「好きなギアが買えない……」海外のランニング文化に触れる【チュニジア】
Sep 15, 2019 / MOTIVATION
Sep 15, 2019 Updated
2020年の東京オリンピックまで一年を切った。オリンピックには、世界中のアスリートが日本を訪れる。プロアスリートはメディアに取り上げられることがあるが、海外の市民ランナーは毎日何を思い、走っているのだろうか。そこで、海外の市民ランナーにそれぞれの国のランニング文化や彼らの挑戦をインタビューする。
第一弾は、アフリカ北部チュニジアの首都チュニス在住のジャベルさん。スポーツ用自転車で颯爽と出勤し、挨拶や冗談で周りの雰囲気を明るくする研究者ランナーだ。今回は、チュニジアのランニング文化やランニングクラブを始め、ランニングを始めたきっかけ、悩み、そして夢について聞いた。
チュニジアのランニング文化
中東、アフリカ、ヨーロッパの文化が融合し、アフリカ大陸の最北端に位置する国『チュニジア』。首都チュニスは、最高気温が40〜45℃に達し、早朝でなければ暑すぎて運動は厳しいという。
「チュニジアで一番人気のスポーツは、サッカー。以前はランニングがスポーツとして取り上げられることはあまりなく、バスに乗り遅れた人が走っているのを見るくらい。近年、徐々に人気を集めています」
世界遺産のカルタゴ遺跡
続いて、チュニスのオススメランニングスポットについて。ランナーらしく、コースのタイプ別に答えてくれました。
「平地は、カルタゴ時代やローマ時代の遺跡が点在する世界遺産の 『カルタゴ(Carthage)』。坂道は、真っ白な壁にチュニジアン・ブルーの窓や扉が立ち並ぶ『シディ・ブ・サイド(Sid bon said)』をオススメしたいです」
世界遺産を日常的なランニングルートにできるのは、うらやましい限りだ。
ジャベルさんがランニングを始めたきっかけを聞いてみた。
肩の故障をきっかけに走り始めた
「もともと、ランニングはそれほど好きではありませんでした」
クロスフィットやウェイトリフティングが大好きだったというジャベルさん。ランニングを始めたきっかけは2017年に肩を故障し、リハビリに通ったことだった。理学療法士から肩に過度に負荷のかかる運動を止められ、辛い思いをした。その時に、唯一薦められたのがランニングだった。まずは20分未満の軽いジョギングから始めたが、初めは苦しかったという。
ランニングクラブ・チュニス
そんなジャベルさんを勇気付けてくれたのは、さまざまなレベルのランナーがおよそ300人以上集う『ランニングクラブ・チュニス』のメンバーたちだった。週に1〜2回、気の合う仲間と自由に走っているうちに、次第にランニングが楽しくなったという。
「仲間と楽しく走っているうちに、徐々に距離が10km、17kmと延びていき、ハーフマラソンにも挑戦できるようになりました」
ランニングクラブの年会費は1,000円ほどで垣根が低い上、気の許せる仲間と走ることでモチベーションを維持できた。早朝ランニングをした後に、友人と一緒に朝ごはんを食べる。そんな楽しみも増えた。さらに、ランニングクラブの活動を通して、以前から興味のあったトライアスロンにも挑戦している。
怪我から回復した後も『走り続ける理由』
「ランニングを始めてから精神的に強くなった気がします。例えば、今日は走らずに帰ろう、なんとなく辞めておこう……、と言い訳をしたくなることがよくあります。そんなネガティブな心の声を自らコントロールできるになりました」
他にも、多くの仲間に出会えたこと、体重のコントロール、持久力向上など、ランニングの効果は計り知れないという。また、アプリなどを利用して記録が伸びるのを見るのは大きなモチベーションで、負けず嫌いの性格に合っている。
やりすぎてはいけない
そんなジャベルさんの悩みの一つは、やはり故障。ランナーならばだれしも共感できるはずだ。故障をせず、トレーニングを重ね、どこまで記録を伸ばせるか。そのバランスが難しいという。自分の身体の弱点を知り、走り過ぎないように工夫するようになり、自己管理に努めている。
好きなランニングギアが買えない……
チュニスならではの悩みもある。
「チュニスには、ランニングショップが2店舗しかないんです」
日本と違い、シューズやインソール、ランニングウォッチなどギアの購入が難しいことが悩みだという。お目当てのギアがチュニジアにない場合は、ヨーロッパ旅行に行くランニングクラブの仲間に頼み、シューズのサイズが合わない場合は、友人と交換して工夫している。
ランニングを通じて、日本人ランナーとの思わぬ出会いもあったそうだ。
「先月、ズリバ(Zriba)という17kmの夜間トレイルレースに参加しました。そのときに、とてもフレンドリーで面白い日本人のランナーと出会いました。彼はアラビア語が堪能で、暗闇で目立つようにライトをつけて走っていて、皆の人気者でした。後に在チュニジアの日本人大使だと発覚してびっくりしました!」
ランニングは国際交流にも一役買っているようだ。
夢はサハラ砂漠の蜃気楼マラソン
いつかは走ってみたいという憧れのレースは、チュニジアで毎年9月頃に開催されるミラージュ・エルジェリド・ウルトラマラソン(Ultra Mirage El Djerid)だという。チュニジアのサハラ砂漠を100km走る、究極の耐久走。ジャベルさんが北アフリカ最高峰のレースに挑戦する日もそう遠くはないかもしれない。
最後に、日本のランナーの皆さんにメッセージを!
「世界中のどの国の出身でも、どんな言語を話そうとも、ランナー同士ならばすぐに心が通じ合うと実感しています。日本の皆さんも存分にランニングライフを楽しんでください!」
仲間との絆を大切にしながらランを楽しみ、新しいことに次々と挑戦するジャベルさん。その挑戦はまだまだ続きそうだ。
ジャベル・ベルキリア(Jaber Belkhiria)
チュニジア、チュニス出身。ランニングクラブ・チュニス(Running Club Tunis)に所属する研究者ランナー。本業は感染症研究者、獣医学博士。趣味はランニング、クロスフィット、そしてトライアスロンなど多岐に渡る。2013年に初めてレースに出場して以来、その後チュニジアのズリバトレイルレースやハーフアイアンマン・レースを完走。好きなランニングスポットはアメリカ・ロサンゼルスのサンタモニカ。現在は怪我の回復を待ちつつ、ハーフアイアンマンレースに向けてトレーニング中。好きな言葉は「常に前へ(Always move forward)」