フルマラソン3時間8分のシンガーソングライター・SUIさんを支える成功体験

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『シンガーソングランナー®︎』という新しいジャンルを確立し、次々に活躍の場を広げている人がいる。ミュージシャンで、シンガーソングライターのSUIさんだ。

昨年、『Singer Song Runner』というアルバムをリリースするなど、ランニングに関する楽曲も多く手掛けているSUIさんは、大阪国際女子マラソン(フルマラソンのタイム3時間10分以内が出場資格である)にも出場する実力派ランナーでもある。

地元愛から『千住で会おうよ』という歌も作ったSUIさんに、その北千住の街でこれまでの歩みをうかがった。

初めての完走がやればできると教えてくれた

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きっかけは、よくあるパターンだった。ランニングを始めたのは、いわゆるダイエット目的。“女子あるある”である。今から9年前。SUIさんは自分のライブでの写真を見て『これではいけない』と思っていた。現在の、月間約250㎞の走り込みと週2回の筋トレで、スレンダーに引き締まった体つきからは想像しにくいが、「あの頃は、今より10㎏近く太ってましたね」。
この2年前(2007年)に『東京マラソン』がスタート。巷にはランナーが一気に増えていた。SUIさんは「そういうムードに後押しされたところもありました」と振り返る。

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ところが、いざ走ると、少しの距離で体が悲鳴を上げた。無理もない。日頃の運動不足に加え、学生時代スポーツと無縁だったSUIさんには、 “ベース” と呼べるものもなかったのだ。それでも、初レースの『タートルマラソン国際大会』に向けて練習を重ね、10㎞の部で完走。「ランニングを始めたばかりのときは、はるか彼方だった」という距離を走り切った。

初完走は、SUIさんにとって1つの『成功体験』でもあった。

「わたしには、それまで胸を張って『成功体験』と言えるようなものはありませんでした。でも、一生走れるはずがないと思っていた10㎞を完走したとき、わたしでもやればできるんだな、と。大きな力をもらえたんです」

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以降、SUIさんはランニングでの『成功体験』を積み重ねていく。まったく自信がなく、指を震わせながらエントリーのクリックをしたハーフを完走。やがてフルマラソンにも挑戦し、初フルとなった2012年の『東京マラソン』でも、3時間56分といきなりサブ4のタイムでゴールした。

もちろん、そのために準備した。

「ランニングのいろいろなメソッドが浸透していたので、それを参考に。もっぱら独学ではありましたが」

さらなる『成功体験』のため、初フルを完走した年には『四万十川ウルトラマラソン』に挑戦し、100㎞の部でも完走した。

ランニングの経験がミュージシャンとしての背中を押す

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ランニングを始めた当時、SUIさんはミュージシャンとしての方向性に悩んでいた。

「小さな光が見えてはまた消える……。そんな感じでしたね。作った曲も、そういう心境が表れていたものが多かった気がします」

SUIさんが音楽の道に入ったのは、21歳のとき。前年に父親が他界したのを機に「表現活動をしたくなったんです」。もともとSUIさんには「父親といっしょに飲食店をやりたい」という夢があった。だが、それが叶わなくなり、「では、どうするかと自分に問いかけ、導き出した答えが音楽を通した表現活動だったんです」。

とはいえ、SUIさんはそれまで音楽に縁がなかった。子供の頃に楽器を習っていた経験もなく、「ピアノは、鍵盤が光るピアノで勉強しました」。

仕事とした選んだ音楽と、趣味で始めたランニングをいっしょにはできないが、音楽もまた、全くゼロからのスタートであった。

ミュージシャンになって6年目。岐路に立っていたSUIさんの背中を押してくれたのが、ランニングでの『成功体験』だった。

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「走るとき、今日は何キロ走ろうと目標を立てて、それをいい形で走り切れたら、それも小さな『成功体験』だと思います。そして、これを積み重ねていった先にあるのが、フルマラソン完走や自己ベストの更新といった、大きな目標の達成かと。仕事も同じで、いきなり大きな目標や夢に達しようと考えないで、小さな『成功体験』を積み重ねていくことが大事だと思えるようになったのです」

現在は、招待された大会で、ギターを手に自分の楽曲を披露することが多いSUIさんだが、実はギターが弾けるようになったのは、ランニングを始めてから。ランニングで『成功体験』を重ねたことが、新たなことに挑戦する意欲をもたらしたのだろう。

「フルマラソン完走やウルトラ完走、自分には絶対できないと考えていたことができて、自分には向いていないとか、得意でないと決めつけていたことも、本当はやらなかっただけでは……と思うようになりました」

ランニングを始めたからこその、こんないいこともあった。

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「『四万十川ウルトラマラソン』に出場したのは、高知に住んでいる祖母に会えるからというのもありました。おばあちゃんは、この2年後に亡くなったので、もしランニングをしていなかったら、元気な姿にたぶん会えないままだったでしょう。初のウルトラだったそのレース自体は、ただただ辛かった記憶しかありませんが(笑)」

SUIさんは『ゴールドコーストマラソン』など、海外の大会も走っているが、『四万十川ウルトラマラソン』が一番印象に残っているという。

走って得られたものを各方面から発信し続けていきたい

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ランニングでの体験は、シンガーソングライターとしての楽曲作りにも影響を及ぼした。
たとえば、全ての走る人への応援ソングともいえる『チャレンジャー』(※7/23から始まる『全国ボートレース甲子園』の公式テーマソング)には、 “流したあの汗はいま報われる” という歌詞があるが、こんな思いが込められている。

「努力は何かの形で結果になる。その時は思った結果ではなくとも、あと一歩もう一歩と諦めなければ、報われる日が来る。そう思ってこの曲を歌っています。それと、ミュージシャンである自分に対するエールですね。かつては、いくら頑張っても報われないと考えていた自分がいましたが、いまは何があってもゴールを目指していくつもりです」

SUIさんがこれまで手掛けてきたランニングが関係した楽曲は、10曲以上に及ぶ。昨年8月には、『Singer Song Runner』というアルバムをリリースした。

SUIさんの歌で、幅広く知られているのは『千住で会おうよ』だろう。JR北千住駅前の大型ビジョンで毎日、それも1時間に2度流れる曲である。これには、SUIさんが高校時代から住んでいる足立区千住への愛が溢れているが、「千住は、是非ランナーに来てほしい街なんですよ」と言う。

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「走るのに快適な河川敷があるし、ランの後に行きたい銭湯もたくさんあります。千住で行われる『タートルマラソン国際大会』も『足立フレンドリーマラソン』も、とてもアットホームないい大会です」

SUIさんは、4年前に“シンガーソングライター”から、『シンガーソングランナー®︎』になった。『シンガーソングランナー』という呼称は、SUIさんによって商標登録されたが、これは「誰もが自由に『シンガーソングランナー®︎』という肩書きを使えるようにするためだった」という。

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「どなたが独占的に使用するものではない、と思ったからです。歌うことも走ることも、発散できて体にいいことだし、楽しいこと。誰でも『シンガーソングランナー®︎』になれるんです。歌うこと、走ることの素晴らしさを伝えていきたいですね」

シンガーソングライターとしての大目標は、大みそかの『紅白歌合戦』出場とアジアツアーの実現。
ランナーとしてのそれはサブ3だが、「タイム以上に大きな目標にしているのが、ランナーとして得られるものを発信し続けていくことです」とSUIさんは話す。

現在は、ツイッター、フェィスブック、インスタグラムはもちろん、ユーチューブでも『ランニングユーチューバー』として『UtaRunチャンネル』を開設。SUIさんが感じたランの魅力を広く伝えている。

『投打二刀流』ならぬ、歌とランの二刀流で、さらなる高みを目指している。どこまでも上っていきそうなSUIさんの今後に注目だ。

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本名・大地穂(おおち・すい)。東京都出身。歌い、走り、熱く生きる、シンガーソングランナー®︎。時に力強く、人生を走り続ける人への応援ソングを歌い、時に優しく、人に寄り添う歌を歌う自身も、常に歌い走り、新しい世界を創ることへの挑戦を続けている。地元・北千住の歌、『千住で会おうよ』は、駅前大型ビジョンでも流されている。2017年、2018年には、北千住にて天空劇場コンサート『千住で会おうよ』を開催。2010年より始めたランニングでは、2018年の『名古屋ウィメンズマラソン』で自己ベストの3時間8分40秒で完走。また2017年には『柴又100K』にチャレンジランナーとして出場し、9時間24分30秒で完走、サブテンを達成した。これまでフルマラソンは30回以上、ウルトラマラソンは4回完走している。ランニング専門誌『ランナーズ』のランニング親善大使として2年間活動した経験もある他、歌うランチューバーとして『UtaRunチャンネル』を開設し、YouTubeを通して音楽と走る楽しさを届けている。

(写真 Eliana

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