箱根駅伝「学連選抜チーム」の苦悩と葛藤、そして希望を描いた小説『チーム』

学生駅伝の代名詞、「箱根駅伝」。毎年お正月は、母校を応援したり、1位争いやシード争いに注目している方も多いかと思います。

そんな箱根駅伝において、1チームだけユニフォームがばらばらで、どの大学にも所属しないチームがあります。

その名は「学連選抜」。

箱根駅伝に出場できなかった大学から、それぞれ有力な選手を集めて出場しているチームです。しかし、この学連選抜に注目している方は非常に少ないのではないでしょうか。

箱根駅伝に母校で出られず、チームの仲間を置いて1人だけ箱根駅伝に出場する学連選抜の選手たち。彼らはどんな思いで、何のために走っているのか、そして学連選抜とはそもそも「チーム」と呼べるのか。今回は、注目されることが少なく謎に包まれてきた学連選抜チームを描いた小説、『チーム』(著:堂場瞬一)をご紹介しながら、駅伝というチームスポーツについて考えていきたいと思います。

苦悩と葛藤。学連選抜チームの始まり

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「駄目だった、届かなかった。」昭和記念公園で行われた箱根駅伝予選会で、城南大学主将の浦大地(うらだいち)は4年間の陸上生活が終わったことを知った。浦自身は全体で上位に入るほどの走りだったが、他のメンバーの力が及ばなかった。箱根連続出場記録は32回で途切れてしまった。放心状態で立ち尽くしていた浦に、予選会11位で箱根を逃した美浜大の吉池監督が声をかける。「これで終わりじゃない。俺と一緒に箱根へ行こう。」

学連選抜チームの始まりは、どの選手にとっても明るいものではありません。箱根に出られなかった悔しさ、一緒に練習に励んできた仲間を置いて、自分だけ箱根を走るへの葛藤。選手たちは何のために箱根を走るのか、ということを深く考えることになります。

主人公の浦も、母校の歴史に傷をつけてしまったことを悔やんでいる中で、学連選抜のメンバーに指名されます。一緒に苦楽を共にしたメンバーを置いて1人だけ箱根駅伝に出場すること、それは「裏切り」なのではないか。しかし、チームメンバーにとっては、浦が箱根駅伝を走ることは大学の「希望」でもありました。城南大学のユニフォームを着て箱根を走ってほしい、そんなメンバーの声を受けて、浦は学連選抜チームに加入します。

そもそもは、学連選抜チームという制度は素晴らしいものだと思います。大学としては箱根に出られなくても、個人として出場できるチャンスがあることは選手にとっての希望となっているでしょう。サッカーや野球など、他のチームスポーツでは考えられないことです。しかし同時に、学連選抜は苦悩と葛藤を与える過酷な制度でもあります。各選手は、それぞれの思いを抱えて学連選抜というチームとして、箱根駅伝に臨みます。

まとまっていくチーム、まとまらないエース

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学連選抜を率いることになった吉池監督のもとに集まった選手たち。そこで浦はキャプテンに指名され、バラバラの選手たちを「チーム」にしていくことを任される。練習の中で少しずつ心を通わせていく選手たちだったが、1人だけチームに馴染もうとしないメンバーがいた。山城悟(やましろさとる)、1年生で箱根5区を走って区間新記録、その後も2年生で3区、3年生で2区を走って3年連続で区間新記録を残している絶対的エースである。「チームもクソも関係ない。俺は自分の走りをするだけだ。あとは誰が何をしようと勝手だ」

10月に行われる箱根駅伝予選会の後、11月ごろに集められて約2ヶ月間だけ活動するチームが学連選抜。そのため、チームワークを築くには圧倒的に時間が足りません。それでも、メンバー同士の繋がりを強くするために動く浦、一方で、メンバーを遠ざけて自分の走りだけに集中する山城。箱根駅伝本番に向けて、チームのあるべき姿を模索していきます。

そもそも、駅伝におけるチームとは何でしょうか。単純に言えば、チームワークなど無くても全員が区間賞であれば優勝できます。常に走るのは1人。走り始めてしまえば、チームワークなど関係ないように感じます。しかし、浦はキャプテンとしてチームワークを大切にしました。自分のために走る人間よりも、チームのために走る人間のほうが強いと直感していたからです。

みなさんの中にも、マラソンを走っていて苦しくなった時に、誰かのことを思い出して頑張れた経験のある方がいらっしゃるでしょう。自分のためだけでなく、誰かのために走れるようになって初めて出せる力もあると思います。それが「チーム」の意味ではないでしょうか。しかし、この小説の山城は、自分の力だけを信じて、自分のためだけに走ることを決めて箱根駅伝へと臨みます。4回目の区間新記録を目指して。

優勝を目指す。学連選抜は「チーム」だ。

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「学連選抜チームは優勝を目指す。」吉池監督が取材陣に言い放った。元々は選手自身が決めた目標だったが、メディアに掲載されると覚悟が固まる。そして迎えた箱根駅伝当日。選手がそれぞれの大学のユニフォームで走る。自分のために、チームのために、勝利のために。浦は、チームメンバーの想いと箱根に出られなかった仲間の想いを背負って、アンカーとして10区を走り出した。

大胆にも優勝宣言をした学連選抜チーム。しかし世間の反応は冷ややか。4年間同じ釜の飯を食べてきたチームが、そんな即席チームに負けてなるものかと。それでも学連選抜は期間こそ短いものの立派なチームです。次の走者に少しでも速く襷を繋ぐために全力で走ります。

箱根駅伝では、選手たちは様々な想いを背負って走っているでしょう。母校の誇りや伝統、OBたちの期待、支えてくれた人たちへの感謝、そしてチームへの想い。時にはそれらが選手の力になりますが、一方でそれらの想いに応えようとするあまり、選手生命に関わる大怪我につながってしまうこともあります。しかし、それを承知のうえで、選手は走るのです。

大学駅伝には賛否両論があることでしょう。選手たちに過剰なプレッシャーをかけすぎてしまうのも考えものです。しかし、それでも走り続ける彼らの姿勢からは、感じること、学ぶことも多いでしょう。駅伝ファンとしては、彼らがケガをしないように祈りながら、それでも頑張る姿を応援したいと思ってしまいます。

本気で優勝を目指す学連選抜チーム、アンカーで走る浦、その結末はぜひ実際に小説を読んでいただきたいと思います。箱根駅伝を走るということ、1度負けても立ち上がるということ、そして「チーム」になるということが感じられる小説です。最後まで楽しめると思いますので、ぜひ実際に読んでみてください!

2010/12/4 堂場 瞬一 (著)

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