息子のレースに帯同して感じた“アメリカらしい”ランニングカルチャー

そもそもクロスカントリーは地味なスポーツだ。フットボールや野球のようなメジャースポーツと違って、州大会だからと言っても、世間の注目を浴びることはあまりない。だが、今年は州大会に先立って、あるランナーをめぐるエピソードが一般紙でも報道された。クロスカントリーだけではなく、アメリカ人気質をよく表した話だと思えるので、ここで紹介したい。

カリフォルニア州に史上最悪の被害をもたらした山火事が最近発生したことはご存じだろうか。この記事を書いている11月27日時点で、88人の死亡者が報告され、なお数百人の行方が不明のままだ。17日間燃え続けた火事で150万エーカーが焼け、1万戸以上の家が燃え落ちた。

カリフォルニア北部にあるパラダイス高校のランナー、ガブリエル・プライス君の家もこの火事で全焼した。さらに不運なことに、プライス君と家族が持てるものだけを持ち出して家から避難した11月8日は地区最終予選の当日だった。

プライス君は今年高校の最終学年。昨年まで3年連続で州大会に出場し、今年もここまで地域で一番のタイムをもつランナーだが、予選欠場という形で高校の競技生活を終えることになるはずだった。

ところが、パラダイス高校のアスレチック・ディレクターからの嘆願を受け、州の高校スポーツ連盟(CIF)はプライス君に対して特別措置を取ることを即座に決定した。地区予選からわずか2日後 ―つまりプライス君の家が全焼した2日後なのだがー、プライス君が地区予選と全く同じコースでタイムトライアルを行い、予選通過タイムを破った場合にのみ、プライス君の州大会出場を認めるというのだ。

プライス君はこの措置に感謝しながらも、たった1人で時計だけを相手に走ることを覚悟していた。パラダイス高校のチームメイトも、多かれ少なかれ火事の被害を受けているのだ。100キロ以上離れた予選会場まで同行を頼めるような状況ではなかった。

ところが、両親に伴われ予選会場に着いたプライス君は、思いもかけずライバル校であるチコ高校の大勢のランナー達に迎えられた。この特別措置を耳にした彼らがプライス君と一緒に予選コースを走ることを申し出たのだ。彼らの中には、州大会に出場を決めた選手も逃した選手もいる。

こうしてプライス君はチコ高校ランナー達と一緒に予選コースを走り、見事に予選通過タイムを突破して、州大会の出場権を勝ち取った。さらに、チコ高校は家を失ったプライス君を自分達の合宿所へ招待した。大会までの2週間を一緒に練習しようというのだ。

ぼくはアメリカに約30年住んでいる。良い面も悪い面もたくさん見てはきたが、アメリカ人のこのような前例にとらわれない柔軟さとスポーツマンシップは大好きだ。

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