強化費「1,350万円」を集めた筑波大、箱根駅伝本戦に26年ぶり出場へ
Oct 31, 2019 / COLUMN
Oct 31, 2019 Updated
10月26日に東京都立川市で第96回箱根駅伝予選会が開催され、東京国際大が10時間47分29秒の総合記録でトップ通過を果たした。そのほか、昨年総合17位の筑波大が総合6位と大躍進。1920年(大正9年)の第1回箱根駅伝優勝校(東京高等師範学校:現筑波大学)が26年ぶりに本戦への切符を掴んだ。
暑くてタフなコンディションの熱戦
レース当日は晴れ間が見られ、10月下旬ながらもレース後半には気温が23℃近くまで上昇。その影響で、ほとんどの選手が終盤にペースを落とした。
総合1位の東京国際大は、留学生のイェゴン・ヴィンセント(1年)が個人3位、伊藤達彦(4年)が5位と2枚看板が奮起し、6月の全日本大学駅伝関東予選会に続いてのトップ通過を果たした。上級生を中心にまとまりのあるチームは、箱根駅伝で初のシード権獲得を目指すが、今週末には全日本大学駅伝が控えている。
昨年の箱根駅伝予選会で、レースが20kmからハーフマラソンへと1.0975kmの距離が延長されたが、今回トップの東京国際大の総合記録は10時間47分29秒。前回総合10位の山梨学院大の総合記録が10時間46分27秒であったことを考えると、いかにタフなコンディションであったかがわかる。
【総合成績:上位20校】
順位 | 大学 | 総合記録 |
1 | 東京国際大 | 10時間47分29秒 |
2 | 神奈川大 | 10時間50分55秒 |
3 | 日本体育大 | 10時間51分09秒 |
4 | 明治大 | 10時間51分42秒 |
5 | 創価大 | 10時間51分43秒 |
6 | 筑波大 | 10時間53分18秒 |
7 | 日本大 | 10時間54分29秒 |
8 | 国士舘大 | 10時間55分21秒 |
9 | 早稲田大 | 10時間55分26秒 |
10 | 中央大 | 10時間56分46秒 |
※総合10位までの大学が第96回箱根駅伝に出場
順位 | 大学 | 総合記録 |
11 | 麗沢大 | 10時間57分12秒 |
12 | 駿河台大 | 10時間58分44秒 |
13 | 上武大 | 11時間00分16秒 |
14 | 専修大 | 11時間01分57秒 |
15 | 城西大 | 11時間02分27秒 |
16 | 東京農業大 | 11時間05分05秒 |
17 | 山梨学院大 | 11時間06分14秒 |
18 | 大東文化大 | 11時間06分22秒 |
19 | 流通経済大 | 11時間10分57秒 |
20 | 東京経済大 | 11時間16分21秒 |
総合4位の明治大は、今年のユニバーシアード10000m銀メダリストの阿部弘輝(4年)を故障で欠き、今年の箱根駅伝で2区を走った中島大就(4年)、4区を走った三輪軌道(4年)などの主力も出場せず。しかし、チームでは中堅クラスの手嶋杏丞(2年)が積極的な走りで9位と奮闘し、明治大の総合4位に貢献した。
総合5位の創価大は3年ぶりの予選会通過。今年2月に榎木和貴監督が就任した新チームがいきなり結果を出した。
【個人トップ10】
順位 | 選手 | 大学 | 記録 |
1 | L.キサイサ | 桜美林大・4年 | 1時間01分01秒 |
2 | R.ヴィンセント | 国士舘大・2年 | 1時間01分37秒 |
3 | Y.ヴィンセント | 東京国際大・1年 | 1時間02分23秒 |
4 | C.ドゥング | 日本大・1年 | 1時間02分33秒 |
5 | 伊藤達彦 | 東京国際大・4年 | 1時間02分34秒 |
6 | 荻久保寛也 | 城西大・4年 | 1時間03分12秒 |
7 | 米満怜 | 創価大・4年 | 1時間03分19秒 |
8 | J.ブヌカ | 駿河台大・4年 | 1時間03分26秒 |
9 | 手嶋杏丞 | 明治大・2年 | 1時間03分28秒 |
10 | B.ムルア | 山梨学院大・1年 | 1時間03分38秒 |
レースは桜美林大学のレダマ・キサイサ(4年)が中盤から抜け出しを図ってそのまま逃げ切り、3年連続の個人1位となった。15kmを4名で通過した日本人の先頭集団は、東京国際大の伊藤が最後の6.0975kmを17分51秒(2:55/km)で走って他を引き離し、今年のユニバーシアードハーフマラソン銅メダリストが力をみせた。
筑波大が26年ぶりに本戦出場
昨年総合17位の筑波大が、26年ぶりに本戦出場を決めた。金丸逸樹(4年)が13位、西研人(3年)が19位、猿橋拓己(3年)が20位と健闘。また、相馬崇史(3年)が40位、 駅伝主将の川瀬宙夢(医学群医学類5年)も53位に入り、上級生の奮闘がチームを鼓舞した。
筑波大は、2011年に『箱根駅伝復活プロジェクト』を発足させ、2015年には弘山勉氏が駅伝監督に就任。弘山監督は、資生堂の監督時代に五輪3大会連続出場の弘山晴美を指導。そして、筑波大での選手時代は箱根駅伝の9区を走り、区間2位を獲得。OB として、母校の再生に5年もの歳月をかけ、念願の箱根駅伝への復帰を叶えてみせた。
『箱根駅伝復活プロジェクト』開始当初の目標は『5年以内に本戦出場、10年以内に優勝』というものだった。しかし、それから4年後、弘山監督の就任初年度の箱根駅伝予選会では総合22位。そして、本戦通過ラインの総合10位との差が24分56秒という絶望的な実力の開きがあった。
弘山監督は筑波大の強化を目指し、国立大学で困難な強化費の捻出に着手。そこで、2017年からクラウドファンディングを始め、これまで4回で約1,350万円を集めた。年月を重ねるごとにチームは着実に力をつけ、昨年には総合10位との差を8分56秒差にまで縮めた。その差を今回で一気にひっくり返したのだから“お見事”といえる。
箱根常連校が落選・名門校が苦戦
今大会の波乱は、筑波大のジャンプアップだけではなかった。これまで箱根常連校であった上武大(総合13位)、城西大(総合15位)、山梨学院大(総合17位)、大東文化大(総合18位)が落選。山梨学院大は箱根駅伝の初出場から33年連続で本戦出場を果たしていたが、ついに連続出場が途絶えた。上武大も11年連続出場でストップ。
また、城西大は今週末の全日本大学駅伝の出場権を得ており、同大会出場校としては唯一、第96回箱根駅伝の出場権を逃した。
さらには、駅伝名門校としてチームの再建を目指す早稲田大(総合9位)や中央大(総合10位)も苦戦。早稲田大は13年前の第83回箱根駅伝以来の予選会への出場となった。その時は総合2位の専修大に6分弱の差をつけて圧勝したが、今回はそう甘くはなかった。
今回トップ通過の東京国際大や総合5位の創価大などの新興勢力は勢いを増しており、さらには総合11位で涙を呑んだ麗沢大、総合12位の駿河台大も着々と力をつけてきている。加えて、本格的な強化が始まった立教大は総合23位。筑波大が弘山体制の初年度に総合22位だったことを考えると、総合23位は悲観する順位ではない。
令和初の箱根駅伝予選会は波乱の幕開けとなった。箱根常連校の力が落ちてきているのかもしれないが、新興勢力が着実に力をつけているという印象を強く受けた。とはいえ、箱根駅伝で62回の出場を誇る筑波大の26年ぶりの復活劇は鮮やかだった。