、学校の中ばっか走ってたからね〜。高校は大阪の太成高校で走っていたんやけど、先輩には男子走幅跳の日本記録 (8m25cm)保持者の森長正樹さんがいたりして。そんな大先輩に比べたら自分はホンマに大したいことない選手やって。。ほんで、高校卒業してからは大阪ガスに入って。夜19時まで働いてから練習。ホンマにたくさん働いた。合宿は年2回。普通の市民ランナーでしたわ。自分はスピードが無かったと思ってたし、「記録よりも記憶に残る選手になろう」思って、マラソンをやり始めたんやけど….

マラソン出たいっていうても、当時は簡単にいかへんかった。。当時、有森裕子さんが活躍していたときで、僕のいた会社の人は「有森さんより速く走れるんか??」って言うてて。要するに、「マラソン出て全然ダメやったらアカンぞ」って。猛練習しか無かったですね。で、レースでも最初からどんどん飛ばしていくスタイルやね。そうやって、厳しい状況下でも這い上がっていく負けん気と、練習の継続で、19歳で走った2回目のマラソンで2時間15分30秒のジュニア日本記録を出したんやけどね。

–それから砂田さんは1995年に積水化学工業に移籍され、そこからは素晴らしい成績でしたね。

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1995年・アテネで行われた第6回ワールドカップマラソンで準優勝。

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いや〜、いつも“もう、やるしかない”、って追い込まれた気持ちやったねぇ。アテネでのワールドカップマラソンで準優勝した後に、福岡国際マラソンに出て10位。でも、今振り返れば自分はいつも弱気やったなぁ〜。。スタートライン立つ時なんかいつもそうやった。周りの選手が自分よりも強く見えた。。翌年の1996年で世界クロスカントリー選手権に出た時なんか、スタートラインに各国の代表選手が集まって来て、バァーって一気にスタートする。マラソンやったらそんなに最初速くならへんけど、最初からメッチャ速い。開催された場所も南アフリカで、ホンマに慣れへん環境やったし、今やから言えるけど完全にビビってたわ。笑

–アフリカ勢はメッチャ速いですもんね。。ところで、ウルトラマラソンに挑戦するキッカケはどんな事やったんですか?

1997年に大きな怪我をして手術をしたんやけど、スピードがなかなか戻らんくてなぁ。。それやったらスタミナ強化。ウルトラマラソンでやるだけやったるでぇ〜ってことで、矛先を変えて。でも周りの人は当時、ほとんど反対してた。「お前は絶対無理やで〜。」とか、そもそも当時そんなにまだ、ウルトラマラソンも日本でメジャーやなかったからねぇ。「なんでそんなことやるん??」ぐらいの反応やったのを今でも覚えてる。ほんで、1998年のサロマ湖100kmウルトラマラソン。目標は6時間30分ぐらいやったけど、とばしていったで〜。ほんだら、6 時間13分33秒の世界最高記録で勝ってもうた。でも、スタートラインに立ったときは相変わらず弱気やったなぁ。でも、レースを進めていくうちに気付いたら周りが落ちていって、先頭でゴールしていたんよ。。

–いうてもムッチャ速いですやん。。他の選手も砂田さんに勝てる訳ないですやん。。

そうやね。笑 ほんで、同じ時期に同じ会社で同世代のQちゃん (高橋尚子)がアジア大会でアジア最高記録で優勝したりしてて、あぁ俺もやったらなアカンなぁ〜って思って。翌年の1999年のIAU 100km世界選手権で5時間台目指して、ブッ飛ばしていったら、ヘロヘロになってもうて。。50kmを2時間50分台のペースで入って、60kmから歩いてもうて。。。ほんで最終的には6時間26分もかかってもうた。いい経験やったけどね。今はそういう選手が殆どおらへんからね〜。

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2000年・フランスで行われたIAUヨーロッパ大会 (100km)で優勝。

2000年にはIAUヨーロッパ大会で優勝する事も出来たし、ウルトラマラソンを始めた事によってマラソンのベストも同じく2000年のベルリンマラソンで更新できた。スピードが戻らへんくてウルトラマラソンを始めたんやけど、それによってマラソンも速くなったし、海外のレースにも適応できて、結果的にベルリンマラソンで自己記録を残せた訳なんよ。レース前は何故か、いつも弱気やったけど、走るのが好きやったから、前だけを見てずっと走れてたんとちゃうんかな。

70kmと100kmは違う

–砂田さんはWings for Life World Runの公式アンバサダーです。この大会はどんな大会やと思いますか。

そうやね〜。キャッチャーカーが後ろから迫ってくるっていうユニークなルールやね。僕の100kmの世界記録のペースが基準となって、キャッチャーカーが追いかけてくるんやけど、楽しいイベントやね。参加するランナーも普段とは違う雰囲気やしエエんちゃうかな。でも、一つ言えるのは、去年と今年の男子の日本チャンピオンが67kmと75kmを走ったやん。彼らはフルマラソンはそこそこ速いんやわ。その後、彼らが100kmに挑戦したんやけど、あまり結果がついてこなくてね。このWings for Life World Runを、6月のサロマ100kmのリハーサルっていう人もいるかもしれんけど、70kmと100kmのレースはやっぱ全然違うっていうのは自分が走って事からも感じるなぁ。

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–70kmと100km。30kmの差やけど、全然ちゃうということですね。

そうやね〜。100kmでも最近は、100kmの世界選手権に出ることが目標になっている選手ばっかりで、それでは世界では勝負にならへんから、そのあたり骨っぽい選手が出て来て欲しいんやけどなぁ。。70kmのレースはフルマラソンでも強い人がそのまま実力通りに発揮できるかもしれんけど、100kmはメンタルを含めて”冷静に自分を保てる人”が勝負出来るんとちゃうかな。あと、日本の主要マラソン大会が冬に集中してるから、その時期にあえて、日本でウルトラマラソンの大きな大会があってもいいなぁとは思うなぁ。

いずれにせよ、100kmで世界を目指す選手には、いけるところまでいってほしいし、どんどん上を目指して欲しいね。僕の時なんか、世界大会でも専属のトレーナーとかおらへんかったもん。今はシューズや体に入れるものや付けるものでも何でもそうやけど、走る為の環境は整ってんねんなぁ、やけど、それでもなかなか骨っぽい選手がおらん。僕を越える選手がどんどん出て来て欲しいなぁと思ってるんやけどなぁ。。

息子には好きにやらしてます

–砂田さんの息子である砂田晟弥 (せいや)君が、2016年の第43回全日本中学校陸上競技選手権大会の男子400mで見事優勝。ランキング3位からの優勝お見事でした。

そうやね〜。ありがとう〜。もともと1年生の時は1500mをやってたんやけど、兵庫の中学はレベルが高いから、勝てへんくてなぁ。。ほんで、2年から400mと800mを専門にやってるんやけど、今回上手くいったね〜。まさか、勝つとは思ってなかったけど、よぉ頑張ったんちゃうかなぁー。初めて見にいった息子の試合が全国大会で、勝ってしまうんやから大したもんやね〜。

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第43回全日本中学校陸上競技選手権大会・男子400m決勝 (動画)の最終コーナー。ゼッケン2832の砂田晟弥君が優勝。

–種目は違えど、やはり偉大な父としてアドバイスされるんですか。

種目もそうやけど、息子には好きにやらせてるなぁ〜。昔1500mをやっていたこともあって、400mでも後半のカミソリスパートが凄いんやけどね。。「高校に入ってからはもっと距離を伸ばしたほうがええんとちゃうか〜」って僕の周りはアドバイスくれはるけど、本人の好きなようにのびのびやって欲しいと思ってるね。

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今流行りの【モボット】ポーズ。【モボット】はリオオリンピック2冠のモハメド・ファラー選手の御馴染みのポーズ。

息子の走りはまだまだ伸びしろがあるから、親バカかもしれへんけど頑張って欲しいね。これは市民ランナーの人達にも当て嵌まる事やけど、トップ選手のランニングフォームを研究したり真似する事があると思うけど、それはその人が磨いて来て身につけたフォームであって、それは簡単に習得できひんと思う。モハメド・ファラーのランニングフォームを日本人の体型や骨格で真似出来るか??それやったら、自分の体の特徴、体の使い方、自分のランニングフォームにおける長所と短所を分析したうえで、自分に合ったフォームを見つけたり、試行錯誤してその人のベストなフォームを確立することが重要やと思うね。

–砂田さんが言うから深いですね。

キレイに走らなアカン。でもキレイなフォームの基準はみんな別々。だからオモシロいんやけどなぁ〜。現在も、イベント等で市民ランナーの皆様と接する機会がありますんで、これからも皆さんどうぞ宜しくお願い致しますね。

プロフィール

「「やるだけやったるでぇ〜っ」100kmの世界記録保持者、砂田貴裕さんが語る」の画像 砂田 貴裕 (すなだ たかひろ)
1973年1月19日生まれ、大阪府出身。ウルトラマラソン (100km)世界記録保持者。Wings for Life World Run公式アンバサダー。太成高等学校卒業後、大阪ガスに入社。1992年、防府読売マラソンで2時間15分30秒のジュニア日本記録を記録。姫路市陸協所属を経て、1995年に積水化学工業に移籍。同年、アテネで行われたワールドカップマラソンで準優勝。1998年、サロマ湖100キロウルトラマラソンで6 時間13分33秒の世界最高記録で優勝。2000年、フランスで開催されたIAUヨーロッパ大会 (100km)で優勝。同年、ベルリンマラソンで自己ベストの2時間10分08秒で4位。現在は、自らも走りながらランニングの普及活動に努める傍ら、IAU 100km世界選手権の日本ナショナルチームのコーチとしても活躍中。好きなすしネタは“タマゴ”。
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