管理しない管理で選手の自主性を伸ばす。世羅高校時代から青学大・原監督が学んだもの
Jan 01, 2017 / HOW TO
Apr 26, 2019 Updated
今年は「サンキュー大作戦」。
これは、第93回箱根駅伝で、箱根3連覇で史上4校目の「大学駅伝3冠」を狙っている青山学院大学のテーマ。これまで同大学では、15年に「ワクワク大作戦」を、そして、16年に「ハッピー大作戦」と題して箱根を制してきました。
「これまで多くの方々に支えられてきた。感謝の思いを込めて“サンキュー大作戦”」と語る青学大の原晋監督。今年は、エース・一色恭志が2区を走り、他にも強力メンバーが揃っている同大学。一体、どのような結果になるのか楽しみですよね。
さて、これまでインパクトあるテーマを用意し、箱根で結果を出してきた原監督。そんな原監督のバックグラウンドはどのようなものだったのでしょう。原監督の背景が、世羅高校の陸上競技部・岩本真弥監督との対談で明らかになっています。原監督も岩本監督も同じ世羅高校の出身。岩本監督が原監督の1学年上となります。
世羅高校は2015年の高校駅伝男女アベック優勝。これまで男子は5度、女子は1度日本一に輝いている伝統校です。
そんな世羅高校ですが、当時はかなりの体育会系のチームだったようです。岩本さんも「悪しき伝統」と自著『駅伝日本一、世羅高校に学ぶ「脱管理」のチームづくり』でふり返っています。
悪しき伝統とはつまり、体育会系部活動独特の歪んだ上下関係です。「ほとんど軍隊に近い上下関係、理不尽な命令、根拠のない精神論、きまぐれな暴力、いじめられた後輩が上の学年になると新入生に倍返しをするという終わりなき連鎖……」。想像するだけでも苦しい世界です。このような環境は世羅高校だけでなく、当時の体育会系部活同では、少なからずとも見られた光景かもしれませんね。
当然、練習中に水は飲めませんし、練習後は先輩のマッサージを延々することも。情報を制限するためにテレビも自由に観られません。現在のスポーツをする環境からすると想像もつかない真反対の世界です。
「食事も晩ご飯のおかずがイワシ1匹に粕汁とか。弁当のおかずはサバの缶詰とか、まぐろフレークにかまぼことか」(同書より)
もう耳を閉じたくなるほど、厳しいです……。
そんな時代を経験した両監督は、今は“正反対”の指導方針をとっている点が興味深いですね。これまでガチガチで選手を管理してきた時代からはずれ、「生徒が管理されていないように感じる管理」を目指しています。押しつけるのではなく、選手の自主性をのばすことに注力。そして、速い選手ではなく「強い選手」を育成するのです。
いまの時代、陸上選手を強化するための情報や環境は、どこも軒並み同じものをもっています。それでいて結果が異なるのは、もっと本質的な部分に問題があるはずと両者は考えます。「これまでだけのやり方では、日本の陸上界は強くならない」と。
ここで面白いデータが一つ。
原監督が、「陸上に関する日本記録で20年以上破られていないもの」を調べたとのこと。すると、男子の場合、100mから50kmウォークまで全25種目があるのですが、6種目が記録更新されていないのです。円盤投げは37年も更新されていません。他にも100mで10.00秒の日本記録は18年前。マラソン日本記録は14年前と、意外にもかなり前のものとなっているのです。
この原因は、陸上の世界で「ここ何十年も同じやり方が繰り返されたから」と考えられます。
そこで、岩本監督や原監督のような、「本質にせまる指導者」がいま、その流れを変えようとしているのです。もちろん、本質にせまる指導とは、前の時代と正反対に優しくなることだけではありません。原監督が規則正しい生活を重んじており、そのルーツは世羅高校時代の寮生活にあると言います。ですので、厳しい駅伝魂を知っている指導者が、新しい指導方法に挑んでいるんですね。過去と未来と良いところ取りしたハイブリッド型。
そんな指導者のもと、1年間走り続けた青学大。箱根の道でどのようなパフォーマンスを見せるのでしょうか。スタートの号砲はもうすぐです。
■adidas running 青山学院大学駅伝チーム season 2016-2017