まだまだ走れる?『加齢』という大きな壁はいつ訪れる?

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誕生日を迎える度に、「あ~、もう○○歳か」と年齢を重ねている実感がありますか? 体力と気力が満ち溢れ “ハツラツ” としていた若かりし頃を懐かしく思うことがあるでしょうか。

歳を重ねると、身体の変化や “不調” を感じることが増えてきます。はたして、その不調は “加齢” によるものなのでしょうか。

今回は『加齢とマラソンのパフォーマンス低下との関連』2019年発表の最新論文¹⁾(以下、Asing研究)を基に、あなたの今後のランニングスタイルについて考えていきたいと思います。

走力を決める3つの要素

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まず、ランナーのパフォーマンスを決める生理学的な要素を把握しておきましょう。この要素は大きく3つに分けられます²⁾。

1.最大酸素摂取量(VO₂max)

最大酸素摂取量とは、最大努力で走った時に消費される酸素消費量のこと。同じペースで走っていても、最大酸素摂取量が多い人は酸素を取り込める余裕度が大きくなり、楽に走れるようになります。その余裕ができる分、速いペースでも走れるようになるため、マラソンなどの記録を予測する1つの指標となります。

2.乳酸性作業閾値(LT)

ランニング中は、大きく分けて2つの仕組みからエネルギーを作り出しています。1つが酸素を使って脂肪を燃やす有酸素性運動。もう1つが酸素を使わずに糖から乳酸を作り出してエネルギーを抽出する無酸素性運動。走るスピードが速くなるにつれ、有酸素性から無酸素性へ急激に利用割合が移り、乳酸が大量に作り出されるポイントがあります。それを乳酸性作業閾値(LT)といいます。そのLTがより速いスピードの方に移るようにトレーニングすることで、エネルギー(グリコーゲン)をより節約しながら走れるようになります。

3.ランニングエコノミー

ランニングエコノミーとは、ある一定のペースでどれだけ少ない酸素(エネルギー)消費量で走れかを表すもの。ランニングエコノミーは、様々な要因が複雑に絡み合うことで決まってきます。上記の2つに加えて、循環器系や体温調節機能を含めた『体力』、身長・体重・体脂肪を含めた『体組成』、無駄のない接地や腕振りといた『フォーム』などが上げられます。それぞれの要素をランニングに適した形でトレーニングしていくと、同じペースでの酸素消費量は少なくなり、 “楽に走れる” ようになっていきます。

ランニングは、この3つの要素から成り立っています。これらの要素の『どれを』『どのように』して刺激を与えていくかで、ランニングのパフォーマンスを向上することができます。

走力減少は70歳前後から急加速!?

では、Aging研究の結果を覗いてみましょう。以下の図がその結果の概要です。

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図1 各年齢のグループの年間の速度変化量の平均値 中沢孝, et al. “年齢別 100 位以内を維持する中高年男性マラソンランナーの加齢に伴うパフォーマンス変化に関する検討.” 運動疫学研究 21.1 (2019): 20-27.を一部改変 * 群間に有意差あり(p<0.01)

この結果から、以下のことが考えらます。

年齢を重ねるほど、減少量は増大傾向に

40歳代から60歳代にかけて、次の年代(群)との間には統計的な有意差はありませんが、表の3行目の数値から年齢を重ねるほど、変化量が大きいランナーが増える傾向があります。40歳代前半の場合、変化量が多いランナーでも-4.67m/分ですが、50代後半では-8.88m/分、60代前半では-10.70m/分となっています。

70歳前後で減少スピードが加速

図1中の赤字で示した65-69歳(60歳代後半)と70-74歳(70歳代前半)の群との間で、統計的にも有意な差を示す大きな速度の減少が見られました。つまり、70歳前後に加齢による減速が、この対象者中で最も大きくなります。

なぜ、この年代になると変化が大きくなると考えられるのか。
Aging研究の考察では、

  • 最大酸素摂取量の減少が顕著³⁾
  • 疲労回復の遅延・故障確率の増加によって、トレーニング負荷(量・質)の維持が困難³⁾⁴⁾

という課題があげられました。

以上から、Aging研究では

❝トップレベルの中高年(40歳以上)男性マラソンランナーにおいては、加齢に伴い1年当たりのマラソン平均速度の減少量が徐々に増大し、70歳前後を境に加速する

ということが示唆されました。なお、Aging研究では以下の点が考慮されていないため、結果の解釈には注意していただきたいと思います。

  • ランナー全体の検討ができていない
  • 女性の検討ができていない
  • 年齢・マラソンの記録以外の情報を集められていない

重要なのは、負荷と回復のバランス作り

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では、この研究の結論から、パフォーマンスの下降に対してどんな対策を打っていくことができるでしょうか。先述したように、ランニングのパフォーマンスを決める要素は、大きく分けて3つあります。そのうち、ランニングパフォーマンスと関連が強いのが最大酸素摂取量と考えられています。

乳酸性作業閾値(LT)は、加齢による減少量は最大酸素摂取量よりも小さいとされています⁵⁾⁶⁾。また、ランニングエコノミーについては、年代間での違いはないとされています⁷⁾⁸⁾。そうなると、残りの1つの要素となる最大酸素摂取量がランニングパフォーマンスの低下に強く関わっていることがうかがえます。そのため、これらの最大酸素摂取量以外の2つの要素も押さえつつも、最大酸素摂取量の減少を抑えるランニングがキーポイントになります。

最大酸素摂取量の減少を抑えるには、『怪我をせずに、いかに継続できるか』。ランニングで良い刺激を得たとしても、体が修復しなければ怪我につながってしまいます。日頃からストレッチを入念に行うこと、ランニング後の栄養バランスの取れた食事、そして休養の時間と質が重要になってきます。また、マイナス要素として日頃の食習慣、仕事の業務時間や業務量、家庭環境、不活動の蓄積なども負担になると言われています。これらのバランスを整えながらランニングを行えば、ランニングを継続でき、日常の充実にもつながります。

現実から未来を考えるきっかけに

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今回の研究からは、70歳前後を境にマラソン記録が急激に落ち込むことが示唆されました。それ以前では、緩やかではあるものの、スピードの落ち込みがあることが見られました。

歳をとるにつれて、パフォーマンスの下降は避けられないのかもしれません。しかし、速さや記録の伸びだけが、走ることで得られるベネフィットなのでしょうか。長期的に、健康に、人生を楽しむためにも、数年後、数十年後の自分が『どう在りたいか』をイメージしながら、今のランニングスタイルを見直してみるのも良いかもしれません。年代によってスタイルを変える、そんな楽しみ方もありますね。

「70歳近くまで、まだまだやれるかもしれない」
「ここまで頑張ってきたから、違う楽しみ方にシフトしていこうかな 」

シーズン前の今だからこそ、考えてみてはいかがでしょうか。
誰かと比べることなく、あなたに合ったスタイルでRuntripを楽しみましょう!!

参考文献

¹⁾ 中沢孝, et al. “年齢別 100 位以内を維持する中高年男性マラソンランナーの加齢に伴うパフォーマンス変化に関する検討.” 運動疫学研究 21.1 (2019): 20-27.
²⁾ ビクター・カッチほか(2017)『運動生理学事典―健康・スポーツ現場で役立つ理論と応用』(田中喜代次ら訳)西村書店.
³⁾ 小林ら,(1985)『高齢者の運動と体力』,朝倉書店.
⁴⁾ 山口ら,(1997)『フルマラソン100回完走者に関する研究』,明治大学人文科学研究所紀要第四十二冊.
⁵⁾ Posner JD, Gorman KM, Klein HS, et al. Ventilatory threshold: measurement and variation with age. J Appl Physiol. 1987; 63(4): 1519-25. 
⁶⁾ 竹島伸生,小林章雄,田中喜代次,他.中高 年ランナーの最大酸素摂取量と乳酸性閾値 ―加齢に伴う変化―.体力医学.1989; 38(5): 197-207. 
⁷⁾ Quinn TJ, Manley MJ, Aziz J, et al. Aging and factors related to running economy. J Strength Cond Res. 2011; 25(11): 2971-9. 
⁸⁾ Beck ON, Kipp S, Robyet JM, et al. Older runners retain youthful running economy despite biomechanical differences. Med Sci Sports Exerc. 2016; 48(4): 697-704.

   
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