2019年4月11日

楽しく走ることが誰かを救う…『PARACUP』が果たした役目

「楽しく走ることが誰かを救う…『PARACUP』が果たした役目」の画像

大会に参加して走ることがそのままチャリティになる。そんな大会があるのを知っているだろうか。今年15回目を迎える『PARACUP』(パラカップ)である。

『PARACUP』では、寄付金を募るのではなく、参加費の4割程度が、世界の子供たちに贈る寄付金になる。つまりチャリティを意識することなく、自然とチャリティに協力できるのだ。最近はチャリティを絡めたランニング大会が増えているが、こういうシステムの大会はおそらく『PARACUP』だけだろう。

『PARACUP』の代表である、一般社団法人PARACUP代表理事の森村ゆきさんに、チャリティや運営の意義、大会を15回重ねてきて感じていることなどについて、お話をうかがった。

15年前のホノルルマラソン参加が大きな分岐点に

始まりはホノルルマラソンだった。2004年、森村さんは友人たちとホノルルマラソンに参加した。社会人になってからは仕事が忙しく、ほとんど運動はしていなかったが、もとは『体育会系女子』。中、高、大とバスケットに打ち込んでいた。
初めてのフルマラソンは、森村さんにとっても、たやすいものではなかった。それでも一歩ずつ足を前に運んでゴールすると、感動の中で、2つのことに気付いたという。

「1つは、バスケで培ってきた経験を活かせた、ということです。頑張れたのは、体の中に“頑張る力”が培われていたからだと」

もう1つは、こうした、体の底から頑張るという経験は、なかなか仕事ではできない、ということだった。「会社員として、しゃにむに働いてはいましたが、その頑張りとは明らかに異なる」と。ただ、マラソンを走ったことで、森村さんには「仕事も含めてもっと頑張れる、もっと頑張ろう、という意欲が湧いてきた」のだそう。

フルマラソンを走れば、何かに気付く、何かが変わる――。森村さんは一緒に走った友達と「友人・知人にホノルルマラソン参加を呼びかけよう」と盛り上がる。やがてそれは「日本にもこういう大会があればいいのに」となり、「自分たちでこういう大会を作ろう」に発展していく。その頃、日本では今ほどマラソン大会が盛んではなく、フルマラソン完走者は身近ではまだ稀有な存在だった。

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ホノルルマラソンが一大転機となった森村さん

これほどチャリティを理解してくれる人がいるとは

森村さんたちは、さっそく大会の創設に向けて動き出す。とはいえ、ノウハウはない。
当然のことながら、はじめは何から何まで全て、手探り状態だったという。課題も山積していたが、一番はどうやって参加者を集めるか、だった。森村さんは大会にチャリティをからめることを思いつく。

「わたしと創設者の何人かは、もともとフィリピンの子供たちを支援する団体に所属していて、チャリティのクリスマスパーティといったイベントを行った経験があったので。チャリティの大会にすれば、走るのが苦手な人も参加してくれそうだし、団体の寄付集めのイベントとして運営できるかも、と思ったのです」

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『PARACUP』で挨拶する森村さん

第1回目の『PARACUP』が行われたのは2005年5月。参加者は500人で、100万円の寄付金が集まった。ちなみに大会名の『PARA』は、森村さんによると「よくパラリンピックの“パラ”と勘違いされる」ようだが、そうではなく、「“あなたのために”という意味がある、フィリピン語の“パラサイヨ”からきています」

フィリピンだけではなく、支援団体を広げ、大会名を現大会名の『PARACUP〜世界の子どもたちに贈るRUN〜』に変更した翌年の第2回大会には、倍の1000人が参加し、寄付金は165万円に。以後、大会は回を追うごとに成長し、3000人以上が参加した2009年の第5回は、寄付金が1000万円に達した。

そして、2010年には一般社団法人PARACUPとして法人化。同年の大会では参加者は3600人に。その後も参加者は増え、過去最大は6500人。寄付金は5月5日に行われる今年の大会で、累計金額、1億円を目指している。大会当日は参加者から、年賀状などの書き損じハガキなども集めて寄付にまわしている。

森村さんは「正直、これほどチャリティに理解を示してくれる人がいるとは思いませんでした。『PARACUP』は、チャリティをしたいから、と参加してくれる初心者ランナーが多いんです」と言うと、こう続けた。

「ただ、ではその人たちが、2千円の街頭募金をするか、といったら、それはなかなか難しいと思うんです。わたしもチャリティ活動に携わるまでは、チャリティは果たして……と、どこかで疑念がありましたし。でも、『PARACUP』は、自分が走ることが、自分が楽しむことが、自然とチャリティになる。手前味噌ですが、その仕組みが良かったのだと思っています」

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『PARACUP』は年々規模が拡大していった

ボランティアも大会に参加して、大会を楽しむ

運営には他の大会がそうであるように、『PARACUP』でも、ボランティアの尽力が欠かせない。毎大会、多い時には500人のボランティアスタッフが、給水や距離表示などを行い、大会を支える。

他の大会と違うのは、いや他の大会では例がないと思われるのが、ボランティアをするのに参加費として1000円払う、ということだ。うち半分は参加賞のTシャツ代、もう半分がチャリティに回るのだという。そこには様々な意見はあるが、ランナーの参加費にチャリティが含まれているため、ランナーの参加費からボランティアのTシャツの費用を捻出するのではなく、ボランティアも参加者としてTシャツを買ってもらい、寄付もしてもらもらえたら、という思いが込められている。それでもボランティアを志願する人はたくさんいるという。

「本当にありがたいことです。『PARACUP』の参加者は20代から40代の方が多いんですが、ボランティアも若い方が多いですね」

お金を払ってまでボランティアをしてくれる、チャリティに協力してくれる。だから、森村さんは、ボランティアスタッフにも、大会を目一杯楽しんでほしい、と思っている。

「もちろん、ボランティアは大会を支える側ですが、ボランティアの人も、走らないけど、大会に“参加”してほしい、と。1日終わって、ああ、疲れたな、ではなく、ボランティアをして良かったな、楽しかったな、と思って、帰ってほしいんです」

ボランティアが大会を楽しむために行っている1つが、『PARACUP』名物の『ニックネームラン』だ。一般的な大会では、ゼッケンに番号しかないが、これでは誰だかわからず「ガンバレ」としか応援しかできない。そこでゼッケンに、ニックネームや名前を記しているのだ。

「名前で声掛けしたほうが楽しいですし、参加者も名前を呼ばれたほうが嬉しいですからね。それで双方のコミュニケーションが取れるところもあると思います」

森村さんはボランティアも、チャリティも、結局は“楽しくなければ続かない”と考えている。もっとも、その“楽しさ”は、仲のいい友達と過ごす時間の“楽しさ”とは異なる。

「やりがい、とか、人としての成長意欲、といった類の“楽しさ”だと思います。これはボランティアやチャリティに限った話ではなく、“楽しくなければ続かない”のは、お金はいただいていないわたしたち運営サイドも同じ、だと思っています」

参加者も、ボランティアも、運営事務局も、積極的に大会を楽しむ。みんなが楽しんでいるから、その相乗効果で、『PARACUP』にはいつも笑顔があふれている。森村さんは「大会当日、たくさんの笑顔に出会えるのが何よりも嬉しいですね」と顔をほころばす。

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インタビューに快く対応してくれた森村さん

参加者に人気なのが、参加賞の『首飾り』だ。これは支援先である児童養護施設の子どもたちが、支援のお礼に、と手作りしたもので、第1回大会から参加賞になっている。現在は各支援先の子供たちが描いたイラストがプリントされている。『首飾り』は当日の労をねぎらう『ボラスタ感謝式』で、ボランティアスタッフにも贈呈される。

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参加賞は子供たちが手作りした首飾り

こうした一方で、森村さんら運営スタッフは毎年、支援先の1つであるフィリピンに渡航。現地の子供たちと交流を深めている。2015年にはフィリピンから、2人が来日。『PARACUP』を見た2人は「自分たちのために、これほど多くの人が走ってくれていると、とても感動していました」。

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2015年には支援先のフィリピンから2人の女の子が来日した

惜しまれつつも使命を終えるチャリティ大会の先駆者

2011年の東日本大震災の年には、被災した方の支援も行った。

「この年は、『PARACUP』の開催が震災の3週間後だったので、中止にすべきという意見もありました。一方で、東北を支援すべきという意見もあり、急きょ、『震災支援ウォーク』を実施したところ、支援金が120万円集まりました」

震災の翌年からは、宮城の被災地の復興のお手伝いになれば、と『PARACUP SENDAI in SENDAI AIRPORT』を開催。こちらは2016年まで続いた。

大会運営のノウハウを積み上げた森村さんのもとには、新しい大会を計画しているところから、力になってほしい、という依頼も来る。『RunGirl★Night』(昨年の第9回大会で終了)では立ち上げに関わり、『東北風土マラソン』では、その立ち上げの中心になり、現在も運営に携わる。ちなみに『東北風土マラソン』は、宮城県登米市で開催される、宮城県内唯一のフルマラソンコースを含めたファンラン大会。春の東北の田園風景の中を、2㎞ごとに東北各地の名物グルメを食べ、日本酒の仕込み水を飲みながら走る楽しみを存分に味わえる。

森村さんは、フルベストが3時間12分というランナーでもある。

「『PARACUP』にだんだん、シリアスランナーが参加してくれるようになりまして。“その世界も知らないと”とそこから真剣に走るようになったんです」

子ども時代を過ごした、神奈川・横須賀。「子供の頃からよく走っていたので、横須賀を走ると気持ちいいんです」
参加者としては、地元の方が温かくて手作り感のある『小布施見にマラソン』がお気に入り。

さて、『PARACUP』は、残念ながら、今年の第15回大会を持って幕を閉じる。

「マラソン大会を通じてのチャリティという部分では、とりあえず、役割を終えたかと。このところ規模の大きい大会でもチャリティを行っていますし…ですが、チャリティ活動は今後も続けていくつもりですし、ランニングを通してのチャリティを、現在模索しているところです」

惜しまれつつも、チャリティ大会の先がけとしての使命を終える『PARACUP』。笑顔が笑顔を呼んだその功績は、あまりにも大きい。

PARACUP2019 開催概要

※下記内容は予定内容のため、変更となる場合がございます。あらかじめご了承ください。

■大会名:PARACUP2019~世界の子どもたちに贈るRUN~
■開催日時:2019年5月5日(日・祝)
■主催:一般社団法人 PARACUP
■種目:ハーフマラソン ※中学生以上/ リレーマラソン(2時間・2kmコース) ※小学生以上の2~5名チーム/ 5km RUN ※小学生以上/ 親子RUN(400m) ※未就学児1名と伴走者1名のペア/ キッズRUN(1km) ※小学生以下
■会場:川崎市古市場陸上競技場
■コース:神奈川県川崎市 多摩川河川敷マラソンコース [古市場陸上競技場スタート]
■エントリー期間:ランナー:2019年1月18日(金)10:00~2019年4月14日(日)23:59
※親子RUNは定員に達したためエントリーを締切
ボランティア:2019年1月18日(金)10:00~2019年4月14日(日)23:59
■エントリー:ランナー・ボランティアとも下記エントリーサイトにて。
・MSPO:https://entry.mspo.jp/entry/common/event.php?evcode=PC19
・Sports navi Do:https://dosports.yahoo-net.jp/events/78535

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森村ゆき(もりむら・ゆき)1974 年12月30日生まれ。神奈川県出身。中学、高校(千葉・八千代高)、大学(日本女子体育大)ではバスケットボールに打ち込む。大学卒業後は会社員に。30歳目前で参加したホノルルマラソンに感化され、翌年2005年に『PARACUP』をスタートさせ、一般社団法人PARACUP代表理事に就任。2012年には『PARACUP SENDAI in SENDAI AIRPORT』を開催。★Run for Smile 株式会社の代表取締役として、『東北風土マラソン』の立ち上げにも携わった。

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