視覚障がいのあるランナー村上さん×伴走M高史のかすみがうらマラソン

 かすみがうらマラソンと盲人マラソン

かすみがうらマラソンが冬のマラソンシーズンの締めくくりという人も多いのではないでしょうか。そんな、日本の“春のフルマラソン”の代名詞となっている、『かすみがうらマラソン 兼 国際盲人マラソン』。かすみがうらマラソンは、第5回大会(1995年)から『盲人マラソン大会』を併催しています。東京マラソンをきっかけとするマラソンブーム以前から、視覚障がいのあるマラソン選手とその伴走者にとっては大きな意味を持つ大会でした。

第5回大会では、“体験する福祉” “ノーマライゼーションの実践”をテーマに併催し、大会全体で約7,800名以上がエントリーしました。1990年代としてはかなり多いエントリー数です。その中で、視覚障がいのあるランナー93人がゴールを目指しました。そして、翌年の第6回大会では『世界盲人マラソン大会』を併催し、世界24か国1地域から293人の視覚障がいのあるアスリートが参加。この時の大会から開催月を1月から4月に移行し、第18回大会(2008年)では、エントリー者数が2万人を突破しました。当時としては国内最大規模(国内3位)での開催となりました。現在でも、東京、大阪、那覇、横浜、湘南国際マラソンに次ぐ6番目のエントリー数を誇ります。

この大会を数年間、積極的にPRしているのが、ものまね芸人のM高史さんです。本大会の大会アンバサダーであり、2016年は動画撮影ラン、2017年はゴミ箱啓蒙ランを行い、かすみがうらマラソン大学(通称=かすマラ大学)の活動も積極的に行ってきました。本大会は、社会福祉の啓蒙活動を長く行っています。M高史さんは、ものまね芸人になる前は福祉関係の仕事に従事していたことに加え、視覚障がいのあるランナーの伴走者としてもキャリアを重ねていることから、今年は伴走を行うことになりました。

かすみがうらマラソンでの2016年の動画撮影ラン、2017年のゴミ箱啓蒙ランを通じて、「“自分の気づき”を今後の大会で生かしたいと思っています」といいます。本大会は国際盲人マラソンを併設していますが、一般的な知名度はまだまだ高くないようです。M高史さんは「『盲人マラソン』のアピールと伴走のやりがい」を伝えることを今回のコンセプトに掲げました。

視覚障がいのあるランナー、村上守さんの初マラソン

ランナーの村上守さんは、50歳の節目に今大会で初マラソンを走ることを決意しました。普段は自宅のトレッドミルで一人で練習している村上さん。目が不自由であることから、トレッドミルで走る際は片手でサイドバーを掴みながら走り、その手が疲れてきたらもう片方の手でバーを掴み直すといいます。そのようなトレーニングスタイルで週に4、5回ほど走っていますが、外で走る際は伴走者のサポートが必要になるため、外では滅多に走らないそうです。

「視覚障がいのあるランナー村上さん×伴走M高史のかすみがうらマラソン」の画像
初マラソンということもあり、最後尾のFブロックからのスタート

今までのレースでは最長で10マイル(16km)のレースしか出たことがなかった村上さん。ハーフマラソンさえも経験していなかったため、この大会に向けて、最初は5kmから10km、レースが近づくにつれてトレッドミルで20kmや25kmのロングランを行ったといいます。そして、今回の伴走者のM高史さんと、事前に外での練習を一度行ったそうです。

「前からマラソンをやりたくて、50歳の節目で決意しました。初マラソンに向けて不安でしたが、レースが近づくにつれて、“楽しく走ろう”という気持ちになってきました」

レース本番までの過程を、このように村上さんは振り返りました。

「視覚障がいのあるランナー村上さん×伴走M高史のかすみがうらマラソン」の画像
序盤は多くのランナーがひしめき合うが接触がないように伴走が適度に声をかける

レース前には激しい雨が降っていましたが、レース前にはすっかり止んで、走りやすいコンディションになりました。初マラソンの村上さんはフルマラソンの記録を持っていないので後方のFブロックから、スタートを切りました。8分37秒かけてスタートラインに辿り着き、村上さんにとって42.195kmの初チャレンジとなります。伴走のM高史さんも気合いが入ります。この2人を繋ぐのは1mほどの1本のロープを輪にしたもので、“きずな”と呼ばれています。2人はこのきずなとともに42.195kmを走ります。

今回の村上さんの目標は5時間切り。初マラソンで不安もあったでしょうが、今までの練習の成果はもちろん、M高史さんの伴走サポートを信じ、目標に向かって走り始めました。かすみがうらマラソン、国際盲人マラソン、かすみがうらウオーキング の各部門を含めて計16,509人が参加した今大会。後方のFブロックからのスタートとあり、前方には多くのランナーがひしめき合っています。村上さんとM高史さんは序盤の数kmを1km7分前後のペースで走り始めます。序盤は人が多く詰まって走りづらいものです。

「視覚障がいのあるランナー村上さん×伴走M高史のかすみがうらマラソン」の画像
1万人を超える参加者数ということだけあり、前方には多くのランナーが見える

伴走者であるM高史さんの重要な役割は、他の走者と接触しないように、走路の凹凸や落とし物に引っかからないための「安全確保と状況説明」です。全体のペースにあわせて走りつつも、後方集団は渋滞が起こりやすいので所々で接触の危険性に注意し、エスコートしていかなければなりません。M高史さんは村上さんに、わかりやすい表現で声を掛けます。

「前にランナーがいるので、2歩ほど右にずれましょう」

「前方に緩やかなカーブがありますので、2時の方角に曲がっていきましょう」

その他、時間を見てその時のペースを正確に伝えたり、どれぐらいの記録が出るなど、その時々の指標を伝えていました。渋滞が解消されてからの村上さんは1km6分10秒ペースをキープし、順調な走りをみせました。

M高史の“芸人”ならではの伴走術

「視覚障がいのあるランナー村上さん×伴走M高史のかすみがうらマラソン」の画像
カエルの鳴き声が聞こえるレンコン畑周辺

今大会の大会アンバサダーであるM高史さんは、村上さんの伴走者としてだけではなく、芸人ならではの盛り上げ方を演出していました。特に、キツくなってくる30km以降、何度も大きな声で周りのランナーたちを鼓舞していきます。

「みなさん30kmを過ぎました! ここからです! 頑張っていきましょう!!!」

M高史さんはレース後にその場面を、こう振り返ります。

「今回、伴走で村上さんに声をかけるときと、周囲のランナーを応援、鼓舞するときで、声のトーンや大きさを変えました」

村上さんへのサポートと、周りのランナーへの気遣い。そのどちらもこなし、メリハリをつけるのが“M高史さんの伴走術”というわけです。

「視覚障がいのあるランナー村上さん×伴走M高史のかすみがうらマラソン」の画像
給水では、歩きながら飲む村上さん

30km以降、表情が厳しくなってくる村上さんに対しても、励ましのエールを送り続けたM高史さん。村上さんもそれに応えるべく、ペースを維持します。終盤にかけて、村上さんとM高史さんのまわりには、たくさんのランナーが一緒に走っていました。M高史さんのエールによって鼓舞され、“初マラソンの村上さんと一緒に頑張ろう”という人々の集まりであったように、並走していた筆者の私は思います。そして……向かうはゴールのみ。

「視覚障がいのあるランナー村上さん×伴走M高史のかすみがうらマラソン」の画像
目標のサブ5を達成し満面の笑みを浮かべる2人

結果、ネットタイム4時間43分28秒(前半2時間19分+後半2時間24分)で、見事に5時間切りを達成した村上さん。

「初めてフルマラソンを走ってみて思ったのが、最初から最後まで周りにランナーが多かったです。最初はゆっくり、そこから徐々にペースを上げていって、30km以降は踏ん張って。そういったペースの上げ下げは、今までの練習で想定できなかったです。普段はトレッドミルの上を走りますが、色んなランナーの足音を聞けるのがマラソンの良いところで、私にとって刺激になりました。帰ったらビールを飲んで一杯したいですね」

とレース後に笑顔で話しました。そして、次のマラソンに向けても早速、意欲を見せていました。

伴走を終えたM高史さんは、

「フィニッシュで最高の笑顔を見せていただき、僕自身も最高にハッピーでした。自分のこと以上に嬉しかったです。人の脳は“自分の欲求を満たす”ことよりも“他者に貢献しているとき”の方が幸福度が高いと言われていますが、村上さんが笑顔でガッツポーズをして喜んでいて、ハッピーな気持ちになれました」

と話しました。

 

「視覚障がいのあるランナー村上さん×伴走M高史のかすみがうらマラソン」の画像
村上さんのネットタイムは4時間43分28秒で大幅に目標達成

「伴走者として村上さんのサポートが最優先でしたが、大会アンバサダーとして沿道のみなさんや、周囲のランナーを盛り上げるミッションも自分自身に課しておりました。 伴走と盛り上げの両方でお役に立てたなら、大会アンバサダーとしての務めが果たせたかなと思います。 また、ぜひ伴走に挑戦したいです。僕と村上さんの走りを見て、“来年は伴走してみたい”とFacebookでコメントいただいたので、輪が広がればさらに嬉しいです」

こう話すM高史さんは、2020東京パラリンピックにも、“伴走者”として出場することを夢に描いています。また、日本ブラインドマラソン協会 = JBMA(Japan Blind Marathon Association)では、伴走は“信頼と気遣い”とし、伴走者の技術向上や必要性の認知のため、伴走講習会の開催や参加を呼びかけています。今後、2020東京パラリンピックにおいても多くのサポートが必要とされます。サポート体制がより整えば、視覚障がいのあるランナーの活躍の場が広がり、市民ランナーも伴走者として活路が広がっていくでしょう。今後も本大会の取り組みに注目です。

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