マラソン1カ月前にできること……スタンフォード大トレーナーから教わる呼吸法
Feb 10, 2019 / HOW TO
Apr 26, 2019 Updated
いよいよ東京マラソン2019(3月3日(日)開催)が迫ってきた。12.1倍という抽選倍率を突破して出場権を得たランナーは、今からワクワクしているに違いない。
東京マラソン2019の号砲が待たれる中、東京マラソン2019のオフィシャルパートナーであるアメリカン・エキスプレスが、2月26日、都内のランナーズサテライト『JOGLIS(ジョグリス)』で、スペシャルランニング講座を開催した。
テーマは“東京マラソン1カ月前からできる疲れない体作り”。米スタンフォード大・アスレチックトレーナーで、『スタンフォード式疲れない体』(サンマーク出版)の著者としても知られる山田知生氏が講師を務め、抽選で選ばれた15名の参加者にメソッドを伝授した。
そこでその内容を、この講座のレポートを通してお伝えしたい。
東京マラソンには出場しない(あるいは当選しなかった)ランナーにも、きっと参考になるはずだ。
1カ月間、呼吸法を鍛えれば、様々な効果が期待できる
東京マラソン、あるいは自分にとって大事なレースまであと1カ月というとき。「まだ1カ月ある」ととらえるランナーもいれば、「もう1カ月しかない」ととらえるランナーもいるだろう。残り1カ月のトレーニングプランもまちまちだと思うが、いずれにしても残されているのは、“1カ月”だけ。この限られた期間に、大幅なパフォーマンスの向上はなかなか望めない。だとしたら、何をすればいいのか?
山田氏によると、それは「仕事を含めた私生活でも、トレーニングでも、疲労を残さないようにすること」だという。2002年より『世界最強のスポーツ大学』と呼ばれるスタンフォード大で、アスレチックトレーナーを務める山田氏は、「運動・栄養・休息・マインドの4つの持ち方、バランスが大切です」と続ける。
そして、この上で、山田氏が長年の臨床経験をもとに提唱している『IAP呼吸法』を教えてくれた。ストレッチや筋トレは、1カ月やっただけでは効果が出にくいが、呼吸法なら1日でマスターできる。1 カ月続ければ、つまり1 カ月の間、呼吸を鍛えれば、かなりの効果を上げられるという。
「自律神経に影響を及ぼすことで得られるリラックス効果や、酸素が体中に行き渡ることも期待できます」
詳しくは、山田氏の著書を参照願いたいが、具体的には、横隔膜の上下動を意識しながら、腹圧を高めたまま呼吸するのが『IAP呼吸法』だ。
参加者はヒザを立ててあお向けになった状態で、あるいはうつ伏せになって両肘と両ヒザで支える状態で、しっかり吸うことと、吐くことを意識しながら『IAP呼吸法』を体感した。
参加者からは「首が長くなって、背が伸びた気がする」「姿勢がよくなった感じがする」という声が。もちろん効果には個人差があるが、“呼吸を意識するだけで変わる”ことを実感したようだ。
呼吸を鍛えるためには、前述のやり方で、4秒吸って、6秒吐いて、5秒くらい止める、を1日6~8セット行うといいようだが、いきなりは難しい。
「入門編として、『5秒吸って5秒吐く』を、朝、走る前、走った後、寝る前に、それぞれ数回ずつやることから始めるといいでしょう」
これなら誰でもできるのではないだろうか。
呼吸法というと、思い浮かぶのが、大河ドラマ『いだてん』の主人公として脚光を浴びる金栗四三が、試行錯誤の末に生み出した「スッスッ ハッハッ」だ。講座の参加者からも山田氏に「あの呼吸法はどうなのか?」という質問がなされた。
これについては「呼吸法は、胸式、腹式、ドローイン、そしてIAPと、時代によってベターとされるものが変わってきているので、先人の呼吸法は否定できない」という答えが。ただ、今は「周りに聞こえない、静かな呼吸法がいいとされています」
情報を取捨選択するには基本的なことを知る必要がある
講演の後半には、元ワコール女子陸上部の湯田友美氏が登場。山田氏とトークセッションを行った。
2007年の全国都道府県対抗女子駅伝では、29人のごぼう抜き記録を達成した湯田氏は、2010年に現役を引退。現在は、アディダスのランニングアドバイザーも務め、市民ランナー向けレッスンや講演などで、幅広く活躍している。
「現役時代は感覚で走ることが多かったので、今回の講義は役に立ちました」と切り出した湯田氏は、山田氏を質問攻めに。その全てが、市民ランナーが聞きたいことを代弁したものだった。
印象的だったのが「(トレーニングなどの)情報がたくさんある中、何を信じればいいのか」という質問。
山田氏はこれを受けて「(トレーニング方法はいろいろあるが)基本的なことは全て知っておいたほうがいい(つまり、勉強する必要がある)。その上で(流行りだからと流されることなく)自分がいいと思うものを取り入れてください」と、回答していた。
情報が氾濫している今だからこそ、市民ランナーも取捨選択する能力が求められている。
講座の後は、湯田さんを先頭に皇居1周のランニングへ。湯田さんからアップの手ほどきを受けた参加者は、冷たい空気が肌を刺す中、楽しそうに走っていた。
参加者の頭の中には講座の内容があったに違いないが、ランニング中に呼吸法を意識するのはNG。走っている時は『普段の生活通りのリラックスした呼吸』がいいそうだ。
「例えばウエートである部位を鍛えるときはそこを意識しますが、いざ競技をするときはそこばかり意識しないでしょう。それと同じです」
今回の講座は参加者にとって、呼吸について深く考えるいい機会になったようだ。
ラン歴2年で、こうしたランニングセミナーに参加するのは初めて、という小尾(おび)香織さんは、次のように話してくれた。
「呼吸は1日24時間ずっとしているので、意識を変えれば、その小さな積み重ねが大きな力になって体に作用するとわかりました。横隔膜を意識した呼吸法で疲れない体を作り、走行距離を伸ばしていけたらと思います」
小尾さんは、事前に山田氏の『スタンフォード式疲れない体』を読んでいたため、講座の内容もスムーズに理解できたようだ。
折しも『いだてん』の影響で、呼吸法の関心がランナーの間で高まっている。あなたも一度、呼吸について見直してみてはどうだろうか。