9.15に仮想五輪のMGC「男子はゴール地点での直線勝負になる可能性も」立教大・上野裕一郎監督
Sep 12, 2019 / MOTIVATION
Sep 12, 2019 Updated
2019年9月15日(日)、東京オリンピックのマラソン日本代表を決める『マラソングランドチャンピオンシップ』(以下“MGC”)が東京で開催される。
これまで、オリンピックや世界選手権においてのマラソン日本代表の選考は、いくつかの対象レースでの成績を総合的にみて行われていたが、自国開催のオリンピックに向けてまず3枠のうちの2枠を決める初の試みが行われる。MGCでの注目選手と見どころを、立教大駅伝監督の上野裕一郎氏(ベルリン世界選手権男子5000m日本代表)に訊いた。
後編では、男子レースの注目選手やMGCの楽しみ方などにスポットを当てる。
男子レースの注目選手
以下がMGCの男子レースに出場する31名の選手と自己記録である。
【上野監督が注目する5選手】
佐藤悠基(日清食品グループ)
マラソン経験9回(サブテン2回)
自己記録 2:08:58(2018年東京マラソン:10位)
佐藤は、中学から社会人まで常にトップレベルで優秀な成績を収めてきた。トラックレースでは2011~14年の日本選手権10000mで4連覇し、2011年と2013年の世界選手権、2012年のロンドンオリンピックに出場。初マラソンは2013年で、7回目のマラソン(2018年東京)で初サブテン、8回目のマラソン(2018年ベルリン)もサブテンと徐々にマラソンに適応。今年は5月と7月のハーフで好走し、調子を上げてきている。
(上野監督)
「佐藤選手は世界選手権やオリンピックに出場していますし、日本選手権など大きなレースで結果を残してきました。マラソンではペーサーがいる高速レースで実力を発揮できていませんが、彼自身の能力は高いです。徐々にマラソンに適応してきていますし、スピードも10000mの持久力もあります。経験豊富で勝負強いので、無理をせず落ち着いて確実に2位以内を狙ってくるでしょう」
井上大仁(MHPS)
マラソン経験6回(優勝1回、サブテン2回)
自己記録 2:06:54(2018年東京マラソン:5位)
井上は2回目のマラソンで2:08:22の記録を出し、マラソン適性の高さを見せた。ロンドン世界選手権で日の丸を背負い(26位)、翌年もアジア競技大会で同じく日本代表として出場して優勝。日本男子32年ぶりの優勝となった。2019年は仮想MGCとして4月のボストンマラソンに出場。その後はトラックレースでスピードを磨き、夏は高地合宿でトレーニングを積んだ。
(上野監督)
「井上選手は自己記録も速く、アジア競技大会で優勝するなどマラソンの適性が高いです。今年はボストンマラソンの後の日本選手権5000mや、ホクレンディスタンスチャレンジ10000mでスピードを磨いています。MGCの勝負どころとなる最後の5kmや2kmに備えている印象です。ラスト勝負になれば、おもしろい選手だと思います。」
設楽悠太(Honda)
マラソン経験5回(優勝1回、2位1回、サブテン4回)
自己記録 2:06:11(2018年東京マラソン:2位)
設楽は、2015年北京世界選手権、2016年リオオリンピック10000m日本代表。初マラソン(2017年東京)でいきなりサブテンを出し、3回目のマラソン(2018年東京)で当時の日本記録(2:06:11)を樹立。東洋大時代から長い距離のロードに強く、これまでの5回のマラソンでサブテンを4回出すなど安定感がある。今年7月のゴールドコーストマラソンでは、2:07:50の大会新でマラソン初優勝を飾り、調子の良さをアピールした。
(上野監督)
「もしかしたら、終盤の勝負どころで最初にスパートするかもしれないですね。今年の日本選手権5000mでも、みんなが苦しい場面でスパートをするなど、仕掛けるタイミングを知っています。仮に設楽選手がMGCで終盤にスパートをして、負けたとしても2位、3位に入ることは十分に考えられるでしょう。レースに出つつ調子を上げていくタイプですが、今年はゴールドコーストで優勝するなど好調です」
大迫傑(Nike Oregon Project)
マラソン経験4回(3位3回、サブテン3回)
自己記録 2:05:50(=日本記録、2018年シカゴマラソン:3位)
大迫は10000mで日本選手権を2016年(5000mと2冠)、2017年と連覇。トラックレースでは2013年、2015年世界選手権、2016年リオオリンピックに出場。2017年の初マラソン(ボストン)では3位、同年の福岡国際は2:07:19で3位、2018年のシカゴは日本新記録の2:05:50で3位に入った。今年の東京は途中棄権だったが、7月のホクレンディスタンスチャレンジでは27:57.41で走り、地力の高さを見せた。
(上野監督)
「初マラソンでボストン3位、シカゴでも世界トップクラスの選手を相手に粘っていて強かったです。東京では雨に打たれて途中棄権となりましたが、暑かったボストンで好走しているので、暑いレースではパフォーマンスを落とさないのでしょう。MGCの男子は実力が拮抗していますが、彼の10000mの持久力が最後のスパートに活きるでしょう」
服部勇馬(トヨタ自動車)
マラソン経験4回(優勝1回、サブテン2回)
自己記録 2:07:27(2018年福岡国際マラソン:優勝)
服部は、東洋大時代に箱根駅伝のエース区間である2区で2回の区間賞を獲得し、30kmのロードレースで学生記録(1:28:52)を樹立するなど、高いロード適性を見せていた。2回目のマラソン(2017年東京)でサブテンを出し、4回目のマラソン(2018年福岡国際)では2:07:27の日本歴代8位でマラソン初優勝を果たした。
(上野監督)
「服部選手は東洋大時代から長い距離のロード適性がありましたが、社会人になってからはケガに苦しみつつもマラソンで結果を出した選手です。福岡国際では勝負どころの35~40kmを14:40で走ったことからも、彼は30km以降でも脚を溜めることができます。最後の12.195kmには本人も自信を持っているでしょう」
男子レースの見どころ
上野監督は現役時代に駅伝やトラックレースで、上記の日本トップレベルの選手たちと競り合ってきた。男子レースの見どころについて、よりリアルな競技者目線を持つ上野監督はこう話す。
「序盤はある程度牽制するでしょうが、下りでブレーキをかけると走りにくいので、そんなにペースが遅くなるということはないと思います。25〜30kmぐらいまではあまり大きな動きはないかもしれませんが、30kmぐらいから揺さぶりをかける選手がいるかもしれません」
そして、レース終盤を次のように予想する。
「30km前後で先頭集団に大きな動きがなければ、上り坂が始まる最後の5kmまでおそらく動きはないでしょう。ここからが踏ん張りどころですが、スパートの仕方が重要で、ギアを一気に上げて肉体的にも心理的にもダメージを与えるスパートが有効ですね。ゴール地点での直線勝負になる可能性もありますが、上りを終えた後にもアップダウンがある最後の2kmが正念場となるでしょう」
MGCの楽しみ方
2017年8月にMGCの開催が発表されてからこの2年間、男子マラソンの記録水準はそれまでよりも大幅に上がった。MGCという新しいオリンピック選考会について、上野監督はこのように感じている。
「MGCに出場するためにマラソンを1回、選手によっては2、3回、そしてMGCでもう1回。オリンピックまでに複数回マラソンを経験して選手がタフになりますし、その過程で良い記録が出ていることから、MGCの取り組みは成功しているといえます。選手は“仮想オリンピック”のMGCで、本番のコースを1回走れるのもメリットですね」
また、MGCの楽しみ方についてもこのように話した。
「これまでマラソン観戦に興味がなかった人でも、興味を持ってMGCの記事を見ることで、選手の顔と名前を覚えてレース観戦を楽しめます。現地観戦ならスタートとゴールで大会の熱気を感じたり、浅草、銀座など東京観光を兼ねて観戦するのもオススメです。もちろん、テレビで解説を聞きながらじっくり観るのもいいですね」
注目のMGCは、9月15日午前8時50分に男子のレースが、9時10分に女子のレースがスタートする。
上野 裕一郎(うえの ゆういちろう)1985年7月29日生まれ、長野県出身。立教大学陸上競技部男子駅伝監督。佐久長聖高 - 中央大 - エスビー食品 - DeNAにてトラック種目・駅伝で活躍。2009年日本選手権で1500mと5000mの2冠を達成し、同年のベルリン世界選手権の5000mに日本代表として出場。2018年11月末にDeNAを退団し、同年12月1日付で立教大学陸上競技部男子駅伝監督に就任。
(文 河原井 司)