東京〜福島間の330kmを4日間で走る!?IAU24時間走で優勝した井上真悟選手にインタビュー

2016年11月19〜20日に台湾で開催された『IAU24時間走アジア・オセアニア選手権』。そこで見事に優勝を飾ったのが、ウルトラマラソンランナーの井上真悟選手です。今回は井上選手から、競技に取り組む理由や日々のトレーニング等について、詳しく詳しくお話を伺いました。

結果を求めて走り続ける理由

素晴らしい逆転劇から『IAU24時間走アジア・オセアニア選手権』で優勝した井上選手。しかし高気温下ということもあり、実は19時間が経過した頃、熱中症で倒れてしまったと言います。

「一度は入賞さえ絶望的に思えていたので、優勝という結果には自分でも驚いています。しかし倒れた直後、サポートスタッフが迅速に補給を手伝ってくれました。ラスト1時間のタイミングではトップとの正確な距離差も教えてくださり、だからこそ、諦めず最後で勝機を見出すことができたのだと思います。」

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24時間でどれだけ多く走れるかを競う24時間走。シンプルに感じる競技ながら、情報戦略など非常に奥深く、優勝という結果は井上選手1人で得られたものではないようです。

「競技者はライバルとの位置関係が全く掴めません。しかしサポーターが選手にとって必要な情報を与えてくれたとき、やる気というエネルギーが生み出されるんです。そういう意味で、今回の勝利は僕1人では得られないものでした。サポートスタッフには、とても感謝しています。」

選手にとって必要な情報は、1人1人の目的によって大きく異なるでしょう。ではいったい、井上選手にとって走る目的とは何なのでしょうか。

「実は過去にも一度、2010年に開催された24時間走の世界選手権で世界チャンピオンになっているんです。その際は『BORN TO RUN』という本でも有名なアメリカのスコット・ジュレク選手と過酷な心理戦・消耗戦を繰り広げ、7km近い差で優勝できました。しかし帰国しても、このことがメディア等に取り上げられることはなかったんです。たとえ世界一になっても選手として注目されない。これは、ウルトラマラソンがプロスポーツとして発展するための下準備が、日本ではまたできていないからだと気付きました。ですから私は自身の競技を通じ、この競技をもっと広く知ってもらう必要があると思ったんです。そのためには、やはり結果を出し続けるしかありませんよね。」

日本では“趣味の一つ”に過ぎないウルトラマラソン。しかし隣国・台湾では競技として認知されており、井上選手は活動の舞台を台湾へとシフトします。2010年からの6年間を台湾でのアスリート活動に集中。2013年の『台湾一周1100km』優勝、さらに2016年4月には『台湾横断246km』優勝という成績を残し、台湾での自伝出版も果たしています。

「僕は20代の頃から、どうしても自著という手段で、ある社会問題に挑戦したいという思いがありました。それが、親からの虐待や経済的な事情で家庭を持てない子どもたちに対し、マラソンを通して勇気を与える活動。私自身も幼少期には辛い経験を持っており、その経験に対する反骨精神が、現在アスリートとしての強さに繋がっています。」

勝つためのトレーニング方法

強い思いを持って競技に取り組まれている井上選手は、トレーニングの面でもストイックさを持っていました。

「今回のレースに向け、最終的なトレーニングとして東京〜福島間の330kmを4日間かけて走りました。さらにその間は毎日、約80km先の児童養護施設へ走って訪れ、施設児童にマラソンの体験談を伝えていったんです。」

330kmという距離だけでも常人離れしていますが、さらにその道中で児童養護施設を巡ったという井上選手。20代の頃からこの活動を始めたそうですが、実はご自身がトレーニングするうえでの動機付けにも繋がっているようです。

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「レース本番より遥かに長く、そして苦しいトレーニング期間。そこで追い込んでいないランナーが、本番だけ結果を出せることなんて絶対にありません。しかし誰も見ていない日常生活の中こそ、人って怠けやすいですよね。誰も応援なんてしてくれませんから。でもトレーニングが『誰かに会いに行く』ための手段だと、少し違ってきます。例えば子どもたちに『○時に会いに行くから』と約束すると、僕にとって毎日が関門時間の決まったレースになるんですよ。ですから今回、私は子どもたちという存在に力をもらって、勝つためのトレーニングができたと思っています。」

マラソンのトレーニングといえば、スピード練習やスタミナ強化など多様。1日80kmという距離走をベースとしつつ、もちろん井上選手も工夫を凝らしてトレーニングに取り組んでいます。

「もちろん、いわゆる陸上競技選手が行う心肺トレーニングやペース走のような練習も行います。しかしウルトラマラソンは、身体能力だけで勝てる競技ではありません。一度にレースと同じ距離を走ることはありませんが、複数回に分散してでも、今回のような詰め込み型のトレーニングは大切だと考えています。なぜなら、これによって自分の弱点に気付けるから。今回、4日間で330kmを走りながら気付いたのは、消化機能の低下でした。」

課題にマッチしたサプリメントの選択

消化機能の低下というウィークポイントに、トレーニングを通じて気付いたという井上選手。ではレース本番、どのように補い優勝へと繋げていったのでしょう。井上選手によると、24時間走で勝つために忘れてならないのが『エネルギー補給』『ミネラル補給』『筋ダメージの軽減』という3点だと言います。

「24時間という長丁場、体内に溜めたエネルギーだけではパフォーマンスを維持できません。そのため、レースの中に効率よくエネルギーを取り込み続ける必要があります。しかし次第に内臓機能が弱っていくと、レース前半なら食べられたエネルギージェルなどの人工物すら、中盤以降では胃が受けつけなくなってしまうんです。」

私もウルトラマラソンにはよく出場しますが、確かに食べ物が受け付けられず、レースをリタイアする選手は少なくありません。消化機能が弱いということは、それほど大きな課題と言えます。

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「そうなると、サプリメントでの補給はとても重要です。しかしサプリメントと言っても、例えば活性酸素の除去やBCAA補給など種類はさまざま。必ず1つのものに絞って検証テストしないと、本当に効いているのか分かりません。そのため、事前に行った4日間330km走で検証しました。そして本番、『IAU24時間走アジア・オセアニア選手権』で選んだサプリメントがカツサプです。実際にカツサプを摂取して走った際、翌日に筋肉痛がなく本番での使用を決めました。消化機能が落ちた後半には、お粥や味噌汁に溶かして摂取。この“溶かして飲める”という点も、消化機能の低下という課題にマッチしていたと思います。お陰で乳酸を上手くエネルギー転用し続けられ、ラストスパートでの逆転に繋がりました。」

もともと、サプリメントのように人工的なものを嫌っていた井上選手。しかしカツサプは主成分が天然の魚から抽出されており、その点も決め手になったようです。

トレーニングを通じて課題を発見し、克服するための術を持ってレースに挑む。当たり前のようでいて、なかなか実践できているランナーは少ないでしょう。これから、井上選手がどのような活躍を見せてくれるのか。ウルトラマラソンの未来に、注目してみてはいかがでしょうか。


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井上 真悟(いのうえ しんご)

1980年生まれ、東京都出身。ランニングコーチ。児童養護施設就学支援『カナエールコンテスト』アンバサダー。

父の他界を機に『サハラ砂漠マラソン』へ挑戦し、2年連続で日本人1位。その経験を、日本全国の児童養護施設を走って訪れながら施設児童に伝えている(北海道縦断往復1088km、東京-鹿児島1500km、東京-青森800kmを走破)。その後、24時間走に焦点を絞った競技に取り組み、2010年に史上最年少での24時間走の世界タイトルを獲得する。現在は2020年の『アメリカ大陸横断駅伝』開催を目標に活動中。

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