「休む=悪」ではない!片野秀樹博士が推奨する「攻めの休養」とは?
Dec 20, 2025 / COLUMN
Dec 20, 2025 Updated

株式会社ベネクス創業者・最高製品責任者であり、一般社団法人日本リカバリー協会代表理事を務める片野秀樹博士(医学)による講演会「『休養学』―リカバリーのための座学&ランイベント」が2025年10月に開催されました。本稿では片野博士の講演内容をもとに、アスリートから一般の方まで活用できる休養の考え方と実践方法を紹介します。
「休む=悪」という意識を変える

日本では「働くことの美徳感」が強く、休むことに罪悪感を持つ人が多いと片野博士は指摘します。しかし休養の本質は「レスト(単なる休息)」ではなく「リカバリー(次のための回復)」。より活動するために休む必要があるという意識の転換が重要であると話します。

健康づくりの3要素は「運動」「栄養」「休養」。「運動」は体育の授業、「栄養」は家庭科の授業で学ぶことが多い反面、休養について学校で習った経験がある人は少ないでしょう。
「リテラシーがないと、人は経験に頼ります。すると『子どもの頃は寝たら治った』という原体験に基づいて、何歳になっても『休養=睡眠』という発想から抜け出せなくなります」と片野博士。しかし多くの場合、体力は20歳がピークで、代謝も免疫も加齢とともに低下。睡眠だけでは十分な休養が取れなくなっていくのが現実です。

片野博士によると、疲労の定義は「過度の肉体的および精神的活動、または疾病によって生じた『独特の不快感』と『休養の願望』を伴う身体の活動能力の減退状態」。重要なのは、疲労は「状態」であり「溜まる」ものではないということです。
私たちが「疲労が溜まった」と表現しているのは、実は「疲労感(独特の不快感)」。疲労と疲労感は別物であり、この違いを理解することが重要だと片野博士は強調します。
動物は疲労感を感じると活動能力が下がっているため、本能的に動かず安全な場所で回復を待ちます。しかし人間は脳が発達したことで、責任感や使命感、あるいはカフェイン入り飲料などで疲労感をマスキング(隠蔽)できてしまいます。
「活動能力が低下し、疲労感だけをマスキングしたまま活動すれば、事故や怪我のリスクは当然高まる」と片野博士。一時的なマスキングは必要な場合もありますが、長期間にわたって疲労をマスキングすることは不可能。定期的にリセットする時間を意識的に作ることが大切だと説きます。

多くの人は朝に起きて、日中に活動を行い、夜に就寝するといった「活動→疲労→休養」というサイクルで生活していることでしょう。しかし片野博士によると「世の中の8割の人は休養後、朝起きた直後にも『疲れている』と答えている」。朝起きた時点で既に疲れている状態で活動を続けてしまうと負のスパイラルに入ってしまいます。

片野博士は「休養によって活動能力が増進・増幅した状態が活力。つまり、疲労の対義語は休養ではなく、活力です。この活力をしっかり意識した生活が必要」と説明。活力アップには、ただの休養ではなく「攻めの休養」、つまり自分から主体的・能動的に活力を獲得する姿勢が重要だと語ります。

実際にどのようにして「活力」を獲得すればいいのでしょうか? 片野博士は休養を3つのカテゴリー、7つのタイプに分類。それぞれを組み合わせることで、より効果的なリカバリーが可能になると話します。

まず休養の1つ「生理的な休養」として挙げられるのが、体を安静にしエネルギー消費を最小限に抑える「休息タイプ」。睡眠や横になることが該当し、多くの人が休養としてイメージするものでしょう。
同じく生理的な休養として、軽微な運動で血液循環を促進し、老廃物の回収と酸素供給を行う「運動タイプ」。激しい運動後に軽くジョギングしたり、柔軟体操を行う、いわゆる「アクティブレスト」が該当します。細胞が働いた後の老廃物を血液が回収し、同時に酸素を届けることで回復を早める効果があると片野博士は話します。
さらに生理的な休養としては、カロリーや糖質を控えめにし消化器を休ませる「栄養タイプ」も挙げられます。疲れたときにたくさん食べようとしがちですが「胃腸に負担をかけてしまい、かえってエネルギーを消費してしまう」と片野博士。お正月の三が日後に七草がゆを食べるのも、病気のときにおかゆを食べることも理にかなっていると話します。

休養の2つ目として片野博士が挙げる「心理的な休養」。その1つとして家族や友人との触れ合い、ペットとの時間、自然との接触を楽しむ「親交タイプ」があります。こどもとハグをする、パートナーと手をつないで出かける、愛犬の散歩をする、山や森林浴に行くといった行動が心の安らぎにつながるのです。
同じく心理的な休養として、読書や音楽鑑賞、映画やドラマ視聴など好きなことを楽しむ「娯楽タイプ」も効果的と片野博士。ただし夜通しで映像コンテンツを見続けてしまうようでは本末転倒。休養が目的であることを忘れず、ある一定時間で自分で止めることが大切であることを強調します。
料理や手芸など何かを作る活動、瞑想やマインドフルネスを行う「造形・想像タイプ」も心理的な休養に含まれます。難しく考える必要はなく、目をつぶって行きたい場所をイメージしたり、腹を抱えて笑った出来事を思い出したりするだけでも効果があると片野博士。電車内でスマートフォンを見るのではなく、窓の外の雲を眺めて何かの形を想像するだけでも立派な休養になると説きます。

最後に休養の要素として挙げられたのは「社会的な休養」、具体的には外部環境を変える「転換タイプ」です。海外旅行や温泉旅行など気分転換となるような行動をとることが該当しつつ、旅行以外にも「もっと手軽に考えて大丈夫」と片野博士。私たちの体と外部環境の境目は皮膚であり、例えば「目の前の机を整理整頓する」「部屋を掃除する」「衣替えをする」「快適な服に着替える」といったことでも外部環境の変化につながると話します。
「多くの方が無意識にこれらの休養法を実践しています。重要なのは意識化することで再現性が生まれること」と片野博士。例えば白湯やスープを飲む(栄養タイプ)、残り物で味噌汁を作る(造形・娯楽タイプ)、つくった味噌汁などをベランダや公園で飲む(転換タイプ・運動タイプ)、その際に自然や動物に触れる(親交タイプ)というように、一つの行動で複数のタイプを組み合わせることができます。
「意識して行動を変えることで、より積極的にリカバリーできます。これが『攻めの休養』。自分自身でリカバリーを獲得していくこと、自分に合ったものを軸にリカバリーを積み重ねていくことが休養のテクニックです」と片野博士は強調します。
「オフファースト」で時間をマネジメント

リカバリーの定義は「心身の活動能力の減退した機能を回復し、休養をもって生理的・心理的資本である活力を蓄えて次に備えることである」(日本リカバリー協会より)。EUでは1993年に勤務間インターバル(仕事が終わってから翌日の朝まで)を連続休息時間11時間と定める法律が制定されました。重要なのは時間の長さよりも、この時間帯のマネジメントを意識することであると片野博士。
「多くの日本人は残業で勤務時間を延ばし、結果的に睡眠時間を削っています。勤務時間が終わったところからがスタートラインという『オフファースト』の発想です。」(片野博士)
スマートフォンを前日から充電して朝100%にするように、自分の体も仕事が終わってから朝までの時間をどう使うかを考える。大谷翔平選手が12時間睡眠を取るのも、オフのマネジメントができているからです。プロフェッショナルに学び、自分なりのルーティーンを作ることが重要であると片野博士は話します。

では自分に合ったルーティーンをつくるためにはどうすればよいのか。片野博士によると1.自分がなにをやりたいのかといった「休養の目的を明確にする」、2.仕事などの活動が終わってから、次の活動のためにどのくらい休養をとればいいかを考えるといった「余白で充電量(活力)を意識する」、3.24時間・1週間単位でオフタイムをどのタイミングでとるかといった「オフタイムから仕事の時間を決める」の3点を明確することが大切とのこと。

加えて片野博士は自分の状態を把握する簡単な方法を3つ紹介。1つ目は日本疲労学会が公式に提供している「疲労のVAS(ビジュアルアナログスケール)」です。10センチのラインの左端が「疲れを全く感じていない最高の状態」、右端が「もう何もできない最悪の状態」とし、朝起きたときの自分の状態にばってんをつけて物差しで測ります。主観を数値化することで客観的に自分の状態を把握できる方法であり、日本疲労学会のホームページより実際に資料をダウンロードすることができます。
2つ目は労働安全衛生総合研究所が提供している「疲労測定アプリ」。スマートフォンにて活用できる無料のアプリで、その時の自分の疲労状態を簡単に測定することができます。
3つ目は「自律神経測定アプリ」です。顔を10秒間カメラで撮影すると、目の下の血管の中の流れを測定し、自律神経の状態を観察。疲労の初期症状として自律神経の乱れが出るため、自身で変化を把握することで早めの対策が可能になります。
「休むことに真剣に向き合ってほしい」

「昭和のCMで挙げられた『日本のサラリーマンは24時間、戦えます』というキャッチコピー。当時は携帯電話もパソコンもなく、無意識にオンとオフを切り替えられていました。しかしパソコンやスマートフォンが普及した今、本当に24時間戦える時代になってしまった。だからこそ、自分から休みを作らなければならない時代」と片野博士。
「『疲労対策は欲求に従う時代から、自らの攻めの休養の時代へ』。休養へのリテラシーをつけて対策を講じ、休むことに真剣に向き合ってほしい」(片野博士)
7タイプの休養法を意識し、自分に合った方法を組み合わせながら、リカバリーを最大化する。仕事・ランニングに対しストイックに向き合う人にこそ「攻めの休養」が求められるはずです。
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