アスファルトだけじゃなかった“生活のための道”【ノロミホの旅】
Apr 06, 2018 / COLUMN
May 21, 2018 Updated
走ることに慣れてくると、「ここは好きな道」「ここはあまり好きじゃない道」と、勝手に決めつけてしまう。なんだか、ちょっとわがまま。
道は、旅人にとってどれも同じ道。
「今日も世界の道は平和だった」と、フォトグラファー・ノロミホさんが教えてくれる。
【vol.4 :ヴェニスのようなインドの道】
南インドでしたいことのひとつ、バックウォーター。
バックウォーターとは、アレッピーからコーチンまで続く長い運河をボートで下るというもの。
出発地点のアレッピーは、町の中を運河が走り「東洋のヴェニス」とも呼ばれている。
興味津々、アレッピーへと向かった。
親切なおじさんにバックウォーター会社を紹介してもらいその場で交渉。
4時間のコースを3000ルピー(約5000円)で乗せてもらうことに。
嬉しいことに宿付き。
運転手は英語が苦手な白髪のおじいちゃん。
大人10人は座れそうな広々としたボートに乗せてもらう。
乗って早々、お腹が空いていたので運河沿いにある食堂に寄ってもらった。
出てきたのはバナナの葉っぱに並べられたミールス。
ミールスとは日本でいう定食のこと。
ケララ特有のぷっくりしたお米に、カツオの出汁がよくきいたフィッシュカレー。
ラッサム、サンバル、パイナップルが入ったココナッツのチャトニ、全部おいしかった。
お腹が満たされると、再びボートに乗ってのんびりと過ごす。
風がとても気持ちいい。
町の中を流れる運河はどこかのテーマパークのよう。
ヤシの木が続き、小さな家がポツポツと建っている。
長く張られたロープにはカラフルな洗濯物が干してあり、風でゆらゆらと揺れている。
犬が走り回り、鳥の鳴き声が響き、そのまま小人でも出てきそう。
これが東洋のヴェニスか。
思っていたよりずっと素敵。
私たちはボートの屋根に座ってそんな景色を飽きずにずっと見ていた。
時折すれ違うボートは、屋形船みたいなものからハウスボートと呼ばれる大きなものまで様々。
そのほとんどが観光客で、にこやかに手を振り合いのんびりと過ごしている。
楽園みたいな景色を前に、みんなここがインドだということをすっかり忘れているのだろう。
そんなまったりとした時間が流れ、いよいよクライマックス。
ボートは細い運河を抜け、海のような広い場所に着く。
さっきまでのジリジリとした日差しはいつの間にか消え、空気がシーンとなる。
そこに現れたのは大きな夕日。
眩しいほどの強い光で、辺り一面をオレンジ色に染めていた。
そんな運河も、ここに暮らす人たちにとっては生活するための道。
車やバスが船になっただけ。
雨が降ったり、風が強かったり、その道は時には不便かもしれない。
毎日変化する環境に苦労も多いだろう。
でも、どんなに便利で走りやすい道だって、この道には敵わない。