プロ山岳ランナー 上田瑠偉選手が振り返る2024年・来シーズンへの展望 「富士登山競走で大会記録を更新したい」

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(左から)プロ山岳ランナー 上田瑠偉選手、スポーツMC 岡田拓海さん

プロ山岳ランナーとして世界の舞台で活躍する上田瑠偉選手。今シーズンは数々の海外レースでも好成績を収めましたが、自身は結果をどう振り返るのか。

スポーツMC 岡田拓海さんが聞き手となって、2024年の振り返り、2025年に向けての展望を伺いました。

上田瑠偉選手が振り返る2024年シーズン

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岡田:プロ山岳ランナー 上田瑠偉選手 に2024年をどう過ごしたのか伺っていきたいと思います! 今年大活躍だった海外レースの話、2025年に向けた展望もお聞きできたらと思います。

上田:よろしくお願いします。

岡田:早速ざっくばらんに聞いていきますが、2024年はどうでしたか。

上田:春先はかなり2023年の怪我の影響がありました。トレーニングのボリュームは増やせるようになったものの、質がこれまでと比較するといい練習はできてなかったんです。あとは足底筋膜炎が慢性的に続いていて、予定していたトレーニングが消化できないこともありました。

そういったことが影響してシーズン前半戦はなかなか結果が出ない時間が続きました。

岡田:上田選手が2024年に出走したレースが14戦あるなかで、国内が4レース、海外が10レースだったんですね。

前半戦でいえば、2024年はゴールデントレイルシリーズが神戸で開催されたこともありましたね。

上田:神戸では17位という結果で、やっぱりスピードについていけない感覚がありました。 レース全体を振り返って、自分のパフォーマンスを出しきれない内容でしたね。

岡田:自分の中でレース前から上手くいかない感覚をもってレースを走ったのか、レース本番で感覚の答え合わせをしているどちらのパターンだったのでしょうか。

上田:毎年、シーズン前に熊本の阿蘇で合宿するんです。毎回同じようなトレーニングをこなしていくんですけど、トータルで見たときに質が上がってこない感覚がありました。

また、1月に香港のレースを走ってからレースに出てなくて3ヶ月空きました。その期間でレース感が鈍ったので、他にレースを走ればよかったということも思いました。

岡田:ここで3ヶ月空いて、年間14レース走っているということは後半はかなり頻繁にレースを走っているということですよね!

上田:そうですね。6月は毎週レースを走りました(笑)。

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FAIRY TRAIL(滋賀県)

上田:6月は4連戦だったんですけど、後半2レースが海外のスカイランニングワールドシリーズでそこに照準を合わせて、5月下旬から6月初旬の『FAIRY TRAIL』(滋賀県)の期間までしっかり合宿を組みました。FAIRY TRAILは2025年トレイルランニング世界選手権の代表選考会だったんですけど、そこに照準を合わせずに臨みました。その後徐々に練習量を調整して、『スリーピークス八ヶ岳トレイル Attack Line』(22km、山梨県)で大会記録で優勝しました。

そこから調子が上がってきて、海外のワールドシリーズも2位、3位と好成績を残すことができました。

大会記録更新を目指した富士登山競走、好成績を残した2024年後半戦へ

岡田:すごい成績ですよね。春に成績が芳しくない入りだったところから、合宿でギアが入った印象を受けますよね。ワールドシリーズでも成果が出たと思うんですけど、やっぱり合宿がうまくいったことが大きかったのでしょうか。

上田:以前から定期的に行ってきた、長野県高峰高原という標高が2000mほどある場所で合宿を行いました。林道は片道4kmのコースを取れてベース作りもできました。

岡田:合宿では、定期的に行っている場所でそのシーズンの自分のコンディションを確認していくという臨み方なんですね。その合宿を終えて6月に成績が上がっていく流れということで「流石だな」と感じました。

2024年の後半戦も振り返っていこうと思いますが、シーズンの大きな目標として掲げていた富士登山競走の結果はどうでしたか。

上田:結果からいうと、失敗したレースでした。このレースへチャレンジした背景は、富士登山競走は10年以上大会記録が更新されてない大会なんです。私自身これから100マイルレースにも挑戦していきたい気持ちがあるので、21kmという短い距離のレースをこれから先しっかりコンディションを合わせてチャレンジできる機会があるかと考えるとそんなに多くはない。

岡田:長い距離と短い距離のレースを両立しづらいからということですね。

上田:だからこそ、今シーズン大会新記録を出したかったんです。ただ、結果は6位でレースを終えてしまいました。

岡田:なるほど。だから個人的にはもっと上位で終えたかった悔しさはありますか。

上田:そうですね。走り終えて振り返ってみると、低酸素への対策をやった気になっていました。その対策が足りなかったと今は思います。

岡田:富士登山競走って登り一辺倒の21kmで、3000m上がっていくじゃないですか。それは、アスリートの方々が走るスピードで上がると特殊なトレーニングが必要ですよね。

上田:あのスピードもそうですし、3700mの場所を走る環境がなかなか作れないじゃないですか。やっぱり酸素濃度が低いので。

海外レースから帰国して富士山でも合宿をしたんですけど、1回目は山頂まで登ったときに暴風でほとんど滞在時間もなかったほど。山頂で長時間滞在できなかったのは影響として大きいですね。

岡田:3700mの標高の場所にどれくらい慣れているのかがパフォーマンスに関わってくるんですね。

2024年シーズンの終盤にも目を向けていこうかと思いますが、秋以降は振り返ってみてどうでしたか。

上田:まずは、今年の大きな目標の一つとして掲げていた9月のスカイランニング世界選手権ですね。今回は金メダルを目標に掲げて、2024年で5回目の出場でした。

花形種目であるスカイは3〜40kmのレースなんですけど、過去2大会は3位が続いてきました。そこでどうしても優勝したいと思って臨みましたが、富士登山競走を終えてから体調を崩してしまい、咳が2、3週間止まらなくて。

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スカイランニング世界選手権

岡田:富士登山競走から世界選手権まで1ヶ月しか空いてなかったですよね。

上田:走れないくらい咳き込んでしまい……。そこから、なんとか帳尻は合わせてメダルは 獲得できて3位でした。

岡田:そのコンディションのなかですごいですよ! 花形種目で世界の強豪選手たちが集まる中で、メダルを獲れたことは。

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上田:でも、やっぱり金メダルを獲りたかった! という思いはありますね。

この世界選手権の1位と2位の選手に6月のワールドシリーズで勝ってたんです。だからこそ悔しいですね。

岡田:やっぱり簡単じゃないですね……! 圧倒的な強さではなく、やっぱり練習がシーズン中に積めているかどうかで結果が変わるということなんですね。

上田:そうですね。

岡田:さらにそこからシーズン中盤にかけて調子が上がっていきますよね。

上田:そうですね。その後、帰国して実家の長野県大町市に帰って北アルプスで練習を積みました。1ヶ月以上レースへの出走は空きましたが、韓国で開催されたワールドシリーズのレース『2 Peaks Skyrace』で2位という結果をおさめました。

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2 Peaks Skyrace

韓国・中国・タイ……と転戦した2024年終盤

岡田:さらに、11月にもレースに出走しているんですよね。

上田:韓国でレースに出た翌週ですね。中1日で移動して、中国のレースに出走しました。『TSAIGU TRAIL』(チャイグートレイル、中国)という大会です。

1か月前にSalomonから出場依頼があり出走したのですが、大会がどれくらいの規模感なのか、全然分からなかったんです。レース前日に記者会見があって出席したら、中国のトップ選手たちがずらりと並んでいたんです。

岡田:あれ、おや? みたいな感じですよね(笑)。

上田:ITRAポイントが900点台の選手たちもいて、聞いてみると中国で最高峰の大会だと言うんです。中国版『ハセツネ』みたいな感じでしょうか。

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TSAIGU TRAIL

岡田:そんな大会なんだ! そういう意味だと、日本人がこれから行きたいレースの1つになりそうですね。

上田:大会側の意図としては、2025年に10回記念を迎えるにあたって、もっとグローバル化したいから今大会で海外選手も招待したそうなんです。

しかも会場が古都というか城壁に囲まれた街という特徴的な大会でした。

岡田:万里の長城みたいな場所でフィニッシュしていましたよね。

ロケーションも素晴らしかったですが、突然参加することになり見事優勝したんですよね! 急遽レース出走が決まったけれど、1位を取ることができたというのはどうでしたか。

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TSAIGU TRAIL

上田:前の週に出走した韓国のレースでは、スピードを上げていたので50kmほどのレースでのペース感覚はだいぶ余裕を持って走れてました。

岡田:なるほど。そしてスペイン、タイと転戦していくんですよね。

上田:スペインは今年スカイランナーワールドシリーズが20 周年記念を迎えていて、それもあって今年転戦していたのですが、その最終戦でした。もちろん賞金も高額になりますし、年間ランキングが決まるレースでしたが、失敗でしたね。

岡田:これは調整が上手くいかなかったのでしょうか。

上田:20kmまでトップを走ったんですが、そこからガクっとペースが落ちて。そこからリカバリーできずズルズルと落ちてしまいました。

岡田:上田選手はも百戦錬磨という印象がありますが、レースの途中で調子を崩して戻せないということもあるわけですね。

上田:単純に脱水症状だったら、ペースを落として水分補給することで復活することもあるんです。しかし、それでも復活しませんでした。

岡田:最後に、2024年の締め括りはタイ・チェンマイ。

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Chiang Mai Thailand by UTMB

上田:『Chiang Mai Thailand by UTMB』に出場して、優勝できました! (前レースで)14位から優勝という流れで、しっかり年内最後をいい形で締めくくることができました。

岡田:しかも、Chiang Mai Thailand by UTMBは結構規模の大きい大会ですよね。

上田:そうですね。UTMBという世界最大のトレイルランニングレースがあって、それに付随する加盟レースが40レースくらいあるんですよ。

その中でも2024年に関しては3つメジャーズと言われている、UTMB本戦に参加するための格式の高い大会があって、Chiang Mai Thailand by UTMBもその一つ。そこで優勝できました。

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Chiang Mai Thailand by UTMB

岡田:こうやって2024年を振り返ってきましたが、1年間の中で浮き沈みとか変化が生まれるものなんですね。

上田:2019年ごろまでは安定してたんですよ。10位以下に沈まない状況だったんですけど、コロナ禍に入ってから浮き沈みが出始めて自分でも色々難しいと思いますね。世界的にレベルが上がっている現状もあるでしょうし、単純に国内のレースに出ていないということもあると思います。

その中でもしっかり勝てたレースがあるのは、自信になりました。

100マイルレース挑戦への2025年シーズン展望

岡田:2025年はどのようなレースの予定を考えていますか。

上田:今シーズン達成できなかった富士登山競走で大会記録更新を最初の大きな目標に掲げたいですね。リベンジしたいので、そこまでは海外レースも控えます。富士登山競走は前半ロード部分もあるのでしっかり走力を磨いて、対策していきたいです。

あとは招待いただいて、国内でも『鬼ヶ城ピークストレイル』(愛媛県)や『秋吉台カルストTRAILRUN』(山口県)もシーズン前半に走る予定です。

岡田:前半戦は日本国内のレース中心で走っていくんですね。

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上田:富士登山競走が終わったら、海外レースを予定しています。今シーズン・タイのレースで優勝したことでOCC(Orsieres-Champex-Chamonix)の出場権を得ることができたので、出走予定です。

OCCだけは今まで結果を出したことがなくて。過去21位と26位と続いているので、しっかりと結果を出したいと思っています。Chiang Mai Thailand by UTMBで11位だった選手は今年OCCで8位だったかな。3位だった選手もOCCで5位かな。そういう選手に勝ってるんで、自分のポテンシャルはあるんだと1つ自信にしたいですね。

岡田:富士登山競走が終わった後の目標は?

上田:8月末にOCCを走って、1か月後にスペインでこのトレイルランニング世界選手権があるので(撮影時:代表未内定)走れるとしたら40kmのカテゴリーでメダルを目指して頑張りたいです。

岡田:この辺が2025年の目標となってくるんですね。

上田:さらに翌年。2026年に100マイルレースへ挑戦したいと思っています。

岡田:さきほどもゆくゆくはと話していましたが、来年は移行期も視野に入れているということですね。

上田:そうですね。そのため、秋にどこかで100kmレースを走りたいと思っています。

岡田:2025年のレースの先に、長い距離へチャレンジしていくのが楽しみですね。来シーズンのレース、活動についても応援しています!

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100マイルレースへのチャレンジを見込んで、練習を積む上田選手。2025年はどのような結果を残していくのか、今後も上田選手の活躍から目が離せません。

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