旅先でのランニングは距離が短く感じる不思議、脳科学者・茂木健一郎さんが解説
Jun 21, 2016 / COLUMN
May 26, 2017 Updated
旅とランニングは相性が良い。今回はなぜ、この両者が結びついたのかを紐解いてみましょう。
旅や出張などで初めて訪れる地に、ランニングウエアやシューズを持っていくランナーは少なくありません。ウエアもシューズも最近は軽量化され、コンパクトなものも多いので、カバンの中に忍ばせてもさほど気になりませんよね。
筆者も旅行で訪れたパリやシャモニー、ツェルマット、屋久島、軽井沢、沖縄ではランニングを楽しんできました。どれも早朝に走ったのですが、街がまだ目が覚めていない時間帯、いわゆる“オフタイム”は、その街の違った表情が見え隠れします。早朝はその街のすっぴんを見たようで、どこか等身大。よりその街を深く知ることができます。
また、走ることで歩いている時以上に、広い範囲を移動することが可能になります。「実はこんなところがあったんだ!!」と、大通りから一本中に入ると、街のイメージとまったく違ったまったお店や公園などを発見することも。
もちろんいつものトレーニングとは違いますので、スピードを出す走り方はしません。気になる景色やお店などを見つけたときには、カメラを取り出して撮影するくらいの余裕をもって走ります。そもそも走り慣れていない土地なので、あまりスピードをあげて走ることはできませんよね。旅行の延長戦上でランニングを楽しむと良いでしょう。
早朝ランニングを終えると、シャワーを浴びたり、ひとっ風呂入って気分をリフレッシュ。そうなると、朝ご飯も楽しみになりますね。旅先での早朝ランニングはメリットづくし。
そんな「旅×ランニング」を楽しんでいるランナーの一人に、脳科学者の茂木健一郎さんがいます。国内外で100カ所以上も「旅×ランニング」をしてきたと自著『走り方で脳が変わる!』で明かしています。特にミラノやローマでのランニングは思い出深いとのこと。国内でも山形を走った時には、名所ではないものの“求めていた景色”と偶然出会い、その一期一会を堪能したそうです。
同書では「旅×ランニング」の相性の良さを脳科学的にも分析しています。皆さんは、旅先のランニングは、いつもと同じ距離でも“短く”感じたことはないでしょうか。これは旅先のランニングには「驚き」と「感動」がたくさんあるため。
「新規な刺激ほどドーパミンが出て、報酬系の中枢は活性化する。あまりに新しい情報が次々と入ってきて、脳はオーバーフロー状態になる」(同書より)
確かに旅先でのランニングは、初めて見る景色や情報ばかり。新規な情報に溢れていますよね。このような状態が続くと、距離は短く感じ、あっという間に走り終えたような気分になるようです。
また、旅先のランニングではコースを細かく決めず、ざっくりとした目的地と、後はそれに向かって本能的に右に曲がったり、左に曲がったりすることもあるでしょう。野生の勘とこれまでの経験から、どちらに曲がるべきかを判断。新しい情報が飛び込んでくるなかでも、瞬間的な判断が必要となります。ここで上手く判断できるかは、日頃から即興性を鍛えているかどうかにもかかわると言います。
「『即興』を支える脳機構はまだよくわかっていない。神経活動の本質は、『自発性』で、そこに何らかの拘束条件が加わることで、即興が生まれる。もちろん、即興は無からは生まれない。側頭連合野に豊かな体験が蓄積されていてこそ、自由で脈絡ある結びつきの素材が提供されるのだ。『旅ラン』は、その素材をインプットしつつ『即興性を鍛える』トレーニングだ」と語ります。
新しい情報を次々とインプットする「旅×ランニング」は、脳を刺激し、また、即興性を高める機会にもなっているのです。また、茂木さんのように偶然素晴らしい出会いに恵まれることも。だから「旅×ランニング」はやめられませんね。皆さん、この夏はどこでラントリップしますか?