フルマラソン“30kmの壁”は〇〇の枯渇!?コンディショニングスペシャリストが解説する体内エネルギーの作られ方

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(左から)長谷川朋加さん、桑原弘樹さん

4月13日(土)に東京都内で開催されたセミナー『マラソンランナー必見!エネルギーを生み出す裏技とは?「身体の仕組みを学ぼう!」』。本セミナーではプロ野球・阪神タイガースのコンディショニングアドバイザーを務め、ランニングメディアでの連載など多数の実績を持つ桑原弘樹さんが登壇しました。

セミナーの中でキーワードとして存在する栄養素『還元型コエンザイムQ10』。桑原さんはフルマラソンに挑戦するランナーのコンディショニングに必要な栄養素であると言います。還元型コエンザイムQ10とはどんな栄養素なのか。マラソン後半での必要不可欠なエネルギーに関する知識とは。

司会進行を務めたのは日本一走るアナウンサーとして知られる長谷川朋加さん。多くのランナーの関心を集めたパフォーマンスを高めるコンディショニング方法について、当日のセミナー内容をお伝えします。

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スポーツには各競技に適した特性がある

長谷川:ランニングに励む方へ向けた、身体の仕組みを学ぶ今回のセミナー。キーワードは『コエンザイムQ10』です。なぜマラソンランナーにコエンザイムQ10が必要なのか、コンディショニングスペシャリストの桑原弘樹さんから教えていただきます。

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桑原:ボクシングや野球、サッカーやラグビー、アメフト、柔道、総合格闘技などーー。これまで私はさまざまなアスリートのコンディショニングをサポートしてきました。そのためランニングとは異なる、他の競技スポーツのノウハウをお伝えできるかと思います。

長谷川:では早速、ランナーのパフォーマンスを高めるコンディショニング方法について桑原さんからお話をいただきたいと思います。

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桑原:まずはじめにお伝えしたいことは、スポーツにはそれぞれの“競技特性”が存在するということです。

例えば多くの力士は大柄な体型をしていますよね。それは競技の特性上、大柄な体型の方が有利だから。対照的にランナーは走り込むほどに細身な体型になっていきます。

またゴルフは相対的に見て運動強度の低いといった競技特性があります。大きな筋パワーの発揮を必要としないため、80歳代のゴルファーが20歳代の若いゴルファーに勝利することも十分に考えられるのです。その一方で競技時間が長いといった競技特性も存在します。プロゴルファーの試合では昼休憩を除いて、およそ5時間も競技を継続しなければなりません。

運動強度が低く、競技時間が長い。これがゴルフにおける競技特性です。

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桑原:それでは相撲やゴルフとは異なる、ランニングの競技特性は何か。1つはトレーニング量がパフォーマンスと比例しやすい点だと思います。例えばゴルフでは適当にスイングを繰り返していても上達することはむずかしく、トレーニングでは量よりも質が重視されます。

しかしランニングは走った分だけ速くなりやすい。もちろんトレーニングの質も大切ですが、他のスポーツよりもトレーニング量でパフォーマンスを向上させやすいです。もう1つは体重です。一般的なランナーのBMI(身長と体重により算出される体格指数)は他の競技者よりも低くなっています。

たくさん練習して、身体が痩せていく。この2つがパフォーマンスの向上に大きく影響する点こそ、ランニングの競技特性なのです。

競技特性の“負の部分”をカバーする

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桑原:やみくもに多く走って、たくさん体重を落とすといった考え方だけでは、いつかパフォーマンスの向上が頭打ちになってしまいます。また多くのスポーツでは年齢に反比例して、発揮できるパフォーマンスが衰えていきます。これも競技特性の1つです。

そんな競技特性の“負の部分”をカバーすることが、パフォーマンスの向上に役立つのです。ランナーにおいて体重を減らすことはパフォーマンスによい影響を与えます。しかし体重を減らし過ぎてしまうと、競技特性の負の部分が出てきます。その証拠に世界大会で優秀な成績を残しているアフリカ勢ランナーのBMIは、日本人ランナーの一般的な値よりも高い人が多い。

つまりフルマラソンの競技特性に合った適正体重が存在しており、その値を下回るとむしろ負の部分が出てきてしまうのです。

長谷川:適正体重よりも軽い体重や、過度なランニングが生み出す負の部分とはどういった点でしょうか。

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桑原:1つ目は『エネルギーの不足』です。これがパフォーマンス低下の大きな割合を占めます。

2つ目は『活性酸素の生成』。活性酸素は老化を促進する物質であり、フルマラソンは他の競技と比較して、競技中に生成される活性酸素の量が多いです。

ただ活性酸素に関するケアを後回しにしてしまうランナーは非常に多いでしょう。体内の活性酸素を減らすために抗酸化系のサプリメントを使うのがおすすめです。しかし、値段も高いから、痛みのある筋肉のケアを優先して行ったりBCAA系のサプリメントやマッサージジェルを買うという考えになると思います。

3つ目は『免疫機能の低下』です。長時間のランニングは免疫に悪影響を及ぼしてしまうため、風邪などの体調不良を引き起こしやすくなってしまいます。フルマラソンはトレーニングの過程で免疫が落ちやすい競技です。免疫機能の低下に関するケアをしないと、積み重ねた努力が水の泡となってしまいます。

そんなフルマラソンの競技特性から、どのようにしてエネルギー不足や活性酸素のケア、免疫へのサポートに手を打つか。この3つに対応した対策を行うことで、これまでと同じトレーニングをしていてもパフォーマンスは向上すると考えます。

フルマラソンでは“ATP”を上手に作り続けることが大切

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長谷川:具体的にどうやってフルマラソン特有の負の部分を補う必要があるのでしょうか。

桑原:まずは先ほどパフォーマンス低下の大きな割合を占めると言ったエネルギー不足について解説します。

前提としてエネルギーは長時間にわたって身体に溜めることができません。グリコーゲン(糖質)や脂肪はあくまでも“エネルギー源”であり、エネルギーは目に見えるものではないのです。身体のATP(アデノシン3リン酸)でエネルギーが生成された後、そのエネルギーは1分程しか身体に留めることができないと言われています。

みなさん、呼吸は頑張っても1分程しか止めることができないでしょう。これは生命活動を維持するエネルギーを生成するために、多くの場合は酸素が必要だからです。エネルギーは身体に溜められないため、生きている間はずっと作り続けなければいけない。ちなみにエネルギーを生成するためのATPを作る能力が落ちることこそ“老化”です。

計算上、1時間トレッドミルで歩くと体内のATPは13kgも減ると言われています。しかし体重は13kgも落ちることはありません。なぜなら運動をしながら身体が13kg分のATPを作っているからです。

つまり、「どうやってATPを上手に作り続けるか」といった点がフルマラソンの大切な観点となってきます。

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桑原:ポイントはエネルギー源をしっかりと確保すること。ATPの材料は糖質やタンパク質といった、カロリーが存在するものです。どんなに良いビタミンやミネラルといった栄養素をサプリメントで摂取しても、ATPの材料にはなりません。

カロリーは糖質・脂質・タンパク質の3つに含まれます。これらは三大栄養素と呼ばれ、糖質を60%、脂質を25%、タンパク質を15%の比率で摂取すると、最も効率よくATPを作ることができると言われています。ちなみにタンパク質はATPではなく筋肉の材料となる物質です。ATPがスムーズに作られないと筋肉になるはずのタンパク質を犠牲にしてATPを作ります。

ランニング後は糖質の補充を欠かさないことが大切

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桑原:ランナーの中で『エネルギー=脂肪』と誤解している人は多いでしょう。

先ほどの比率にもあるように、エネルギーになる物質の多くは糖質、つまりグリコーゲン。ただグリコーゲンだけでは競技時間の長いフルマラソンを走り切れないため、足りない分を脂肪で賄うという背景があります。脂肪を効率よく燃焼させる前に、まず必要なのはグリコーゲンをどれだけ確保するかが大切です。

筋肉や肝臓にはグリコーゲンを貯蔵するタンクのようなものがあります。ただこのタンクを空っぽにしておくと、貯蔵できる量がどんどん小さくなってしまいます。そのため日常的にグリコーゲンを使ったらすぐ補充する必要があります。

ランニングをした後には必ずグリコーゲンが減少しているため、糖質が多く含まれたジェルやバナナを摂取することをおすすめします。トレーニング後はできるだけ早く糖質を摂取してほしいです。

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桑原:フルマラソンでよく言われる“30kmの壁とは、身体のグリコーゲンが枯渇してしまうタイミングを指します。30kmという計算はトップアスリートを基準にしているため、一般的には“90分の壁”とも言われています。

グリコーゲンが枯渇した後には、脂肪からエネルギーを生成することになります。脂肪はエネルギー源として大量にストックできるという利点もありますが、エネルギーへ変換するために時間がかかることは欠点です。

そのためフルマラソン前にはなるべく多くのグリコーゲンを蓄え、トレーニングの過程でグリコーゲンを貯蔵できるタンクを大きくする。そうするとパフォーマンスは向上するでしょう。

グリコーゲンをはじめカロリーのあるものが、どんどんエネルギーへ変わっていく。そのプロセスでビタミンやミネラルが複雑に絡み合っていきます。そのためピンポイントでビタミンやミネラルを摂取するのではなく、三大栄養素とともに摂取する必要があるのです。

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桑原:もちろんビタミンやミネラルを摂取するバランスも大切となってきます。たとえばミネラル群の1つであるカルシウムはマグネシウムとのバランスが存在する栄養素です。そんななかカルシウムばかり過剰に摂取していては、身体のマグネシウム量とのバランスが崩れ、相対的にマグネシウムが少なくなり不調をきたしてしまうこともあります。とくにサプリメントを多量に摂取することは、栄養素のバランスを崩してしまう危険性をはらんでいます。

そのためビタミンやミネラルといった栄養を摂ることのベースは、サプリメントではなく普段の食事となってきます。カルシウムを適切に摂取するために小魚を食べたり、マグネシウムを適度に摂るために海藻類を食べたりーー。その上で栄養が足りないのであれば、マルチビタミン&ミネラル系のサプリメントで補うことが推奨されます。もちろん毎日どんどんとサプリメントを摂るのではなく、1日の食事を振り返り、足りないなと思う栄養素を少量で摂取することが大切です。摂取するための細かい計算が必要なわけでもありません。

三大栄養素、そしてビタミンとミネラルが複雑に絡み合うことでエネルギーを生成するためのATPを作り出すことができるのです。

エネルギー生成において重要な役割を果たす「還元型コエンザイムQ10」

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桑原:ATPを作りだし、エネルギーが生成されていく過程は、食べ物をつくる工場で例えれば材料を加工していく第1工場と材料の仕上げを行う第2工場の2つに分かれます。その第2工場の過程こそが『電子伝達系』と呼ばれるエネルギー生成の最終工程となるのです。

じつはその電子伝達系はエネルギー生成の一連の流れにおいて最もハードルが高い過程なのです。この過程の一部に『還元型コエンザイムQ10』が存在していて、運ばれてきた栄養素は還元型コエンザイムQ10を媒介してエネルギーとなっていきます。

 

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桑原さんの解説により、身体のエネルギー産出の仕組みについて学んだ今回。次回以降は注目の栄養素『還元型コエンザイムQ10』の詳細、還元型がなぜランナーにとっていいのかといった解説をお届けします。

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