2017年2月22日

ウサイン・ボルト賛同の“新感覚”国際大会「ニトロアスレチックス」をレポート

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北京、ロンドン、リオデジャネイロと3大会連続でオリンピックチャンピオンとなったスプリンター、ウサイン・ボルト(ジャマイカ)。

その彼が賛同する新設の国際陸上大会“ニトロアスレチックス”が、2月4日、9日、11日にオーストラリア・メルボルンにて開催されました。

ボルト率いるボルトオールスターズを筆頭に、日本を含め6チームが参加。アスリートたちの駆け引きとエンターテインメントが同居した新たな陸上競技の祭典。スタジアムが一体となった独特な雰囲気の模様をレポートします。

1周ごとに選手が脱落?! ユニークな種目構成が生み出す一体感

「陸上競技を楽しめること、同じ競技を通してつながること、観客と選手が互いの壁を取り払うこと。それが最も重要だったんだ」

2月11日、最終種目のミックス(男女混合)400mリレー終了後、カクテル光 線に照らされながら記者の質問に応える世界最速の男。メルボルンの季節は夏。玉の汗とともに、その顔には満足げな表情を浮かべていました。

今回行われた“ニトロアスレチックス”は、今年から新設された陸上競技の国際大会。ウサイン・ボルトをキャプテンとするボルトオールスターズ、オーストラリア、ニュージーランド、イングランド、中国、日本の6チームで競われます。大会の特徴は、ポイント制であること、変則的な競技ラインナップ、そしてスタジアムの演出です。

選手たちは、男女12名ずつの計24名で構成されたチームの一員として各種目を競い、1位の100点から最下位の40点まで順位に応じたポイントを獲得していきます。最終種目終了時点で最も高得点のチームが優勝という、勝敗システムはいたってシンプルなものです。

しかし、“加点”だけでなく“減点”もあるという緊張感が、大会にエンタメ 性を注ぎます。ミススタートや、リレーのバトンミスなどの反則に対しては、ペナルティで50ポイントの減点。実際の競技でも、土壇場でオーストラリアが減点を受け、ボルトオールスターズが劇的な優勝を飾るというドラマもありました。

「ウサイン・ボルト賛同の“新感覚”国際大会「ニトロアスレチックス」をレポート」の画像シビアな中にも楽しく競技に取り組む選手たち

加えて、ユニークな種目構成です。もちろん個人種目も存在しますが、リレー種目、やり投げや走り幅跳びといった一部のフィールド競技が男女混合で行われ、まさに力を結束させて上位を目指します。“エリミネーションマイル”は、トラック4周、距離にして1600mを走る中で、毎周最下位が脱落していく競技です。最初の周回を終えて一人振り落とされると、主導権を握るランナーによって集団がコントロールされ、一気にペースダウン。そして半周を過ぎたあたりから再びペースが急上昇し、ホームストレートはまさに全力疾走です。

「ウサイン・ボルト賛同の“新感覚”国際大会「ニトロアスレチックス」をレポート」の画像エリミネーションマイルはスパート合戦が見もの

インターバルトレ ーニングのような揺さぶりに、日本選手もたまらず後退。残り1周、絞られた3選手による駆け引き、スパート合戦に、スタンドの歓声も最高潮に達します。

一方で明確なゴールラインが敷かれていない競技も。本来であればゼロから始まるタイマーが3分からカウントダウン。“3分チャレンジ”競技に出場する選手たちは、タイマーがゼロになるまでに走った距離の長さを競います。女子選手の3分終了時点の位置から、今度は男子選手がスタート。間隔を空けた選手同士の“見えない競り合い”は、駅伝競走をほうふつとさせます。

短いスパンに1日あたり2種目をこなし、選手たちも疲労困憊。しかし、スタ ジアムDJやダンサーによる演出も手伝って、ギャラリーの歓声はうねりとなり、背中を押されるように、選手たちは次の種目へと駆け出していきます。

コミュニケーションが自然と生まれる“距離感”

スタジアムのフィールド部分には、大きな筒が立ち並び、競技終了時や跳躍、投擲のタイミングで火柱があがり、会場の演出に一役買っていました。トラック種目とフィールド種目が同時進行する陸上競技では、観客の視線が1点に集まりづらいため、各種目で均一的に大きな盛り上がりを生み出す事が難しい場合もあります。ニトロアスレチックスには、競技によって生じる盛り上がりのギャップを最小限にとどめるため、演出の工夫が散りばめられていました。

そして、スポーツを盛り上げる最後のピースは、“観客”です。

会場となったレイクサイド・スタジアムはスタンドと競技エリアがほぼシームレスになっており、選手と観客の距離がとにかく近い。

「現地のガキンチョたちがハイタッチを求めてきたり、自然とそういったコミュニケーションが生まれていました。自分自身、ワイワイやりたいタイプというのもあるけど、国内のレースでもガンガン来てほしいですね!日本人は背中を押されても“いや…”となってしまいがちなので」

2015年の北京世界陸上にも出場した短距離の谷口耕太郎選手(中央大)はそういってレースを振り返りました。

右手脚に義手、義足を装着して走るパラスプリンター、池田樹生選手(中京大)は「レース後にサインを求められて、思わず、ずっと書いてました(笑)」とも。

トラックの淵に詰めかけた観客からファーストネームで呼ばれ、サインやセルフィー撮影に応じる選手たち。

“ミキオサン!サインオネガイシマス!”

片言の日本語で呼びかけるファンに、池田選手は驚きながらも笑顔で応えていました。

キーワードは“メイク・サム・ノイズ”

東京オリンピック・パラリンピックの足音も近づき、国内でもスポーツへの関心が今まで以上に高揚しています。“スポーツの祭典”は、選手のパフォーマンスと、それに呼応する観客の熱量が合わさって、はじめて成立します。それは陸上競技にも通じる話です。

「(日本とくらべて)観客の声援があきらかに違いました。今回のようにトラックと客席が隣接しているとお客さんも声をかけやすい。もっと観客が選手に近づけるようなスタジアムであれば、盛り上がり方も変わってくるんじゃないかとも思うんです。それこそバスケの試合は距離が近い。そういった要素が陸上にもあるとまた違ってくるのではないかな」(池田選手)

「お客さんと選手が近く、ホームまで出向いて応援出来るような感じ。応援するチームや選手が活躍したときにワッと盛り上がる。(プロ野球など)そんな文化が日本にはすでにあるけど、陸上にはまだ少ない。日本というひとつのチームで盛り上げてくれたらいいな、と。“メイク・サム・ノイズ”ですよ!」(谷口選手)

“メイク・サム・ノイズ”――。直訳すると“音を出せ、声を張り上げろ”という意 味で、谷口選手も海外の試合で幾度か耳にした言葉だそうです。

「(誰かが)“メイク・サム・ノイズ!”と言うと外国人は勝手に盛り上がって ガンガン奇声を発するんですよ(笑)。楽器を使っても良いので、もう適当に音を出せと。そういうのもやっぱり大事ですよね」(谷口選手)

思えば、競技の合間にスタジアムDJが場をあたためている時以外にも、自然発生的に歓声が生まれていたものです。

「ウサイン・ボルト賛同の“新感覚”国際大会「ニトロアスレチックス」をレポート」の画像大会終盤は観客がスマフォのライトをかざす演出も

スタンドと選手の熱量が互いに化学反応を起こし、歓声となって弾ける。言葉を借りれば、これこそが“メイク・サム・ノイズ”なのでしょう。

選手と観客だけでなく、選手同士の距離も近い。フィニッシュに向かう選手に、チームメイトが並走して声援を送るシーンも見られました。

池田選手は言います。

「自分はパラアスリートの代表として来たけど、最初は不安でした。健常者の選手にとっては普段パラアスリートと関わる機会が少ない分、どういうイメー ジを持たれているのかという思いはあったし、こちらとしても健常者の選手が普段どんなことをしているのかという興味もある。大会を通じて日に日にチー ムの仲も深まり、情報共有が出来ていました。それは今後に大きくつながるものだと思います」

ウサイン・ボルトの自伝映画『アイ・アム・ボルト』では、プライベートでパ ーティやカーニバルを楽しむ彼の一面が描かれています。人類最速のエンターテイナーが演出した新感覚の陸上競技大会は、プレッシャーやストレスから解放され、楽しむことの大切さを、改めて教えてくれたのかもしれません。


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